はじめに:気管切開術は耳鼻咽喉科医にとって基本的な外科的手技である。耳鼻咽喉科疾患だけでなく,他診療科の挿管後の患者に気管切開術を依頼されることがある。長期挿管患者に対する施行時期や予後への影響について統一的な見解はない。方法:対象は2017年4月から2019年7月に気管切開術を施行した98例で,依頼診療科,原疾患,手術適応,術式,合併症,転帰を後方視的に検討した。また,長期挿管患者50例で手術時期による合併症発生率,死亡率を検討した。結果:性別は男性71例,女性27例,年齢は17〜95歳(平均70歳)であった。診療科別では98例中34例(35%)が当科であり,他は内科系が半数以上を占めていた。手術合併症の割合は既報告と同様であった。術後早期死亡例9例のうち5例が原疾患に伴う心肺機能低下が原因であった。長期挿管患者では,32例に合併症が認められ,22例が死亡していた。手術時期では早期群と晩期群の間で,長期挿管に伴う合併症の発生率,死亡率に有意差を認めなかった。結語:長期挿管患者に対する気管切開術の適応や施行時期については挿管日数だけではなく,原疾患の予後や全身状態を検討した上で決定することが重要である。
気管狭窄症は比較的稀な疾患であるため,各施設で取り扱う症例数が少なく,治療法が十分に検討されていない。今回,われわれは気管挿管後または気管切開後に発症した気管狭窄症8例の臨床経過を検討した。3例が気管挿管後,2例が気管切開後,3例が両者の後に気管狭窄をきたしていた。軟部組織により内腔が狭窄しているものを瘢痕型,気管軟骨が内陥しているものを軟骨内陥型に分類した。軽症の3例でステロイドによる保存的治療を行い,2例で病態の改善が得られた。瘢痕型の4例でトラフ法による気管形成術を施行し,粘膜移植を行わなかった3例で,ステントとして2カ月以上T-tubeを留置し内腔の拡大が得られた。軟骨内陥型の2例で枠組みの整復を行い,1例はスピーチカニューレをステントとして用い,1例は一期的に気管孔を閉鎖した。気管狭窄症は原因や発症時期により病態が異なるため,症例に応じて適切な治療法を選択することが重要である。
血管腫・脈管奇形は,ISSVA分類により国際的に標準化され,本邦では診療ガイドラインにより診断と治療指針について一定の見解が示された。咽喉頭に発生した血管腫・脈管奇形は,気道特有の慎重な管理を必要とし,治療方針の選択に苦慮することがある.2017~2019年に当科で咽喉頭血管奇形4例に対して加療を行った。症例は中咽頭側壁・前壁の動静脈奇形(AVM)1例,喉頭・下咽頭の静脈奇形(VM)2例,下咽頭後壁の混合型脈管奇形(リンパ管・静脈奇形)1例であった。治療はAVMの1例には塞栓・硬化療法を行い,その他の3例は経口的切除を行った。咽喉頭血管奇形の治療検討にあたり,血流の評価(slow-flowかfast-flow)が特に重要であり,診断には内視鏡・ドプラーを併用したエコー・造影MRI検査を中心に鑑別を行う。治療は外科的切除と硬化療法に大別され,各々長所と短所がある。最も頻度が高い咽喉頭の限局性VMでは,近年の頭頸部癌に対するELPSやTOVSといった経口的手術の発展により,脈管奇形にも径約4 cm大まで応用可能ではないかと考える。一方で,咽喉頭の巨大なfast-flow AVMに対しては,塞栓・硬化療法を中心に複数回の治療を組み合わせて,治癒ではなく病勢コントロールを目指すようになり治療は難渋する。
バルーン法は輪状咽頭筋機能不全を有する患者に対し用いられるリハビリ手技の一つである。今回われわれは舌癌治療後に重度の嚥下障害を生じ,数年間嚥下障害が遷延した症例に対して,バルーン拡張法を行い良好な効果が得られたので報告する。症例は72歳男性。当院初診から約4年前,舌癌に対し他院で左舌亜全摘術,両頸部郭清術,遊離皮弁再建,気管切開術,術後放射線化学療法が施行された。術直後より嚥下障害を認めており,治療終了後には嚥下不能となった。のちにお楽しみ程度の嚥下機能まで改善したが,経口摂取の強い希望があり当科へ紹介となった。嚥下造影検査では,咀嚼や食塊の送り込みなどの口腔期の障害に加えて,喉頭挙上不全や食道入口部の開大不全を認めた。嚥下障害の主病態が食道入口部の開大障害と考え,透視下でバルーン間欠拡張法を行ったところ即時効果が得られたため,後日リハビリ入院し,バルーン法を指導した結果,ペースト食を3食摂取可能となった。嚥下障害が遷延した症例に関して嚥下障害の病態把握とバルーン法などの治療的リハビリ手技を行うことで機能改善が得られる症例が存在することが示唆された。
喉頭原発悪性腫瘍のほとんどは扁平上皮癌であり軟骨肉腫は0.2%と報告されている。今回われわれは下咽頭喉頭頸部食道摘出術を要した喉頭軟骨肉腫例を経験したので報告する。症例は73歳,男性,20XX−1年6月より嗄声を自覚し前医を受診した。前医にて悪性腫瘍を疑われ精査加療のため20XX年5月当科を紹介受診した。画像上,咽頭・頸部食道後壁と癒着を伴っている喉頭軟骨肉腫の可能性が高いと判断し下咽頭喉頭頸部食道摘出術,両側頸部郭清,遊離空腸による再建を施行した。喉頭軟骨肉腫は比較的予後は良好であるが,一般に放射線療法や化学療法の効果は期待できない。本症例のように発見が遅れ喉頭全摘を避けられないケースも多い。早期発見できれば喉頭部分切除にて根治を望める疾患のため,早期発見が術後のQOLの鍵といえる。
硝子化索状腫瘍(hyalinizing trabecular tumor)は,1987年にCarneyらにより最初に報告された甲状腺腫瘍で細胞診の際に乳頭癌および髄様癌との鑑別が問題視される極めて稀な腫瘍である。今回われわれは,術前に乳頭癌というよりもむしろ硝子化索状腫瘍としての特徴を認めた手術症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は47歳女性。検診で甲状腺右葉に腫瘤を指摘され当科を受診された。頸部エコーでは境界明瞭だが内部不均一な9 mm × 14 mm × 16 mmの充実性腫瘤形成を認めた。穿刺吸引細胞診では乳頭癌のように核内封入体を伴う濾胞上皮細胞を認めたが,その細胞質は一部不明瞭で配列も小集塊をとっており,乳頭癌の特徴には合致しなかった。甲状腺右葉峡切除術およびD1郭清術を施行し,術後病理検査で硝子化索状腫瘍と診断された。本疾患は良性・悪性腫瘍の分類としては議論の途上で,甲状腺癌取扱い規約第8版では「その他の腫瘍」に分類されている。鑑別には細胞の形態や免疫学的染色や特殊染色が有用となる。術前に診断する方法や術式選択についても検討した。