日本気管食道科学会会報
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73 巻, 1 号
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原著
  • 相良 由紀子, 堤内 亮博, 田山 二朗
    2022 年 73 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2022/02/10
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル 認証あり

    喉頭乳頭腫は,その多くからヒトパピローマウイルスの感染を認める喉頭の腫瘍性疾患である。組織学的には良性だが,再発率が高いことや数%の割合で悪性転化することから難治性疾患の一つと位置付けられている。本邦での主たる治療法は外科的治療であり,当科ではNd:YAGレーザーを用いた喉頭微細手術を治療の第一選択としている。当科における手術成績を評価するため,2005年6月から2019年10月までの過去14年間に外科的治療を行った喉頭乳頭腫61症例について後方視的に検討を行った。平均年齢は51.9±19.7歳で,男性は40例に対し女性は21例であった。発生様式は単発型が26例,多発型が33例であった。平均治療回数は2.3回(単発性:1〜6回,多発性:1〜17回)であった。最終治療からの平均経過観察期間は36±31週で,最終的な転帰は,単回治療後に再発を認めない例が34例,初回治療後に再発を認めた例が24例で,再発例のうち複数回手術後に残存を認めている例が6例であった。病理学的所見では悪性転化を3例に認めた。今後,ウイルス型の検査を導入したり,補助療法の治療効果について症例を蓄積したりすることが検討課題である。

  • 宮部 淳二, 林 計企, 篠田 裕一朗, 木村 隆幸, 是松 瑞樹, 音在 信治, 藤井 隆
    2022 年 73 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2022/02/10
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル 認証あり

    下咽頭梨状陥凹癌に対し喉頭摘出を施行する際の気管傍リンパ節郭清について,患側の気管傍郭清については必須とされているが健側郭清の必要性については一定のコンセンサスは得られていない。今回,2005年1月から2015年12月に当科で喉頭摘出を伴う原発巣切除術を施行した下咽頭梨状陥凹癌117例を対象に,気管傍郭清の施行状況,気管傍リンパ節転移率,術後甲状腺ホルモン内服率,術後ビタミンD3製剤内服率,予後について後方視的に検討した。患側の気管傍リンパ節転移率は11.1%(117例中13例),健側の転移率は4.5%(22例中1例)であった。気管孔周囲再発を1例に認めたが化学放射線療法で制御されていた。気管傍郭清を両側施行した症例では患側のみ郭清した症例に比し,治療後の甲状腺ホルモン,ビタミンD3製剤の内服率が有意に高かった。臨床的に気管傍リンパ節転移が明らかでない下咽頭梨状陥凹癌に対し喉頭摘出を伴う原発巣切除術を施行する際,健側の気管傍リンパ節転移は稀であるため,患側甲状腺片葉切除+患側気管傍郭清(健側温存)は許容できる術式と考えられる。

症例
  • 笠原 健, 大久保 啓介, 菅野 雄紀
    2022 年 73 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2022/02/10
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル 認証あり

    下咽頭梨状陥凹瘻は先天性の内瘻であり,比較的稀な疾患である。下咽頭梨状陥凹瘻の治療は手術が第一選択であり,過去に頸部外切開,経口的瘻孔焼灼術,transoral videolaryngoscopic surgery(TOVS)による瘻管摘出術が報告されている。症例は13歳男児で,左前頸部痛を主訴に受診した。超音波検査で急性化膿性甲状腺炎の診断に至り,穿刺排膿および抗菌薬加療を行った。炎症の消退後に下咽頭食道造影検査を施行し,左梨状陥凹から連続する1 cm程度の瘻管を認め下咽頭梨状陥凹瘻の診断となった。全身麻酔下にTOVSによる経口的瘻管摘出術を施行した。術後経過は良好で再発を認めていない。TOVSによる瘻管摘出術は外切開を必要としないため低侵襲であり審美面に優れている。さらに瘻管を摘出後に咽頭を縫合閉鎖することで感染を遮断し,根治性にも優れる術式であると考えられた。

