頸部神経鞘腫の手術方法では神経機能温存目的に被膜間摘出術が行われているが,腫瘍と由来神経が連続していたため神経を切断して摘出したという報告は多い。今回われわれは神経鞘腫の解剖学的構造を理解し,適切な被膜間摘出術を行うことと,由来神経を切断しないと摘出できないと誤認するメカニズムを検討する目的で模型を作成した。この模型を用いることで神経上膜内には結合組織があり,誤った層で剥離を進めると由来神経線維以外の神経線維と腫瘍が連続しているように観察され,神経を切断しないと摘出できないと錯覚することを再現した。模型の構造を理解することで,真の腫瘍被膜を確認し適切な剥離面で摘出することの理解も深まり,術後の神経脱落症状の減少に役立つ可能性が示唆された。
サルコペニアの摂食嚥下障害は,全身および嚥下筋のサルコペニアによって生じる嚥下障害と定義される(Fujishima, I., et al., Geriatr. Gerontol. Int., 19:1-7, 2019)。サルコペニアの摂食嚥下障害の原因として,加齢による原発性サルコペニアの他に活動低下,低栄養,疾患による二次性サルコペニアがある。今回われわれは薬剤性嚥下障害を契機とする低栄養により二次性サルコペニアが進行し,サルコペニアの摂食嚥下障害を併発したと考えられた1例を報告する。症例は86歳女性。嚥下障害を主訴に当院紹介受診。経過から薬剤性嚥下障害を疑い,薬剤調整を行うも症状改善を認めず。嚥下障害に対して外来で摂食嚥下リハビリテーションを行うも約5カ月で14kgの体重減少を認めた。早期経口摂取と在宅による栄養管理を希望し,喉頭挙上術を施行した。術後は早期に常食が摂取可能となり,10カ月で約10kgの体重増加を認めた。2年経過し,現在は外食や旅行も行っている。嚥下障害の原因としてサルコペニアの摂食嚥下障害の可能性がありと推察された。サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性ありと診断された症例に対する喉頭挙上術は,短期間での嚥下機能の改善に有用な治療選択肢のひとつであると考えられた。
食道粘膜下膿瘍は比較的稀な疾患であり,診断に難渋することがある。食道異物や内視鏡による粘膜損傷が原因とされる報告は散見されるが,頭頸部領域感染症からの波及が原因であった報告は稀である。今回,われわれは頸部から感染が波及し診断に難渋した食道粘膜下膿瘍の1例を経験したため文献的考察とともに報告する。症例は78歳女性,咽頭痛を主訴に来院され造影CTでは右口蓋扁桃周囲から下咽頭に連続した気腫および食道の拡張を疑う含気像が見られた。抗菌薬加療で改善なく,造影CTにて食道粘膜下膿瘍が疑われた。食道穿孔の可能性が否定できず抗菌薬加療を継続したが,膿瘍の増悪を認めたため,上部消化管内視鏡下ドレナージを施行し,著明な改善を得た。頸部から食道周囲へ進展が疑われる膿瘍では多診療科との連携が重要である。
Riedel甲状腺炎は稀な炎症性疾患である。今回,甲状腺悪性腫瘍を疑い手術をした結果,Riedel甲状腺炎の診断に至った症例を経験したため報告する。症例は64歳女性で,嗄声を主訴に受診した。甲状腺右葉腫瘤と右反回神経麻痺とを認めたため,甲状腺癌を疑い甲状腺亜全摘術を行った。病理ではRiedel甲状腺炎の診断に至った。術後1年で頸部膿瘍を発症して,治癒後からステロイド治療が開始された。術後1年3カ月で両側声帯麻痺を認めて,気管切開術が行われたが,術後1年6カ月に死亡した。過去の文献と比較・検討をして考察する。
血管周囲類上皮細胞腫瘍(perivascular epithelioid cell tumor;PEComa)は2002年のWHO分類で初めて取り上げられた稀な腫瘍である。多分化能を有する血管周囲類上皮細胞(perivascular epithelioid cell;PEC)に由来する間葉系腫瘍である。今回われわれはこれまでに報告のない副咽頭間隙に発生したPEComaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。症例は44歳女性。扁桃腫大で受診。右副咽頭間隙に石灰化を有する6.5cm大の腫瘤を認め,経口的に摘出した。病理診断はPEComaで良性であった。術後22カ月が経過するが,再発・転移は認めていない。