日本気管食道科学会会報
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71 巻, 4 号
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総説
  • ─頸部食道癌の手術的アプローチ─
    四宮 弘隆, 川口 了子, 手島 正則, 蓼原 瞬, 入谷 啓介, 古川 達也, 大月 直樹, 丹生 健一
    2020 年 71 巻 4 号 p. 291-296
    発行日: 2020/08/10
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル 認証あり

    頸部食道癌は希少疾患であり,全食道癌の中の約5%程度とされる。その希少性と部位的な特徴から,治療方針は施設によりさまざまで,標準治療の構築が難しい。特にQOLに直結する喉頭機能温存や手術侵襲に関連する食道全摘の適応については十分吟味する必要がある。そういった中で,近年導入化学(放射線)治療や根治的化学放射線治療(CRT)で進行癌に対しても治療成績の向上とともに喉頭温存を目指す治療がなされ,比較的良好な治療成績が報告されてきている。放射線や化学療法の強度を調節することで,高い治癒率と有害事象のコントロールが実現できる可能性がある。今後手術の役割は導入治療不応例への根治的手術や,根治的CRT後のサルベージ手術にさらにシフトする可能性がある。ただし頸部食道癌の手術は大きな侵襲を伴い,致死的な合併症も起こりうる手術であり,その合併症のコントロールが重要となる。喉頭温存手術については適応を十分吟味し,術後の誤嚥を起こさない工夫が必要となる。また特に放射線治療後の手術では気管壊死や術野感染症,縫合不全といった重篤な合併症が起こらぬような工夫が重要で今後さらに放射線治療後の合併症対策の重要性が増すと考えられる。

原著
  • 鳥居 淳一, 新橋 渉, 三谷 浩樹, 渡邊 雅之, 今村 裕, 岡村 明彦, 瀬戸 陽, 神山 亮介, 渡嘉敷 邦彦, 川端 一嘉
    2020 年 71 巻 4 号 p. 297-305
    発行日: 2020/08/10
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル 認証あり

    下咽頭癌と食道癌は重複癌として高率に合併する。手術適応症例であっても,手術を希望されずに放射線治療を希望されることは少なくない。RT後に遺残・局所再発した際に,救済手術として咽喉頭全摘・食道全摘が選択可能な場合がある。今回,2007年4月から2017年10月までに当院でRT後にPLTEを実施した7例を対象とし,手術内容,術後合併症について,後方視的に検討した。胸郭部分切除は4例に実施,有茎皮弁を用いた気管孔再建は5例に実施,腕頭動脈─気管転位を3例に実施した。術後合併症は5例にみられ,Clavien-Dindo分類でIIIa以上が3例,そのうち気管部分壊死は2例であった。気管部分壊死は2例とも再手術を要し,1例は再手術後42日で退院した。1例は再手術後に腕頭動脈からの出血をきたして死亡した。周術期死亡例を除く6例の入院期間の中央値は50日(39〜74日)であった。経口摂取に関しては,経管栄養併用は1例で,その他5例は経口摂取のみであった。RT後PLTEは重篤な合併症を起こしうる侵襲の高い術式であるが,根治治療の可能性が唯一手術のみの状況であり,十分に適応を検討し選択しうる術式と考えられた。

  • 黒田 一範, 橘 智靖, 小松原 靖聡, 直井 勇人, 信久 徹治
    2020 年 71 巻 4 号 p. 306-310
    発行日: 2020/08/10
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル 認証あり

    今回われわれは,咽頭食道憩室を5例経験したので頸部超音波検査を中心に報告する。内訳は男性2例,女性3例であった。年齢は58~73歳,平均年齢64歳であった。自覚症状は5例中2例に認めた。1例は嚥下時の左耳痛および頸部痛,もう1例は咽喉頭異常感であった。無症状3例の診断のきっかけは,甲状腺腫瘍の精査依頼が2例,悪性疾患治療後の頸部スクリーニング時が1例であった。超音波検査では全例,咽頭食道憩室は甲状腺左葉の深部に辺縁不整,内部に高エコーを伴う結節性変化として描出された。確定診断として行った食道造影検査では全例,憩室内に造影剤の貯留を認めた。超音波検査において甲状腺深部に食道に隣接する辺縁不整,高エコーを伴う腫瘤影を認めた場合には,咽頭食道憩室の可能性を念頭に置く必要がある。また超音波検査は,咽頭食道憩室の診断において不要な検査を避けるために有用と考えた。

  • 櫛橋 幸民, 上村 佐和, 江川 峻哉, 藤居 直和, 小林 一女, 嶋根 俊和
    2020 年 71 巻 4 号 p. 311-318
    発行日: 2020/08/10
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル 認証あり

