はじめに:喉頭癌患者の多くは,根治と音声機能と嚥下機能の温存,すなわち喉頭温存治療を希望する。われわれの施設では,局所再発喉頭癌患者が強い喉頭温存を希望した場合,ホウ素中性子補足療法(BNCT)を施行している。目的:根治照射後の局所再発喉頭癌に対するBNCTの有効性の検討。対象と方法:照射後の局所再発喉頭癌に対してBNCTを施行した28例を対象として,BNCTの局所制御率,rcT stage別のBNCTの有効性,BNCT後再発病変に対する後治療について後方視的に検討した。結果:局所再発喉頭癌に対するBNCTの3カ月後の治療効果は,CRが78.6%,PRが10.7%,SDが10.7%,PDが0%であった。1年局所制御率は65.9%であった。rcT stage別のCR率は,rcT1で75.0%,rcT2で75.0%,rcT3で71.4%,rcT4で100%であった。考察:喉頭温存を強く希望する喉頭癌放射線治療後再発患者のQuality of Survivalの維持のために,BNCTは新しい治療選択肢となることが期待される。
川崎医科大学附属病院・総合医療センターで頭頸部領域の異物を主訴に受診し,全身麻酔下に摘出術を要した16例について,年齢,異物の種類,局在,入院期間を検討した。男性11例,女性5例,年齢は1歳から90歳,中央値8歳で,小児と高齢者で二相性の分布を呈していた。異物の種類は魚骨12例,義歯4例であった。小児魚骨異物はデビスクロー開口器で咽頭展開し鉗子で摘出,高齢者義歯異物は直達喉頭鏡で咽喉頭を展開し鉗子で摘出した。義歯異物はクラスプを有する義歯に留意が必要であり,摘出の際には愛護的な操作が必要である。
Rosai-Dorfman病(RDD)は頸部リンパ節腫脹と全身に発現し得る節外病変を伴う原因不明の組織球増殖性疾患である。今回われわれは声門下腫瘤による呼吸困難を契機に当科を受診し,病理組織学的検査にてRDDの診断となった小児の1例を経験した。RDDは小児から若年成人に多いとされているが,喉頭発生のRDDは高齢者の報告が多く,本症例はわれわれが渉猟し得た報告の中では初の小児例である。症例は7歳男児。喘鳴・陥没呼吸を認め緊急気管切開術および生検を行った。ステロイド治療を開始し縮小を認めたが漸減とともに腫瘤は増大し,満月様顔貌や体重増加の副作用も出現した。ステロイド投与終了後も増大を認めたが,生検を行った病変は再燃を認めなかったことから,残存病変に対して直達喉頭鏡下切除術を施行した。7カ月間再燃は見られていない。RDDは稀な疾患であり標準治療は定められていない。リンパ節性病変のみの場合は約40%で自然寛解が見られるが,リンパ節外の病変を有する例は約20%に留まり,治療を要する場合が多い。特に喉頭領域に発生するRDDでは気道狭窄の可能性があり,積極的な手術の適応が考えられた。
下咽頭梨状陥凹瘻は若年者の反復する頸部膿瘍や急性化膿性甲状腺炎の原因となる比較的稀な疾患である。診断には下咽頭食道造影が有用とされているが,炎症により瘻管が狭窄し描出されない例も多いとされている。今回われわれは瘻孔造影直後のCT検査により3D再構成画像(3D-CT)を作成して瘻管を同定し,その後経口的手術で摘出した下咽頭梨状陥凹瘻の1症例を経験したので報告する。症例は30歳女性。反復する左頸部膿瘍の精査加療目的で当院受診となった。Modified Killian体位での内視鏡検査で左梨状陥凹に瘻管開口部と考えられる所見を認め,下咽頭食道造影検査を施行するも瘻管の描出はできなかった。しかし,同部位に対して喉頭内視鏡下でバリクサー食道静脈瘤穿刺針®を用いて直接瘻孔に造影剤を注入し,注入後数分以内に3D-CT検査を施行した。3D-CT検査の結果左梨状陥凹から尾側へ連続する12 mm程の瘻管が描出され,下咽頭左梨状陥凹瘻の診断となった。全身麻酔下にTransoral Videolaryngoscopic Surgery(TOVS)により瘻管摘出術を施行した。術後1年経過しているが現状再発を認めていない。瘻孔を疑う部位を内視鏡下で確認し,直接造影剤を注入した後にCT検査による再構成画像を作成することにより瘻管の証明とその長さを正確に測定することで経口的摘出の可否を判断できる可能性があると考えられた。
耳鼻咽喉科頭頸部外科医にとって気管切開術は気道確保の手技として熟練しなければならない手技であるが,難易度は個々の症例で大きく異なる。今回,脳出血開頭手術後に換気困難となっていたBMI 40以上の重度肥満症例に対して,外科的気管切開術を経験した。気管から皮膚までの脂肪厚が8 cmあり,脂肪切除術を併用した中気管切開を施行した。術後の気道管理に問題はなかったが,局所感染の制御に時間を要した。重度肥満患者の手術に関して易感染性や,創傷治癒遅延の問題があり,術後感染に注意を要することを報告した。
気管切開術後の気管狭窄は晩期合併症として注意すべき病態だが,比較的稀なためその臨床的特徴について広く認識されるに至らない。今回われわれは気管切開孔閉鎖後に遅発性に気管狭窄を生じた2例を経験したため臨床的特徴とともに報告した。2例はPS不良という共通点があったが,文献からも気管切開術後に気管狭窄をきたす症例ではPS不良のことが多いとされている。PS不良例では活動性が低いため気管狭窄があっても呼吸困難を自覚しにくいことに注意が必要である。治療方針の決定では自覚症状だけでなくCT検査などの客観的評価も重視するべきである。遅発性に気管狭窄を生じた原因を術中所見から検討した。症例1は肥満とケロイド体質が原因と考えられ,症例2は原因不明の甲状腺腫大が原因と考えられた。治療方法ではいずれも気管開窓を行った。症例1はtrough法で開窓した。症例2は局所麻酔下にて頸部伸展できず甲状腺腫大が著明であったことから輪状軟骨鉗除を併用した気管切開術を行い,安全に気管を開窓し狭窄部を解除することができた。気管切開術後の気管狭窄に対する治療は原因や全身状態によって異なるため症例に応じて検討することが重要である。
びまん性嚥下性細気管支炎(DAB)は,異物を慢性的に繰り返し誤嚥することにより引き起こされる細気管支の慢性炎症で,症状や所見が軽微で,さらに誤嚥を繰り返すと肺胞に炎症が進展して誤嚥(嚥下)性肺炎を発症する。今回経験した2例は常食を摂取して食物誤嚥を繰り返し,DABを発症していた。ミキサー食に変更し,さらに去痰薬の投与と,嚥下指導,食形態の調整,喉頭挙上訓練,誤嚥性肺炎の管理をおこなうことにより嚥下機能が改善した。体力の目安である握力とピークフロー値も改善し,誤嚥性肺炎による入院を回避,医療費の削減が期待できることが確認できた。嚥下障害例の41.9%にDAB疑い例を認めた。