日本気管食道科学会会報
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73 巻, 3 号
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原著
  • 金森 淳, 渡邊 雅之, 丸山 傑, 蟹江 恭和, 藤原 大介, 坂本 啓, 岡村 明彦, 今村 裕
    2022 年 73 巻 3 号 p. 203-209
    発行日: 2022/06/10
    公開日: 2022/06/25
    ジャーナル 認証あり

    切除不能食道癌はしばしば狭窄や瘻孔を伴い,高度のQOL低下を招く。近年低侵襲なステント留置が選択されることが多く,バイパス手術を施行する機会は減ってきているのが現状である。今回当院で施行した20例を対象とし,術前因子(気道瘻孔の有無/modified Glasgow prognostic score(mGPS)/prognostic nutritional index(PNI))と術後合併症発生率,dysphasia score(DS)の変化につき,後方視的に検討した。術後在院日数は中央値19日(12–62),在院死亡は認めなかった。術後肺炎を認めた4例は,全例とも術前瘻孔を有し,さらに術前PNIは40未満であった(p=0.07)。縫合不全を認めた3例中2例はmGPS 2と低値であった(p=0.06)。経口摂取は退院時に,16例(80.0%)でDS 1(全粥摂取)以上の改善を認めた。術前からの気道瘻を認める症例やPNI 40未満の症例では慎重な術式決定および術後管理を要する。

症例
  • 柴崎 知生, 中村 一博, 長谷川 央, 永田 善之, 黄田 忠義, 馬場 剛士, 大島 猛史
    2022 年 73 巻 3 号 p. 210-215
    発行日: 2022/06/10
    公開日: 2022/06/25
    ジャーナル 認証あり

    各科領域で人工材料を用いる手術は数多い。しかし異物である人工材料周囲に感染が起こるとその制御に苦慮することが多い。今回われわれは甲状軟骨形成術1型を併施した披裂軟骨内転術の術後に創部感染をきたしゴアテックス逸脱を認めた1例を経験したため報告する。症例は51歳男性,201X年に甲状腺右葉切除術が施行された。術後よりの嗄声を主訴に201X+1年に当科を初診した。初診時の喉頭内視鏡所見で右声帯は固定しており術後性右反回神経麻痺の診断となった。音声改善手術が施行された。術中に声帯浮腫による気道の狭小化を認めており,予防的に輪状甲状靭帯切開を施行し気道チューブを挿入して手術を終了した。術後7日目頃に創部から排膿を認め,チューブを抜去し創洗浄を開始した。術後17日目に感染は軽快したが創部は肉芽が充満し閉創傾向を認めなかった。外来で頻回の肉芽除去を施行した。術後3カ月目の外来受診時に創部からゴアテックスが逸脱しており抜去した。抜去後も音声の悪化を認めなかった。抜去の1週間後には上皮化し閉創した。感染創は異物である人工材料を除去しないと閉創しないことが再認識された。ゴアテックス逸脱抜去後も音声の悪化を認めなかった。

  • 川﨑 裕正, 紫野 正人, 近松 一朗
    2022 年 73 巻 3 号 p. 216-221
    発行日: 2022/06/10
    公開日: 2022/06/25
    ジャーナル 認証あり

    下咽頭原発の脂肪肉腫は稀である。今回われわれは下咽頭に基部を持ち,食道内に進展し嚥下障害をきたした巨大脂肪肉腫の症例を経験した。症例は70歳男性,5カ月前からの嚥下困難,体重減少を主訴に来院。初診時の喉頭ファイバースコープでは咽頭・喉頭に明らかな異常はなかったが,画像精査にて食道内に腫瘍を認めた。食道原発の腫瘍と考え,上部消化管内視鏡を依頼したところ,検査時の嘔吐反射で食道内腫瘍が口腔に脱出した。茎部は下咽頭梨状陥凹であり,下咽頭腫瘍が食道に落下陥入した状態と考えた。全身麻酔下に経口的下咽頭腫瘍摘出術(TOVS)を施行し長径21 cmの腫瘍を摘出した。病理は高分化型脂肪肉腫であった。術後24カ月で局所再発し再手術した。病理は同様であった。高分化型は予後良好な組織型とされているが,再発例は多く,再発を繰り返す過程で,高分化型から脱分化型へ変化(dedifferentiation)することが知られている。再手術後15カ月経過するが,局所再発および頸部リンパ節,遠隔転移を疑う所見はない。今後も局所を中心に定期的な経過観察を行う予定である。

