背景:血小板低値はアルコール多飲や肝障害,術前治療の影響,血液疾患の存在を反映し,手術後の短期,長期成績に悪影響を与えると推測されるが,これまでに血小板低値と食道癌術後の短期,長期成績との関連についての報告はない。対象と方法:2005年4月から2017年9月に食道癌に対し一期的食道亜全摘術を行った570例を対象とした。術前の血小板値は低値(<13万),正常(13万~35万),高値(>35万)の3群に分類した。各群の短期,長期成績を後ろ向きに調査した。結果:症例数の内訳は,低値群33例(6%),正常群512例(90%),高値群25例(4%)であった。低値群では肝疾患の併存が有意に多かった。短期成績については,低値群では有意に出血量が多く,これは開胸手術と胸腔鏡下手術に分けても同様の結果であった。長期成績に関しては,血小板低値群では有意に全生存が不良であり,とくにcStage I,IIで予後不良であった。血小板低値は全生存の独立した予後不良因子であった(ハザード比2.41,95%信頼区間(1.370-4.219),p=0.002)。結語:血小板低値は併存疾患,栄養状態などの患者背景で不利な点が多く,また出血量が多いことによる手術操作の手控えなど,OSに悪影響を与える原因になると考えられた。
House dust mites(HDMs)などの室内アレルゲンが気管支喘息(以下,喘息)の発症や増悪に影響し,室内環境整備によるアレルゲンの除去で喘息患者の臨床症状などが改善したと報告されている。しかし,室内環境整備の具体的な方法についての検討はいまだ不十分である。このため,本研究は喘息患児を対象に,プロ集団による室内環境整備としての室内アレルゲン除去が喘息コントロールに与える影響について検討をおこなった。喘息患児(24人)を対象として,プロ集団による徹底した室内環境整備群(介入群13人)と患者家族が行う室内環境整備群(対照群11人)で2群間比較試験を実施した。介入群はプロ集団がそれぞれの居宅でもっとも適切な掃除方法を実演し,患児家族にその方法を指導した。対照群は患児家族がそれぞれの方法で掃除を続けた。各群で室内環境を整備し,環境整備前(0週),後(12週)の時点における,喘息コントロール(childhood asthma control test: cACT),末梢血好酸球数,血清総IgE値などで評価をおこなった。cACTの総スコアは対照群では室内環境整備前後で有意な変化を認めなかったが,介入群では室内環境整備前後で有意な改善を認め(p<0.01),さらに対照群に比しても有意に改善していた(p<0.05)。末梢血好酸球数(p<0.05),血清総IgE値(p<0.01)は対照群で室内環境整備前後において有意な増加を認めた。徹底した室内環境整備により,室内アレルゲンが除去され,喘息患児の喘息症状コントロールは改善すると考えられた。
一側声帯麻痺の音声改善術の中で披裂軟骨内転術は最も生理的内転に近いといわれる。後部声門間隙や声帯レベル差の大きい例は披裂軟骨内転術の良い適応だが,声帯の弓状変化のある例においては不十分なこともあり,その場合は甲状軟骨形成術I型を併用することが多い。われわれはこれまで一側声帯麻痺に対しリン酸カルシウム骨ペースト(BIOPEX®)声帯内注入術を施行してきた。喉頭内腔から行う甲状軟骨形成術I型ともいえる。ただし高度な後部声門閉鎖不全やレベル差の例では音声改善が不十分な場合もある。一側声帯麻痺による高度な嗄声をきたした2症例に対し披裂軟骨内転術とBIOPEX®注入術を併用し良好な音声改善を認めたので報告する。術前に高度な後部声門間隙,声帯レベル差がありMPTは3秒以下であった。術後2例ともMPT 12秒となった。披裂軟骨内転術と甲状軟骨形成術I型を局所麻酔で行うことは選択肢となる。しかし全身麻酔希望の場合,甲状軟骨形成術I型では視野がとりづらく声帯内方移動に難渋する。BIOPEX®注入術は声帯を喉頭鏡で直視下に確認することができ注入も確実なため,披裂軟骨内転術と併用する術式としてひとつの選択肢になり得ると考えた。
