今回われわれは,2005年から2018年までにEjnell法による声門開大術を施行した両側声帯運動障害例を対象に臨床的検討を行った。症例数は21例(男性12例,女性9例),初回手術時の平均年齢は55歳であった。声帯運動障害の原因は,術野における両側反回神経の損傷による術後性麻痺が8例(38%)と最も多かった。その中でも甲状腺手術(甲状腺癌に対する甲状腺全摘術)が6例(29%)と最も多かった。初回手術において,術側は右が2例,左が19例であった。12例は初回手術後に有害事象なく経過し,気管切開孔を閉鎖し得た。残りの9例中7例に開大不良,2例に牽引糸の感染を認めた。このうちの6例に追加のEjnell手術をし,4例は声門開大が得られた。その結果,最終的に21例中16例(76%)で気管切開孔が閉鎖し得た。最終的に気管切開孔を閉鎖できなかった5例中4例では声帯・披裂部・輪状披裂関節の器質的異常が原因と考えられ,こうした症例では声門開大術が奏効しにくい可能性を予め念頭に置き,より適応を慎重にすべきである。
今回,われわれは輪状咽頭部弛緩不全症,ワレンベルグ症候群,封入体筋炎の3例に対して経口的な内視鏡下輪状咽頭筋切断術を行った。ワレンベルグ症候群例はさらに喉頭挙上術と咽頭弁形成術を追加した。いずれも重篤な合併症はなく,嚥下障害は改善した。従来の外切開による輪状咽頭筋切断術と比べ,頸部切開を必要とせず患者に対しては低侵襲であり,特に嚥下障害を発症することが多い高齢者に対して有用な方法である。今後の更なる普及と検証が期待される。
食道穿孔は日常診療において時に経験する病態であるが,多くの場合生じた穿孔は頸部や縦隔内と交通するため,頸部感染症や縦隔炎を誘発し,時に重篤となることがある。また開胸を伴う胸部外科手術と頸部手術の併施は,術直後の縦隔炎発生の可能性が高まるため,一般には敬遠されている。
今回われわれは胸骨正中切開を伴う大動脈弁置換術直後に,歯科用補綴物による頸部食道穿孔をきたした1例を経験した。症例は66歳の女性で主訴は頸部異物である。開胸手術直後に頸部に迷入した異物が確認され,直ちに頸部外切開による異物摘出術および瘻孔閉鎖術が施行された。異物は歯科用補綴物(クラウン)であり,金属製の突起を歯根に埋め込むタイプのものであった。本症例は開胸手術直後であったにもかかわらず頸部外切開手術を全身麻酔下に施行できたこと,異物を速やかに発見・除去できたこと,頸部創と胸部創が連続しないようにしたこと,気管切開を施行せずに術後も気管内挿管のまま気道管理をしたことが重篤な合併症を誘発しなかった理由としてあげられた。
近年,彎曲型喉頭鏡を用いた咽頭・食道異物摘出術の報告が散見されるが,その症例を集積した検討はない。当院において本手技にて摘出しえた咽頭・食道異物を最近4年間で4例経験したので,当院での症例および諸家の報告を含めて臨床的検討を行った。代表症例の下咽頭魚骨異物1例を提示する。症例は63歳女性。ブリの摂食後より咽頭異物感があり前医より紹介された。両側梨状陥凹に横たわる魚骨異物を認めた。刺入した魚骨を中央で裁断することにより摘出可能であり,摘出手技による粘膜損傷を回避することができた。本手技にて摘出した咽頭・食道異物は現在まで6編7例が報告されており,当院での症例を含めた11例の臨床的特徴を検討した。平均年齢は72.5歳であり,異物内容は魚骨が最も多かった。ほぼすべての異物が下咽頭から頸部食道にかけて介在した。いずれの症例においても,従来の機器では得られなかった術野とワーキングスペースを確保することにより,容易に異物の裁断や牽引操作,周囲粘膜の切開などを行うことができた。彎曲型喉頭鏡を用いた経口的摘出術は,下咽頭から頸部食道に介在する異物に対して有用と考えられる。
キャッスルマン病は1954年に病理医であるキャッスルマンらにより縦隔に限局した胸腺類似のリンパ過形成として初めて報告されたリンパ増殖性疾患である。その後Kellerらが1972年に本疾患を病理組織学的特徴から再検討を行った。濾胞内外の血管造成と小型の萎縮性濾胞を特徴とした硝子血管型と濾胞間組織に成熟した形質細胞のシート状増殖を特徴とし血管造成をほとんど認めない形質細胞型に分類した。キャッスルマン病の診断には病理組織学的所見が重要であり,組織診断なしに診断することはできない。病理組織学的診断を行う上でリンパ節の基本構造が保たれているという特徴があげられる。リンパ節の基本構造が保たれているか否かは病変全体を観察する必要性があり一部を生検したのみであると反応性リンパ節腫脹や良性リンパ節病変と診断され確定診断に至ることが難しくなる。今回われわれは開放生検を施行した結果,頸部良性腫瘍と診断され経過観察されていたキャッスルマン病の1例を経験した。キャッスルマン病を念頭に置いた際には治療と診断を兼ねて可能なかぎり全摘出術を施行することが大切である。
臨床上,転移性甲状腺悪性腫瘍に遭遇する機会は少ないと言われている。さらに,肝細胞癌の甲状腺転移はいくつかの症例報告を認める程度で非常に稀である。今回,肝細胞癌の甲状腺転移により嚥下障害となり,QOL維持を含め甲状腺全摘,喉頭合併切除を行った症例を報告する。症例は77歳男性。肝細胞癌術後,肺転移にて通院中に喉頭浸潤を伴う甲状腺腫瘍を指摘され紹介受診となった。予後は限られているが,腫瘍が比較的急速に増大し嚥下障害を起こしていることからQOL維持目的も含め手術を行う方針とした。喉頭温存のため段階的手術も検討したが,多段階手術による加療の長期化リスク,発声機能温存より確実に食事が取れることを希望したことなどから喉頭全摘を伴う甲状腺全摘術を施行した。手術後の病理結果は肝細胞癌甲状腺転移であった。手術後は肺転移巣の縮小,腫瘍マーカーの低下を認め,分子標的薬を継続しながら通院加療のみで生活している。転移性甲状腺悪性腫瘍は稀であるが,気道閉塞による窒息や嚥下障害など著しくQOLを害する場合がある。手術加療が緩和目的にも適応になると考える。