  • 河邊 浩明, 大野 十央, 川田 研郎, 高橋 亮介, 立石 優美子, 岡田 隆平, 有泉 陽介, 杉本 太郎, 朝蔭 孝宏
    2022 年 73 巻 3 号 p. 222-230
    発行日: 2022/06/10
    公開日: 2022/06/25
    ジャーナル 認証あり

    類基底細胞癌(basaloid squamous cell carcinoma:BSCC)は扁平上皮癌(squamouscell carcinoma:SCC)の稀な一亜型であり,上皮基底層近辺に位置するbasaloidcomponentと上皮に位置するsquamous cell componentから構成されている。両成分が生検で検出されないと診断がつかず,術前に診断することは困難である。今回,内視鏡的咽喉頭手術(endoscopic laryngopharyngeal surgery:ELPS)で切除されたBSCCの2例を報告する。症例1:64歳男性,中咽頭癌治療後の経過観察中に施行した内視鏡検査で下咽頭に粘膜異常を認め,生検でSCCと診断された。ELPSで切除し,病理でBSCCと判断された。その後の短い経過観察では再発転移は認めなかった。症例2:67歳男性,胃癌治療後の内視鏡検査で下咽頭に粘膜異常を認め,生検でSCCと診断された。ELPSで切除したが,断端陽性のため術後放射線療法を施行した。その後は再発転移を認めていない。近年,内視鏡診断が発達し,表在癌が発見されることが増加してきた。ただしBSCCと診断がつくことは少ないため,粘膜下腫瘍様を呈する表在癌の場合は深層部での切除が重要である。今後術前診断をより正確にするためにはさらなる症例蓄積が必要と考える。

  • 森岡 繁文, 豊田 健一郎
    2022 年 73 巻 3 号 p. 231-236
    発行日: 2022/06/10
    公開日: 2022/06/25
    ジャーナル 認証あり

    症例は呼吸器疾患の既往のない86歳の女性。近医にて細菌性肺炎治療中に,自宅前で意識消失し救急搬送された。循環動態は保たれていたが,著明な頻呼吸と酸素飽和度の低下を認めたため,気道の異常による意識障害と考え,気管挿管後に精査を行った。意識障害,呼吸困難の原因特定に難渋したが,入院5日目に撮影したCT検査で甲状腺腫大による気管狭窄を認め,呼吸困難の原因と疑った。甲状腺には悪性所見や気管浸潤はなく,腺腫様甲状腺腫と考え,入院14日目に甲状腺全摘術を施行した。甲状腺全摘後に気管軟骨の軟化を触知したため,気管軟化症と診断した。長期挿管による呼吸筋力低下を考慮して気管切開の併施を予定していたが気管の軟化が高度であり,気管切開による気管損傷を危惧して,後日気管切開術を行った。入院34日目に人工呼吸器を離脱したが,入院35日目に呼吸困難が再燃し,気管支鏡検査にて気管気管支軟化症を認めた。気管気管支軟化症の範囲が広いことからCPAP管理を継続する方針とした。本例は,気管気管支軟化症により致命的な気道狭窄が生じていたにもかかわらず,気管挿管や陽圧管理により気道狭窄がマスクされ,診断に難渋した。

  • 伊東山 舞, 宮丸 悟, 折田 頼尚
    2022 年 73 巻 3 号 p. 237-244
    発行日: 2022/06/10
    公開日: 2022/06/25
    ジャーナル 認証あり