嚥下障害とともに持続性吃逆を呈した喉頭帯状疱疹の2例を経験した。症例1は59歳男性。咽頭痛と嚥下障害を主訴に受診。喉頭内視鏡では喉頭蓋喉頭面の正中から右側と右披裂部粘膜に白苔の付着を認め,右声帯は傍正中位にて固定していた。症例2は69歳男性。咽頭痛と嚥下障害の後に左顔面運動障害をきたし,受診した。左耳介に帯状疱疹と見られる小丘疹を認め,高度の左顔面神経麻痺を伴っていた。喉頭内視鏡では喉頭蓋喉頭面の正中から左側と左披裂部粘膜に片側性に白苔の付着が見られ,左声帯は傍正中位にて固定していた。嚥下障害が軽快してきた頃から上記の2例とも遷延性吃逆が見られた。嚥下造影検査を施行したところ,これらの2例とも食道胃移行部に明らかな造影剤の停留が観察された。吃逆は種々の薬物療法に抵抗性であったが,症例1では11日後に,症例2では18日後に自然消退した。本報告では,喉頭帯状疱疹の初期治療における問題点につき文献をもとに再考した。加えてVZV感染における下部食道の病態を,持続性吃逆の発生機序と絡めて解剖学的,生理学的な側面から考察した。
進行した高位頸部食道癌症例に対して喉頭温存手術を行う場合には,臨床的因子のみならず,患者背景も考慮にいれた総合的な判断が求められる。今回われわれは,複雑な因子を抱えた症例の治療を行い,発声機能を温存できた症例を経験したので報告する。症例は20歳代前半の女性で以下のような問題点を認めていた。①引きこもり状態であるが声楽科を目指しており歌うことだけが人生の希望,②身長162 cm,体重115 kg,BMI 43.8,③輪状軟骨直下から胸部食道にかけて全周性に腫瘍を認め高度の食道狭窄あり。気管膜様部に浸潤が疑われcT4。水分摂取も困難,④右扁桃に同時性中咽頭癌(T1)あり,⑤患者は強く発声機能の温存を希望。化学療法(FP×3)と同時に食道に45 Gy,咽頭に対して70 Gyの照射を行った。この間手術に向けて減量を行い体重は30 kg減少,中咽頭はCR,頸部食道はPRでT3相当に縮小した。多職種のキャンサーボードで術後の精神的サポート体制を確認し手術を行った。幸い術後反回神経麻痺を生じることなく発声機能は温存できた。機能温存と生命予後との両立の困難さを痛感させられた症例であった。
頭頸部手術により気管に外科的侵襲が加わった場合,気管内に肉芽・浮腫が生じ気道狭窄が生じることがある。今回頭頸部手術後に気管内に肉芽・浮腫が生じた3症例を経験し,いずれもトリアムシノロンアセトニドの局所注射が効果的であったので報告する。症例1は50歳女性で,甲状腺癌に対し気管合併切除して気管皮膚瘻とした際に,声門下から気管内に肉芽を生じた。トリアムシノロンアセトニドの局注を3回行ったところ肉芽は消失し,皮弁手術により気管皮膚瘻の閉鎖を行うことができた。症例2は71歳男性で,喉頭摘出後にvoice prosthesis留置を行った後に,voice prosthesis周囲に肉芽を形成し発声困難となった。Voice prosthesisを交換しても肉芽は消失しなかったため,トリアムシノロンアセトニドの局注を3回行った結果,肉芽は消失し発声可能となった。症例3は81歳男性で喉頭気管分離術後の多系統萎縮症患者。永久気管孔後壁が浮腫状となりカニューレ抜去できない状況であった。トリアムシノロンアセトニド局注を2回行い,浮腫は消失しカニューレフリーとなった。