日本気管食道科学会会報
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72 巻, 4 号
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原著
  • 宮本 真, 齋藤 康一郎, 長瀬 美樹
    2021 年 72 巻 4 号 p. 187-195
    発行日: 2021/08/10
    公開日: 2021/08/25
    ジャーナル 認証あり

    輪状甲状靭帯は体表から近く,同部位正中附近には大きな血管や神経が少ないとされているため,輪状甲状靭帯穿刺・切開術は,緊急時の外科的気道確保の一つとされている。一方で,過去には輪状甲状靭帯部分を14G針で穿刺を行い,致死的出血に至った報告があることからも看過できず,穿刺・切開術を行う部位の解剖を熟知することが重要といえる。今回,日本人における輪状甲状靭帯部分を走行する血管や,穿刺・切開部位のサイズに関する解剖学的な検討を行った。今回,ホルマリンまたはピロリドンで固定された9献体(男性7名,女性2名)を用いた。輪状甲状靭帯部分は上甲状腺動脈から分枝してきた輪状甲状枝により血液供給されていて,本検討では9献体全例(左右の輪状甲状枝が交通した7献体と,右側のみの2献体)に輪状甲状枝が存在し,いずれも輪状甲状靭帯の上方1/3を走行していた。また,この輪状甲状枝から縦に下降する血管が6献体に存在し,さらに4献体において輪状甲状靭帯の中央付近に甲状腺錐体葉が存在した。輪状甲状間の大きさは,男女それぞれの平均値で下甲状切痕の高さでの両側輪状甲状筋内側縁間の距離は,12.3mm,9.5mmで,直下の輪状軟骨上縁との中央の高さでは9.2mm,6.0mmであった。また,輪状甲状靭帯の高さは男女それぞれ平均10.1mm,9.3mmであった。輪状甲状靭帯部分の血管の走行や,穿刺・切開部位の日本人における大きさの理解が,安全に輪状甲状靭帯穿刺・切開術を行う一助となると考えられた。

  • 最所 公平, 的野 吾, 森 直樹, 日野 東洋, 藤崎 正寛, 中川 将視, 田中 寿明, 光岡 正浩, 赤木 由人
    2021 年 72 巻 4 号 p. 196-203
    発行日: 2021/08/10
    公開日: 2021/08/25
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    頭頸部癌と食道癌の重複頻度は高い。今回,われわれは1995年から2017年の間に当院で経験した頭頸部癌治療後の食道癌症例48例における食道癌の診断および治療について検討した。頭頸部癌治療後の食道癌の頻度は全食道癌症例の3%で,8割は頭頸部癌診断後10年以内に診断された。治療に関しては内視鏡治療症例では合併症はなく,食道癌死もなかったが,手術症例や化学放射線症例では合併症が多く,先行する頭頸部癌治療のため治療が制限されることが多かった。全症例の3,5年生存率は44%,22%と予後不良だった。食道癌が頭頸部癌治療後の経過観察内視鏡で発見された群と症状で発見された群を比較すると,内視鏡で発見された群で進行度が低く(p=0.001),予後が良い傾向にあった(p=0.07)。頭頸部癌治療後は食道癌を内視鏡治療の適応となる進行度で発見するために定期的に年1回の内視鏡検査を行うべきである。

  • 阿久津 誠, 後藤 一貴, 今野 渉, 今井 貫太, 小黒 亮史, 滝瀬 由吏江, 頌彦 由丹, 平林 秀樹
    2021 年 72 巻 4 号 p. 204-210
    発行日: 2021/08/10
    公開日: 2021/08/25
    ジャーナル 認証あり

    小児に対する気管切開術はその手術手技だけでなく,術後のカニューレ管理についても問題となる。特にカニューレトラブルの際に適切に,そして素早く対応できるかどうかが重要であり,それができないと重篤な後遺症をきたしてしまう恐れがある。入院中の病棟における対応と退院後の対応でも多少異なるが,カニューレ管理についての指導・教育が中心となる。しかし実際に,有事の際に適切な対応ができるかと言われると疑問が残る。過去にわれわれは,縦切開で気管切開術を施行した小児症例で,カニューレ事故抜去後の再挿入困難・誤挿入を経験している。この苦い経験を踏まえ,長期にわたるカニューレ管理が必要となる症例に対して,Fee-Ward法を用いた気管開窓術をおこなっている。開窓することによってカニューレ事故抜去時のカニューレ再挿入を,誰でも安全かつ簡便に施行できるようにし,トラブルを最小限に抑えることができた。今回われわれは,当科で気管切開術を施行した小児115例を後方視的にまとめ,カニューレ管理という点に着目して報告する。

  • 飯島 宏章, 五島 史行, 山内 麻由, 寺邑 尭信, 酒井 昭博, 大上 研二
    2021 年 72 巻 4 号 p. 211-216
    発行日: 2021/08/10
    公開日: 2021/08/25
    ジャーナル 認証あり

