副咽頭間隙腫瘍はまれな疾患であり,治療方針の決定に苦慮することが多い。本検討では,手術適応の決定に関連する臨床因子を探索することを目的として,当院で診療した44例を後方視的に解析した。初回治療方針により手術群16例,経過観察群28例に分類し,性別,年齢,症状,腫瘍体積,腫瘍位置,FNAC施行の有無について群間比較を行った。その結果,手術群は経過観察群に比し若年で (p=0.001),腫瘍体積が有意に大きく (p=0.008),FNAC施行率が有意に多かった (p=0.030)。一方,性別,症状の有無,腫瘍位置と治療方針の間には有意差を認めなかった。悪性例はすべて茎突前区に位置し,後区腫瘍の手術では下位脳神経麻痺を高率に認めた。以上より,年齢,腫瘍体積やFNAC施行の可否が治療方針に影響する可能性が示唆され,前後区の局在は悪性度や術後合併症の予測因子となりうると考えられた。
痙攣性発声障害(spasmodic dysphonia:SD)に対する甲状軟骨形成術2型(type 2 thyroplasty:TP2)は有効性が確立された手術であるが,妊娠中の施行に関する報告はない。今回我々は,音声障害により日常生活・業務に支障をきたした2例の妊婦に対し,局所麻酔下TP2を妊娠初期~中期に実施し,良好な母児予後を得た。症例1は32歳,妊娠12週,症例2は29歳,妊娠14週でいずれもSDと診断され,患者の希望により手術を実施した。局所麻酔薬は1%エピネフリン含有リドカインをそれぞれ23 ml,15 ml用い,チタンブリッジM20を2本装着した。手術時間は症例1で85分,症例2で60分であった。周術期は産科および麻酔科と連携し,放射線検査は必要最小限とした。両症例とも局所麻酔薬中毒や産科的合併症を認めず,術後の音声所見は著明に改善し,いずれも健康児を出産した。妊娠中の非産科手術は原則回避すべきであり,TP2も同様であるが,SDにより生活への影響が大きい場合,妊娠中期に局所麻酔下で短時間に施行するTP2は慎重な体制下では実施可能と考えられた。
症例は64歳,女性。泌尿器科にて筋層浸潤性膀胱癌の治療後で,当科で非結核性抗酸菌症にて通院中であった。経過中に湿性咳嗽と喘鳴があり,吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤およびステロイド点滴投与を行った。しかし呼吸困難感が増強し胸部CTを撮影したところ,径30 mmの気管分岐部リンパ節の腫大とリンパ節の圧排による左右主気管支の狭窄を認めた。コンベックス走査式超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)を予定したが,急速な呼吸状態の悪化により気管内挿管および人工呼吸器管理となった。ステント留置を検討したが術中の更なる低酸素が考えられ,経皮的右大腿静脈脱血-右内頸静脈送血の体外式膜型人工肺を用い,気管支鏡下ステント留置術およびEBUS-TBNAを施行した。尿路上皮癌からのリンパ節転移との病理結果より膀胱癌の再発と診断し,泌尿器科に転科となった。縦隔リンパ節転移は肺癌,食道癌,頭頸部癌に多く,膀胱癌は比較的稀である。気管支鏡術中の低酸素の危険性が高い状況では,体外式膜型人工肺下での施行が有効であり,治療抵抗性の喘鳴には胸部CTを含む精査を早期に行い,腫瘍性病変を含めた検索が必要である。
気管切開術後の合併症の中でも重篤かつ致命的なものとして気管腕頭動脈瘻が知られている。気管腕頭動脈瘻を確実に回避する方法として予防的腕頭動脈離断術があるが,明確な適応基準は確立されていない。今回われわれは腕頭動脈による気管狭窄および重度嚥下障害に対して予防的腕頭動脈離断術後に喉頭気管分離術を行った1例を経験した。症例は20代男性で,脳出血の治療経過中に気管切開が行われた。入所施設の嘱託医(耳鼻咽喉科医)より,気管内肉芽の管理やカニューレの位置調整に難渋しており,加えて慢性唾液誤嚥もあることからカニューレフリーかつ誤嚥防止が可能な誤嚥防止手術目的に当科紹介受診となった。気管支内視鏡検査でカニューレ先端の肉芽や気管狭窄を認め,造影CTでは気管は腕頭動脈と椎体により圧排されて狭窄をきたしており,カニューレ先端は腕頭動脈のごく近傍に位置していた。カニューレ先端を腕頭動脈より頭側に設定すると,気管狭窄により換気不良となるためカニューレ抜去は困難な状態であった。カニューレ留置継続によりいずれ気管腕頭動脈瘻を発症するリスクは高いと判断し,まずは気道確保および出血予防として予防的腕頭動脈離断術を行った。術後も嚥下障害は持続していたため,続いて誤嚥防止目的に喉頭気管分離術を行った。カニューレの慢性的刺激により気管前壁が脆弱化していたため,気管再狭窄が起こらないような工夫を行った。術後気管は開存しており,経口摂取も可能となった。気管狭窄や気管腕頭動脈瘻のリスク,嚥下障害を有した複雑な病態であっても,適切な順序で対処することで気道確保および出血予防,誤嚥防止のいずれも可能であった。
従来,根治切除不能なRAI不応再発転移分化型甲状腺癌に対して使用されてきた多標的チロシンキナーゼ阻害薬のレンバチニブは,出血リスクから大血管浸潤が疑われる例では使用回避が望まれるが,BRAF/MEK阻害薬は明確な禁忌は示されていない。今回われわれは,総頸動脈を全周性に取り囲む甲状腺乳頭癌再発病変に対し,エンコラフェニブ・ビニメチニブ併用療法を導入し奏効を得た1例を経験したため報告する。症例は70代女性。X年に甲状腺全摘術および右D2a郭清を施行し,病理診断は甲状腺乳頭癌pT3bN1bM0。以後,RAI内用療法および頸部リンパ節再発に対する摘出術を施行するも,X+5年に右総頸動脈を全周性に取り囲む局所再発を認めた。大血管浸潤が疑われたためレンバチニブは出血リスクから不適と判断された。再度のRAI内用療法は無効で,その後に内頸静脈腫瘍塞栓・血栓形成,腫瘍由来の疼痛増悪を認めた。コンパニオン診断薬にてBRAF V600E陽性を確認し,X+6年よりエンコラフェニブ・ビニメチニブ併用療法を導入することで,投与後速やかに疼痛の改善および腫瘍縮小を認めた。その後は副作用をコントロールしつつ治療継続し奏効を維持している。治療経過と副作用への対応について文献的考察を加えて報告する。