日本気管食道科学会会報
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72 巻, 5 号
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特集:気管食道科領域の再生医療
総説
  • 大森 孝一
    2021 年72 巻5 号 p. 245-252
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル 認証あり

    気管食道科領域は軟骨,粘膜,神経,筋など単純な構造の組織が多く,臓器再生の三要素を基本として新規技術を開発し,これらの組織を再生させる医療の実現が期待されている。気管食道科領域において,基礎研究ではin vitroのものからin vivoの段階に入ったものまでさまざまあるが,iPS細胞,MSC,線維芽細胞,脂肪組織由来幹細胞などの細胞移植や新たな足場材料としてビトリゲルなどの研究が行われている。臨床応用に到達したものは少なく,頸部気管と輪状軟骨は部分的ではあるが,生体内組織再生誘導型の人工気管により再生可能となり臨床応用まで到達している。bFGFやHGFによる声帯瘢痕治療も臨床応用されている。これらの医療技術については医師主導治験が実施されており,近い将来の実用化が待たれるところである。神経誘導チューブは上市されており,反回神経再建にも用いられている。また,口腔粘膜細胞シートは食道の術後狭窄予防に臨床応用されており,現在治験が実施されている。基礎研究の成果を臨床応用に結びつけるトランスレーショナルリサーチにより,より安全で効果的な治療法の実用化が期待されている。

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  • 岸本 曜
    2021 年72 巻5 号 p. 253-261
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル 認証あり

    気管の大欠損に対する外科治療では,枠組みの再建が必要となる。この場合,術後管理が難しく致死的な合併症をきたす可能性があること,複数回の外科処置が必要になる場合があることなどから,患者の負担は小さくない。そのため,安全かつ確実な気管再建方法の確立は,頭頸部外科医および呼吸器外科医にとって残された課題の一つであった。近年の再生医工学分野における発展とともに,人工気管開発を含めた気管再生研究が盛んに行われるようになってきた。実際,海外においては脱細胞化アログラフトを利用した気管再建術や,気管移植が臨床応用され,報告されている。また,本邦においても,ポリプロピレンとコラーゲンからなる組織再生誘導型人工気管や,培養耳介軟骨細胞と生分解性のポリ乳酸からなるインプラント型再生軟骨が開発され,臨床治験でその安全性および有効性が検証されている。現時点で,確立され実用化に至ったものは未だないが,昨今の医工学技術の進歩は目覚ましいものがあり,気管再生医療の早期の実現が期待される。

  • 平野 滋
    2021 年72 巻5 号 p. 262-270
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル 認証あり

    喉頭は軟骨,筋肉,声帯粘膜からなる複合組織であり,呼吸,発声,嚥下の3つの機能を有する器官である。これが不可逆的な損傷を受け重大な機能損失をきたすと,組織再生が必要となる。発声のための振動機能を失った声帯粘膜を再生するために,塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) と肝細胞増殖因子 (HGF) が優れた再生効果を持つことが確認され,臨床試験あるいは実地臨床応用の段階に至っている。また,ヨーロッパでは間葉系幹細胞を用いた声帯の再生に関する早期臨床試験が行われ有望な結果が報告された。bFGFは神経・筋再生効果もあり,麻痺後の声帯筋の再生効果が確認されている。喉頭半切や全摘後の欠損部の再生には,新たなbio-scaffoldが開発され研究されてきた。脱細胞細胞外マトリックスが喉頭半切後の再生土台として組織親和性に優れ,複合組織の一期的再生効果が動物実験で確認されている。また全喉頭の脱細胞技術が確立され,脱細胞した喉頭を用いた喉頭全摘後の喉頭移植も夢ではなくなってきている。再生医療の進歩は日進月歩であり,今後のさらなる臨床へのトランスレーションが期待される。

  • 荒木 幸仁, 鈴木 洋, 塩谷 彰浩
    2021 年72 巻5 号 p. 271-280
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル 認証あり

    反回神経障害に対する喉頭機能回復を目指した神経機能再生治療法の基礎研究について解説する。反回神経障害後の問題点として,(1) 疑核における運動神経細胞死,(2) 神経線維の変性および再生不良,(3) 運動神経終板変性,(4) 喉頭筋萎縮,(5) 過誤神経再生,があげられる。(1)~(4) については,これまでに遺伝子治療などを用いた研究により,一定の効果が報告されてきている。しかしながら (5) 過誤神経再生の問題により,形態的に神経が再生したとしても喉頭運動機能回復の可能性は低い。われわれは (1) 足場としての神経再生誘導チューブの有用性,(2) 感覚神経線維・自律神経線維再生阻害による過誤神経再生抑制効果,を検討した。(1) では再生治療の足場としてのみでなく薬剤徐放性を確認し,drug delivery systemとしての利用も可能であることが証明された。(2) では,運動神経線維-感覚・自律神経線維間の再生阻害による相対的な運動神経線維間の再生促進治療により,比較的高率な声帯運動の回復,運動神経線維の再生促進効果を認めた。今後,声門閉鎖機能再生を目指した声門開大筋への再生阻害治療と (1) (2) を組み合わせることで,喉頭機能再生を目指した治療戦略はさらに発展する可能性がある。

  • 大木 岳志
    2021 年72 巻5 号 p. 281-287
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル 認証あり

    食道粘膜上皮は重層扁平上皮細胞で構成され,基底膜上に存在するprogenitor cellから再生する。早期食道癌の内視鏡治療である内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) では,粘膜下層で剥離するためこのprogenitor cellを除去することになる。そのため,広範なESD後の切除部位つまり潰瘍は再生する際に炎症をきたし高頻度に狭窄する。筆者らは,細胞シート工学を応用して食道粘膜の代わりに口腔粘膜上皮細胞から作製した細胞シートを内視鏡的に潰瘍面に移植することで食道粘膜上皮を再生させる治療法を開発してきた。細胞シート工学は「温度応答性培養皿」を用いて,温度を下げるだけで細胞シートとして回収し移植することができる。細胞シートは細胞懸濁液の注射と比較して移植率は高く,扁平上皮細胞のstem cell/progenitor cellを移植するには有利である。既にわれわれは細胞シートを内視鏡的に移植したfirst in human (FIH) 試験を行いその有効性と安全性を確認している。本法は,扁平上皮細胞移植だけでなくさまざまな種類の細胞を消化管の内側から移植できる技術であり,新たな展開が期待できる。

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