    頸部には総頸動脈や内頸静脈をはじめ,咽喉頭,気管,食道,甲状腺や各種神経など生命維持の上で非常に重要な臓器が密集している。頸部刺創はこれらの重要な臓器を損傷する可能性があり,時として致死的な経過をたどることがある。そのため実臨床の場面では迅速かつ的確な対応が求められる。今回われわれは頸部刺創の6症例を経験した。年齢は31歳から80歳で30歳代と80歳代に二峰性のピークを認めた。男女比は3:3であった。受傷機転は明確な自死の意図があった自殺企図が4例で突発的な自傷が2例であった。頸部刺創はZone分類によりZone IからIIIに分類されるが,本検討ではZone Iが2例,Zone IIが4例,Zone IIIはみられなかった。頸部刺創症例の多くは精神疾患を背景に抱えており,創部への対応だけではなく精神的,社会的背景を含めた対応が必要となる。本検討でも全例に精神疾患が認められた。さらには自殺既遂の最大のリスクは自殺企図だと言われており,精神科をはじめ他科との連携が非常に重要である。

症例
  • 太田 俊介, 本橋 英明, 小林 宏寿
    2020 年 71 巻 4 号 p. 319-324
    発行日: 2020/08/10
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル 認証あり

    術前に胃潰瘍瘢痕を認めるも食道切除胃管再建を施行した3例を経験したので報告する。症例1は73歳男性で,既往に胃潰瘍があった。食道癌に対し,食道切除・胃管再建を施行した。術後5日目の胃管内の上部消化管内視鏡観察(以下EGDs)では,胃管粘膜の強い発赤を認め,絶食・経過観察とした。術後14日目には,粘膜色調は改善し,食事開始後退院した。症例2は,60歳男性で,既往に胃潰瘍があった。食道癌に対し,食道切除・胃管再建を施行した。術後5日目の胃管内EGDsで,胃管全周に厚い白苔を認めた。明らかな縫合不全・胃管壊死の所見は認めないため,絶食・経過観察とした。術後23日目には,白苔は脱落し縫合不全も認めず,食事開始後退院した。症例3は,術前のEGDsで胃角に潰瘍瘢痕を認めた。食道癌に対し,食道切除・胃管再建を施行した。潰瘍瘢痕は胃管作成で切除側に含まれた。術後のEGDsに問題なく,術後12日目に退院した。潰瘍瘢痕等,胃管の粘膜・粘膜下層に血流障害をきたす可能性がある場合は,胃管内EGDsの評価に基づいた慎重な経過観察が重要と考えられた。

  • 鈴木 詩織, 野村 研一郎, 熊井 琢美, 岸部 幹, 高原 幹, 片田 彰博, 林 達哉, 原渕 保明
    2020 年 71 巻 4 号 p. 325-330
    発行日: 2020/08/10
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル 認証あり

    副甲状腺嚢胞は頸部腫脹を呈する良性疾患で,機能性が10%,非機能性が90%を占める。機能性である場合は,嚢胞液の経皮的吸引や外科的切除が推奨される。Video-assisted neck surgery(以下VANS法)は,頸部切開手術と比較し安全面では劣らないにもかかわらず,術後の創部は衣服で隠れるため,審美性に優れているという利点がある。また,血管や神経,副甲状腺が拡大視野で確認可能であるという利点もある。近年VANS法による甲状腺腫瘍の手術報告は多いが,副甲状腺腫瘍の外科的治療では,頸部切開による単腺摘出(focused approach)が行われることが多く,VANS法による副甲状腺腫瘍摘出術の報告例は少ない。今回われわれは,機能性,非機能性副甲状腺嚢胞において,VANS法で摘出した2例を経験したのでここに報告する。

  • 金城 秀俊, 安慶名 信也, 金城 賢弥, 喜瀬 乗基, 上里 迅, 喜友名 朝則, 平川 仁, 真栄田 裕行, 鈴木 幹男
    2020 年 71 巻 4 号 p. 331-337
    発行日: 2020/08/10
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル 認証あり

    耳鼻咽喉・頭頸部外科医にとって前頸部腫瘤の症例にはよく遭遇するが,同腫瘤が上縦隔を超えて開胸に至る例は稀である。われわれは頸部から縦隔に連なる巨大成熟奇形腫の1例を経験したため報告する。症例は15歳,男性。当院受診2カ月前に左頸部痛を自覚した。受診1カ月前の学校検診で前頸部腫脹を指摘され前医を受診し,CT検査で頸部から縦隔に連なる腫瘤を認めたため当院紹介となった。腫瘤は可動性不良であり,気管は右に偏位していた。喉頭内視鏡検査では上気道狭窄や声帯麻痺は認めなかった。CT,MRI検査で腫瘤内部に脂肪組織を疑う部分や石灰化を認める嚢胞性病変を認めた。血液検査所見ではSCC抗原が6.8 ng/mlと上昇していた。上記所見より成熟奇形腫と判断したが精査中にも増大傾向にあり,窒息や悪性転化の可能性も否定はできず準緊急的に手術をした。頸部襟状切開とtransmanubrial approachにて腫瘤を摘出した。手術中はECMOをスタンバイしていたがECMOを使用せずに手術は終了した。術後病理は成熟奇形腫で悪性所見は認めなかった。術後一過性に左反回神経麻痺を認めたが,4カ月後には改善した。

用語解説
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