  • 堤内 俊喜, 意元 義政, 成田 憲彦, 藤枝 重治
    2022 年 73 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2022/02/10
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル 認証あり

    神経線維腫症1型(neurofibromatosis; NF-1)はまれに動脈狭窄・動脈瘤・動静脈瘻・動静脈奇形などの血管病変を合併すると言われている。血管脆弱性に起因すると思われるこうした血管病変は,発生箇所や条件によっては致命的な合併症を引き起こす。今回,NF-1に合併した胸肩峰動脈および上行咽頭動脈破裂に対して,緊急気管切開・血管内治療で救命しえた症例を経験した。同時に2カ所からの動脈性出血を起こし救命しえた例はまれであり,文献的考察を加えて報告する。症例はNF-1の61歳の女性,軽度の頸部への刺激後より急激な腫脹が出現したため受診した。気道狭窄に対して緊急気管切開を行い,創部からの著しい出血を認めたため出血源検索で施行した造影CTで右頸部に巨大血腫および造影剤の漏出を認めた。動脈破裂による急激な頸部腫脹を疑い,血管造影を施行し出血源に対してtranscatheter arterial embolization(TAE)を行い,止血を得られ救命することができた。NF-1症例で,頸部からの出血をきたした場合には緊急での気道確保が必要となると考えられ,われわれ耳鼻咽喉科・頭頸部外科医もこうした合併症について熟知しておく必要があると考えられる。

  • 藤﨑 正寛, 的野 吾, 森 直樹, 日野 東洋, 最所 公平, 中川 将視, 田中 寿明, 赤木 由人
    2022 年 73 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2022/02/10
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル 認証あり

    症例は66歳,男性。2007年にStage IVa胸部中部食道扁平上皮癌に対して化学放射線療法(CDDP+5-FU療法+60 Gy)を施行し完全奏効となったが,2016年に食道胃接合部腺癌と診断された。切除範囲に照射部位が含まれていたが,左開胸開腹下部食道噴門切除,食道空腸,空腸胃管吻合(空腸間置)術を施行した。食道空腸吻合部の縫合不全を認めたが,縫合不全部を介した間欠的な膿瘍ドレナージおよびに縫合不全部の減圧,経腸栄養の併用により,膿瘍腔は徐々に縮小し縫合不全は治癒した。今回われわれは,根治照射部位における縫合不全に対して,縫合不全部を介した膿瘍ドレナージにより保存的に改善した症例を経験した。本症例に対して,文献的な考察を加え報告する。

  • 此枝 生恵, 佐々木 俊一, 小川 郁
    2022 年 73 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2022/02/10
    公開日: 2022/02/25
    ジャーナル 認証あり

    今回われわれは,約20年前に施行した気管切開術の晩期合併症と考えられる傍気管嚢胞症例を経験した。症例は71歳男性。大動脈解離の治療中に気管切開術を施行された。その後,気管切開孔は閉鎖し,以後症状なく経過した。約20年後,感冒を機に前頸部の腫脹および疼痛が出現した。穿刺吸引により,疼痛は軽快したが腫脹は残存した。他科で実施した頸胸部CTで気管前方に嚢胞性病変を認め,当科を受診した。保存的加療で改善なく,外科的切除を行った。術後病理検体では2つの異なる組織像をもつ内腔を認めた。一方は気管憩室と合致する所見を有し,他方は単純嚢胞の所見であった。病理所見と文献的検討により,気管切開後閉鎖不十分であった気管切開から気管内腔粘膜が逸脱し気管憩室が形成され,気道感染を契機に憩室周囲に気管内の空気が漏出し,仮性嚢胞をきたしたものと考えた。気管切開術に続発して気管憩室を形成した報告は過去に見られないが,術後の治癒過程を考慮すると顕在化していないだけで同様の気管憩室症例が存在する可能性は高いと考えた。気管切開の既往があり,症状を有する患者がいれば,頸胸部CT画像の詳細な読影を行い気管憩室の有無を検索すべきと考えた。

用語解説
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