一側声帯運動障害の原因の一つとして披裂軟骨脱臼が鑑別にあがるが,その診断は容易ではない。われわれは喉頭内視鏡所見および発声時と吸気時(安静時)の3DCTにより診断している。喉頭内視鏡で脱臼を疑った症例であっても実際に脱臼の症例は非常に少ない。今回,過去の披裂軟骨脱臼の文献を渉猟し,文献内の喉頭内視鏡所見やCT所見から脱臼の診断について検討した。文献内の情報では判定ができない症例が多いが,最新の知見から改めて検討すると,脱臼と考えられていた症例の多くは,声帯麻痺であった可能性が考えられた。
(はじめに)喉頭癌に対する喉頭全摘術に伴う甲状腺切除の術式はさまざまな報告がなされているが方針は施設ごとに異なる。一方で,上記における甲状腺機能低下と副甲状腺機能低下は無視できない合併症である。(対象と方法)当科で2016年1月から2021年9月にかけて喉頭扁平上皮癌の診断で喉頭全摘術を施行した37例を対象に甲状腺の切除の方法,浸潤や転移の有無について後方視的に検討した。対象の年齢は中央値73歳(54~93歳),男性33例,女性4例であった。亜部位は声門17例,声門上18例,声門下2例であり,UICC 8版によるcStageはI/II/III/IVa/IVb:1/5/16/14/1であった。甲状腺の切除法は切除なし(温存)9例,半切除14例,全摘14例であり,頸部照射歴(喉頭癌治療含め)ありは9例であった。(結果)甲状腺切除を行った28例中2例に甲状腺直接浸潤,1例に甲状腺転移を認めた。甲状腺の切除術式を温存/半切除/全摘に分けた際の2年全生存率,2年疾患特異的生存率は3群間で有意差を認めなかった。術前の甲状腺,副甲状腺機能は全例で正常であったが,甲状腺の温存を行った9症例のうち2例(22.2%)に甲状腺機能低下を認め,副甲状腺機能低下をきたした症例はなかった。甲状腺半切除を行った14例は甲状腺機能低下を50%(7/14例)にきたし,副甲状腺機能低下を14.3%(2/14例)で認めた。甲状腺全摘術を行った14例は甲状腺機能低下を全例(14/14例)できたし,副甲状腺機能低下は92.9%(13/14例)で認めた。(結論)進行喉頭癌症例における喉頭全摘術の際には甲状腺全摘が推奨されてはいるものの,画像や術中での明らかな甲状腺浸潤所見を認めない場合は副甲状腺機能温存のメリットを考慮し,患側の甲状腺半切除にとどめることを検討することが望ましい。
小児気管切開術は長期の気道・呼吸管理の管理に必須の治療である。経過の中で多様な合併症を引き起こすため,気管切開術の術式や術後の管理においてさまざまな工夫が求められることも多い。また,気管孔閉鎖においては確立されたプロトコルが存在せず各施設の経験に頼られている部分が大きい。周産期・小児医療の発達により今後も小児気管切開患者の増加が見込まれるため,その管理において指標となるデータおよびプロトコルが必要になると考える。今回われわれは,小児気管切開患者の安全な気道管理および気管孔閉鎖の実現を目的とした全国調査を実施した。対象施設202施設中57施設から回答を得た。過去10年間に小児気管切開術を施行している施設は29施設であり,過去1年間に行われた小児気管切開術症例は全196例であった。術式や術前の経過については各施設直近20症例,長期経過における合併症と気管孔閉鎖については過去10年間の症例で検討した。合併症の発症率が成人と比較して多い可能性や,気管孔閉鎖率が1割程度に留まることが明らかとなった。今後は長期管理や気管孔閉鎖についての共通認識を深めることが望まれる。