    気道異物は救急疾患の一つであるが,鋳型気管支炎を耳鼻咽喉科で経験することは稀である。当施設で経験した1症例を報告する。症例は4歳の男児,生来健康でアレルギー性疾患の既往はなかった。X年8月に溶連菌感染症,9月にヒトニューモウイルス感染細気管支炎に罹患し軽快した。10月に再度発熱し肺炎の診断で入院となった。しかし症状が改善せず,画像検査の結果,ナッツ類による気道内異物が疑われ当科へ転院となった。緊急での気管支鏡検査を行い,粘液栓による鋳型気管支炎(Plastic bronchitis:PB)の診断となった。PBは1902年に初めて報告された疾患である。本邦にて1992年から2020年までに報告されているType Ⅰの小児PBに対して気管支鏡を用いて診断・治療した37例に加え,本症例を含めた計38例を検討した。10例で初回の気管支鏡処置だけでは完全に粘液栓を処置できなかった。1例で死亡,2例で心肺停止後の脳症の残存と不幸な転帰を辿っていた。PBの診断・治療には気管支鏡検査が有用であり,処置中だけでなく処置後も慎重な呼吸状態の観察が必要である。

  • 久保 良仁, 神前 英明, 清水 猛史
    2022 年 73 巻 3 号 p. 245-250
    発行日: 2022/06/10
    公開日: 2022/06/25
    ジャーナル 認証あり

    異所性副甲状腺腺腫が縦隔内に存在した場合,胸腺や脂肪組織に埋没して,病変の同定に難渋することが多い。今回われわれは,縦隔内の異所性副甲状腺腺腫の局在診断に11C-Met-PET/CTと,術中のメチレンブルーを用いた生体染色が有用であった症例を経験した。症例は66歳女性。近医で原発性副甲状腺機能亢進症と診断され内服加療が行われたが,血清カルシウム値のコントロールは不良であった。MIBIシンチグラフィは陰性であったが,11C-Met-PET/CTが病変の同定に有用で,上縦隔異所性副甲状腺腺腫が疑われ,手術目的に当科を紹介受診した。術中の病変同定のため,メチレンブルーを用いた生体染色を併用して異所性副甲状腺腺腫摘出術を施行した。鎖骨上2横指に襟上切開をおき,胸骨裏面の脂肪織内に青色に染色された腫瘤を認め摘出した。術中のメチレンブルー静脈内投与は,麻酔管理における見かけ上の経皮的動脈血酸素飽和度の低下に注意すれば,異所性副甲状腺腺腫の同定に有用であった。

  • 世永 博也, 宇野 光祐, 廣川 祥太郎, 荒木 幸仁, 塩谷 彰浩
    2022 年 73 巻 3 号 p. 251-257
    発行日: 2022/06/10
    公開日: 2022/06/25
    ジャーナル 認証あり

    甲状腺癌はときに気管浸潤を生じ,気道確保には慎重を要する。気管浸潤を伴う甲状腺低分化癌に対し体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)を用いて気道確保を行った症例を経験したので報告する。症例は65歳男性。腫瘍は頸部前面を広く覆っており,気管浸潤を伴っていたため,気管挿管および外科的気管切開は困難と思われた。気道確保の方法について,各科協議した上でV-A(venoarterial)ECMOを導入した。気管切開を行った後にECMOを離脱し,定型的に甲状腺・喉頭全摘を施行することができた。気管挿管や外科的気管切開が困難な症例で,悪性腫瘍による気道狭窄が疑われる場合および気道最狭窄部が正常径の50%未満となっている場合はECMOの使用が考慮される。本症例はいずれにも当てはまっており,V-A ECMOを導入して救命することができた。ECMOは多くの耳鼻咽喉科医にとって馴染みのない医療機器であるが,気道を扱う医療従事者としてECMOの特徴を理解することは,麻酔科医,集中治療医,心臓血管外科医と連携して治療を遂行する上で重要と考えられた。

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