日本気管食道科学会会報
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特集:気管食道科領域におけるデジタル技術・AI技術
総説
  • 高橋 明子, 川上 英良
    2025 年76 巻5 号 p. 247-254
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    人工知能(AI)とデータサイエンスは,診断支援,治療方針の最適化,創薬,在宅モニタリングなど,医療の多領域にわたって急速に活用が進んでいる。特に深層学習の進展と医療ビッグデータの蓄積により,眼底写真,内視鏡,CT・MRI画像を用いた高精度な疾患検出が可能となり,電子カルテを対象とした自然言語処理では予後予測や疾患リスク評価が実現している。さらに,強化学習や因果推論を用いた個別化治療の最適化,生成モデルや連合学習によるプライバシー保護技術も注目される。特に気管食道科においては,音声・嚥下音の解析,術中ナビゲーション,デジタルツイン手術支援など,視覚・聴覚・触覚を統合する診療支援技術への応用が期待される。一方で,データの質・多様性,説明可能性,現場への統合など,社会実装に向けた課題も残されている。本稿では,AI・データサイエンスの医療応用の現状と展望を概説し,気管食道科領域における先進的活用例を紹介しながら,今後の診療高度化に向けた課題と方向性を論じる。

関連論文
  • 西尾 直樹, 小林 和弘, 戸田 智基
    2025 年76 巻5 号 p. 255-263
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    喉頭摘出術は頭頸部癌の治療において,今でも重要な治療選択肢である。しかし,喉頭摘出者は手術後に声を完全に喪失することから,多くの苦労に直面する。われわれは名古屋大学情報基盤センターと協力して,喉頭摘出者における自己音声の再獲得を目指す,「Save the Voiceプロジェクト」を開始している。このプロジェクトは,喉頭摘出術を予定している患者に対して,機械学習に基づく統計的音声変換技術を利用することで,手術後音声から手術前音声へと変換する各喉頭摘出者専用の音声変換システムの構築を目指すものである。われわれはこれまでに,多施設共同にて臨床試験を行い,40例以上の患者の自己音声を保存してきた。同時に,喉頭摘出者が実際の生活で使いやすいように,代用音声から自己音声に変換できるようなアプリを開発してきた。代用音声を収録するための「Save the Voice収録アプリ」と代用音声を自己の音声に変換するための「Save the Voice変換アプリ」を開発し,実際に喉頭摘出者において実証を行った。今後の機器開発を含め,われわれの取り組みを紹介する。

  • 今泉 光雅
    2025 年76 巻5 号 p. 264-268
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    嚥下内視鏡検査は,外来や在宅,高齢者施設でも容易に実施可能であり,嚥下障害の治療方針を決定する上で重要な役割を果たす一般的な評価方法として広く定着している。しかしながら,短時間の嚥下動作の中でその動態を評価するため,適切な嚥下内視鏡評価には知識と経験が必要であり,評価者の技量に依存する。そのため,同一の対象者に対する嚥下内視鏡検査でも,内視鏡所見の評価や解釈が評価者により異なる可能性があり,経験の浅い評価者と比較して,経験豊富な検査者がより安全で常食に近い食形態を提供しているとの報告もある。高齢化社会における嚥下領域の専門医不足が社会的問題となっているが,専門医の養成は容易ではなく,時間および労力を要する。そのため,限られた医療資源を有効活用するためには,診療能力が十分ではない非専門医の嚥下内視鏡評価をサポートする必要がある。近年,人工知能(AI:artificial intelligence)を用いた画像や内視鏡,病理評価補助システムの有用性が報告されている。われわれは嚥下内視鏡検査AI診断支援システムを工学系の研究者と共同開発した。嚥下内視鏡検査AI診断支援システムの有用性および今後の展望について述べる。

  • 宇津野 芳彦, 栗原 泰之
    2025 年76 巻5 号 p. 269-274
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    画像診断領域では,AIを用いた診断支援システムが導入され,診断精度の向上や業務効率化に寄与している。本稿では,当院で使用されている胸部領域の画像診断支援AIの活用状況について紹介する。胸部単純X線写真ではClearRead XRおよびCTR-AID,CTではClearRead CT-VSおよびSYNAPSE SAI viewerを導入しており,これらのソフトウェアにより病変の検出や診断の効率化が期待される。AI使用によるバイアスが生じることもあるが,ソフトウェアごとの特性を理解し,適切に活用することで有用な診断支援ツールとなる。

  • 藤村 真太郎, 岸本 曜
    2025 年76 巻5 号 p. 275-281
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    Endoscopic laryngo-pharyngeal surgery:ELPSは,咽喉頭表在癌に対する低侵襲かつ機能温存に優れた治療法であるが,その利点を最大限活かすためには確実な腫瘍切除と,過剰切除とならない適切な切除範囲設定の両立が必要である。AI画像処理モデルを用いた,術中切除範囲決定支援システム開発の概要について説明する。パイロットスタディとして,当科で治療を行った咽喉頭表在癌のNBI画像216枚を利用し,ホールドアウト検証(学習172枚,検証44枚)を行った。全画像を上部消化管内視鏡専門医1名が確認し,NBI所見をもとに癌と判断する領域を自由曲線で囲いアノテーションを行った。病変領域を予測するために,セマンティックセグメンテーションモデルであるDeepLab v3+を使用,Pascal VOC 2014による公開事前学習済みモデルに対し,作成した学習用データを用いて転移学習を行った。検証用画像44枚の推論結果について画素ごとに検証した性能指標の平均値は,IoU:0.596,感度:0.734,特異度:0.947であった。国内では,2024年に複数の手術のAI手術支援システムが「手術用画像認識支援プログラム」として製造販売承認を受けている。耳鼻咽喉科領域においても,医療制度の未来を見据えた,社会にとって真に有益となるAI手術支援システムの臨床応用を目指す必要がある。

  • 中條 恵一郎, 稲場 淳, 矢野 友規
    2025 年76 巻5 号 p. 282-289
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    近年,ディープラーニングと呼ばれる新しい学習アルゴリズムの発展に加え,コンピュータの処理能力の飛躍的向上や大量のデータを活用できる環境が整備されたことにより,人工知能(artificialintelligence;AI)の活用が急速に進んでいる。医療分野でもAI技術の応用に向けた取り組みが広がっており,特に内視鏡領域では,早期消化管癌の検出や病変の良悪性を判別する支援技術としてのAIの活用に国内外問わず注目が集まっている。AIを活用することで,診断の均質化や見逃しの防止といった臨床上の課題に対する効果が期待できることがさまざまな研究において示唆されている。一方で,AI技術の臨床応用には慎重な検証も求められる。本稿では,内視鏡を用いた咽頭癌および食道癌の検出を支援するAIの研究開発に関する現状と展望について概説する。さらに,筆者らのチームが取り組んでいる,咽頭および食道領域におけるAI技術を活用した画像診断支援の研究開発と,これまでに得られた成果についても紹介する。

用語解説
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