唾液誤嚥により肺炎を繰り返すなどの高度嚥下障害に対する外科的治療として,気道と食道を分離する誤嚥防止手術が行われている。声門閉鎖術(鹿野式)をはじめ多くの誤嚥防止手術はカニューレフリーを目的として狭窄しにくい永久気管孔を造設するように工夫している。一方,術後人工呼吸器管理が必要な症例ではカフ付き気管カニューレの装着が必要となる。気管カニューレは気管切開孔への装着を目的に設計されているために永久気管孔と適合しないことが多い。誤嚥防止手術後のカニューレ不適合は気管切開術と比較して気管カニューレの脱落や気管腕頭動脈瘻などの重篤な合併症のリスクが上昇する。今回われわれは術後気管カニューレの装着を必要とする7例の患者に対して輪状軟骨を温存して声門閉鎖を行い,一般的な気管切開孔の形状を残す「輪状軟骨温存型声門閉鎖術」を行った。本術式における永久気管孔の曲率半径は声門閉鎖術(鹿野式)と比較したところ有意に小さく,気管カニューレの曲率半径に近似していた。われわれが本術式を施行した7例中5例に術後気管カニューレが装着され,術後経過は良好で重篤な合併症を認めていない。輪状軟骨温存型声門閉鎖術は気管カニューレ装着が必要な患者の誤嚥防止手術として有用と考えられる。
症例は64歳男性である。2カ月前,健診で食道粘膜の異常を指摘されたため上部消化管内視鏡検査を受けた。検査中,ルゴール染色を行った直後から激しい痛みとともに嚥下困難が出現した。その後,嚥下困難が改善しないため,当院を受診した。上部消化管透視検査で,頸部食道の高度狭窄が指摘された。上部消化管内視鏡で観察を行うと,狭窄部は右側に柔らかく深い陥凹底を,左側に硬く瘢痕状の陥凹底を形成し,両陥凹間に小瘻孔が存在した。頸部外切開により狭窄部分を観察すると,頸部食道右側壁が断裂し,食道内腔に倒れこみ癒合することで狭窄を形成し,食道外膜により偽腔を形成していた。断裂した食道壁を修復し,食道皮膚瘻を造設した。4週間後,食道内腔の損傷の治癒したことが確認されたので食道皮膚瘻を閉鎖した。その後,問題なく経口摂取できるようになった。
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)によるさまざまな免疫関連有害事象(irAE)が報告されている。稀な有害事象である気管軟骨炎を経験した。診断には胸部CT検査,レントゲン検査が重要である。症例は54歳男性。顎下腺癌(cT4aN3M0)に対しニボルマブ投与中でpartial response(PR)であった。投与期間中に2週間継続する咳嗽・前胸部違和感が出現し,胸部造影CTで気管壁肥厚像,胸部レントゲン検査で気管狭小を認めた。ステロイド内服により症状および画像所見は改善した。ステロイドの減量に伴い再燃を認めたため,内服を継続し経過観察中である。気管軟骨炎は胸部CT検査,レントゲン検査で特徴的な所見を認める。気管軟骨炎は稀だが,比較的長期間の投与後に発症する可能性があり,時に致死的な経過をたどる場合もある。症状は肺炎に類似しているためニボルマブ投与中に呼吸器症状が出現した場合には,肺炎に加えて本疾患の鑑別も重要である。
胸腺腫には腫瘍随伴症候群として重症筋無力症が併発することは有名であるが,ネフローゼ症候群が合併することも最近報告が増えてきている。本症例は67歳の女性で,全身性浮腫の原因検索のための腎生検で微小変化型ネフローゼ症候群と腎硬化症の診断となり,ステロイドパルス療法が行われた。同時にCT検査で前頸部腫瘤を指摘された。確定診断目的に全身麻酔下に腫瘍摘出術を行った。術後病理診断で異所性胸腺腫の診断となった。術後に術前から自覚のあった眼瞼下垂の症状の増悪を認め,精査の結果重症筋無力症も合併していることがわかった。耳鼻咽喉科で胸腺腫を扱う機会は少ないが,頸部腫瘤の診察の際にはその可能性を頭に入れて精査を進めることが大切と思われた。