    経鼻経管を用いた流動食の投与を行う際,高率に下痢が生じることをしばしば経験する。投与速度や比重の異なる栄養剤への変更,整腸剤の投与を行うものの下痢改善効果に乏しいのが現状であり,患者のQOLを低下,汚物の処理を行う看護師の労力・時間も無視できない。流動食に起因する下痢に対し,半固形経腸栄養剤の有用性が報告されているが,経鼻経管での投与は困難である。一方,胃内で液体から半固形状に変化する粘度可変型流動食であれば,経鼻経管での投与も可能である。われわれは液状の栄養剤を経鼻経管栄養で投与中に下痢を生じた患者に対し,粘度可変型流動食(マーメッドワン®)へ切り替え検討(検討項目:便性状,排便回数,投与時間)を行った。変更前に下痢を生じていたすべての患者で便性状,投与時間の改善を認めた。液体流動食における下痢対策の選択肢として,粘度可変型流動食の有用性を示唆するものであった。下痢の予防,投与時間の短縮により患者のQOL向上,看護師の業務軽減にも寄与しうる可能性がある。

症例
  • 田所 宏章, 福田 裕次郎, 三宅 宏徳, 原 浩貴
    2021 年 72 巻 4 号 p. 217-222
    発行日: 2021/08/10
    公開日: 2021/08/25
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    高度肥満患者に対する脂肪切除術を併用した気管切開術を行う経験を得た。患者は46歳男性。170cm,155kg(BMI 53.6)。心肺停止後の蘇生後脳症に伴い挿管管理をされている。長期気道管理を要するため気管切開術に関して当科へ紹介され脂肪切除術を併用した気管開窓術を施行した。輪状軟骨下端を底部とする両側胸鎖乳突筋の前縁までの横切開に胸骨突起までの縦切開を加えたT字の皮切ラインを設定した。定型的な中気管切開に準じて甲状腺を左右にsplitし気管前壁を広く露出させた。作成予定の気切孔周囲(レベルI・VI領域)のdefatを行った後に輪状軟骨前面をリウエル鉗子で鉗除,気管前壁を輪状軟骨の高さで開窓した。脂肪切除を併用した気管切開を施行したことにより術後の気道管理を容易に行うことができた。また気管内肉芽形成や腕頭動脈気管瘻といった合併症に関しても高位に気切孔を開窓する工夫や屈曲可能なラセン入りカニューレ(アジャストフィット®)を用いることで予防することができた。

  • 曽根 恵, 宇野 光祐, 渡邉 隼, 冨藤 雅之, 荒木 幸仁, 谷合 信一, 塩谷 彰浩
    2021 年 72 巻 4 号 p. 223-230
    発行日: 2021/08/10
    公開日: 2021/08/25
    ジャーナル 認証あり

    頸部壊死性筋膜炎は,頸部の筋膜を主座として皮膚・皮下組織や筋肉等に壊死性病変が急速に拡大する,現代でも致死率の高い疾患である。術後の合併症としては嚥下機能障害などが知られている。今回,頸部壊死性筋膜炎術後の著明な誤嚥に対し嚥下訓練を導入し,最終的に常食摂取可能となった症例を経験した。症例は78歳女性。頸部壊死性筋膜炎に対し広頸筋とその周辺組織を含む広範なデブリードマン・分層植皮を行い救命したが,術後著明な誤嚥(PAS, penetration-aspiration scale:7点)を認めた。嚥下訓練として,口腔の送り込み障害に対する口腔運動訓練,喉頭挙上不全に対する舌挙上訓練,開口訓練や頸部可動域訓練,咽頭収縮力の低下に対する前舌保持嚥下訓練などを実施したところ,嚥下機能の改善を認め,最終的に常食摂取可能となった。頸部壊死性筋膜炎後の嚥下機能障害を避けるためには,手術中の神経障害の回避,必要十分なデブリードマンに加え,術後早期からの嚥下訓練の開始が肝要と考えられる。

短報
  • 三浦 怜央, 中村 一博, 鈴木 啓誉, 大島 猛史
    2021 年 72 巻 4 号 p. 231-235
    発行日: 2021/08/10
    公開日: 2021/08/25
    ジャーナル 認証あり

    内転型痙攣性発声障害(AdSD)とは甲状披裂筋を責任筋とする局所ジストニアとされており,チタンブリッジ(TB)を用いた甲状軟骨形成術2型(TP2)の有用性が報告されている。TBの最小開大幅は2.0mmであり,2個挿置が推奨される。TP2後,声量不足を訴え,再手術を施行した症例を経験した。症例は30歳代女性,AdSDの診断で前医にて201X年にTP2を施行され,2.0mmのTBを2個挿置された。術後,声が小さいことを主訴として,201X+3年に当科にて再手術を施行した。術中所見で尾側のTBには異常は認められなかった。頭側のTBは左右の羽部の孔で破損していたが,開大幅2.0mmは維持されていた。両方のTBを抜去後,音声の悪化を確認した。尾側のみ開大幅2.0mmのTBを挿置すると,開大幅は尾側2.0mm,前連合部約1.5mm,頭側約1.0mmとなった。Mora法0/21,G0,声量は増大し,術後14カ月維持している。2個挿置が基本であるTBだが,尾側のみ開大幅2.0mmのTBを挿置することにより,製品最小開大幅2.0mm以下の開大幅とすることが可能であった。1個挿置は推奨されないが,本症例のごとく開大幅2.0mmでも過剰の際は,試すべき一手法と考えた。

用語解説
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