本研究では,voice prosthesisを用いた気管食道シャントの長期経過を検討した。2002年から2023年までに管理した25例(男性24例,女性1例,平均66歳)を対象に後方視的に分析した。観察期間は中央値144カ月(1-354カ月)であり,voice prosthesis留置期間は,中央値123カ月(1-354カ月)であった。音声獲得率は92%,音声使用率は88%と良好な成績を示した。一方で合併症を40%で認め,シャント孔拡大を28%で認めた。気管食道シャント閉鎖を32%で要し,閉鎖の原因としては主にシャント孔拡大で,閉鎖例の75%に該当した。原疾患がコントロールされ,合併症がなければvoice prosthesisによる発声は中央値172カ月と長期間にわたり可能であった。
食道癌術後の胃管気管瘻の発生頻度は0.3%と報告されている。当施設で経験した難治性胃管気管瘻について報告する。症例1は60歳代の男性で,胸部中部食道癌(cT1bN0M0 cStage I)にて胸腔鏡下食道亜全摘術および細径胃管を用いた後縦隔経路再建(吻合:外反三角吻合)を施行した。術後21日目に肺炎を契機に,諸検査にて5 mmの胃管気管瘻と診断した。栄養療法とPGAシートを用いた内視鏡的治療を1カ月半施行したが改善せず,肺炎による呼吸不全をきたした。入院より3カ月後に外科的根治手術を行い治癒した。症例2は50歳代の女性で,胸部中部食道癌(cT2N2M0 cStage III)に対して術前化学療法後に,胸腔鏡下食道亜全摘術および細径胃管を用いた後縦隔経路再建(吻合:外反三角吻合)を施行した。術後15日目に発熱と食後の咳嗽が出現し諸検査にて胃管気管瘻と診断した。患者は外科治療を希望せず5カ月間にわたり栄養療法とPGAシートを用いた内視鏡的治療を繰り返したが,治癒に至らなかった。上部消化管内視鏡下単純縫合閉鎖術,気管側からの直視下瘻孔縫合閉鎖術,食道ステント挿入術が行われたが,治癒に至らず初回手術より18カ月経過した。その後,自家筋弁を用いた外科的根治手術が施行され治癒した。
外科的気管切開術の併発症によって生じた喉頭気管狭窄症症例を報告する。症例は70歳代女性。出血性ショックに対して,当院救急集中治療科にて5日間の気管挿管管理による全身加療の後,抜管されるが吸気性喘鳴を伴う呼吸困難を認め気管切開術が施行された。その後,精査・加療目的に当科へ紹介された。喉頭内視鏡検査で両側声帯可動障害を認めたが,声門腔は保たれていると判断しスピーチカニューレ管理を施行するが呼吸苦を認めた。気道評価目的に施行したMicrolaryngobronchoscopy(MLB検査)にてType IIIの後部声門狭窄症(posterior glottic stenosis:PGS)と気管孔直上レベルで瘢痕形成を伴う癒着による気管狭窄所見を認めた。癒着部位を切離・解除した上でTチューブを留置した。1カ月後にTチューブを抜去,気管皮膚瘻の前壁の内陥所見を認め,耳介軟骨を用いて気管前壁の硬性再建を施行した。術後2カ月経過,気管孔閉鎖に至った。ICUにおける外科処置として,外科的気管切開術は代表的な手技であるが,気管狭窄などの併発症を起こせば治療に難渋する症例もある。安全なICU気管切開術に向けての取り組みも併せて報告する。
縦隔気管孔形成術は,頭頸部悪性腫瘍手術に際し広範な気管切除が行われ,頸部に気管孔作成が困難となった症例で施行される。胸骨や鎖骨の一部を切除して前胸部に気管孔を作成し,大胸筋皮弁や広背筋皮弁などの有茎皮弁を用いて死腔を充填する方法が一般的である。しかし,気管壊死,感染による大血管の破綻,気管腕頭動脈瘻などの術後合併症が生じることで致死的となりえる。当科では,縦隔気管孔形成術の際に有茎大胸筋皮弁を併用している。解剖学的血行領域に配慮した皮弁のデザイン,気管孔周囲への皮膚の補填,縦隔部の死腔への充填といった点に留意することにより良好な結果が得られていると思われる。
降下性壊死性縦隔膿瘍は重篤な疾患であり治療の基本は迅速なドレナージ手術である。従来は開胸手術,最近では侵襲の低い胸腔鏡下ドレナージが選択される。今回われわれは,深頸部膿瘍からの降下性壊死性縦隔膿瘍に対して,CTガイド下カテーテルドレナージのみで管理可能であった症例を経験したので報告する。症例は60歳代の男性で基礎疾患に糖尿病があった。咽頭痛,嚥下時痛で前医を受診し,CTで深頸部膿瘍と診断されたため当院に搬送となり,同日両側頸部外切開による排膿術および気管切開を行った。第5病日の造影CTで上縦隔と後縦隔に膿瘍形成がみられ,Type IICの降下性壊死性縦隔膿瘍と診断した。膿瘍は頸部から連続的で,単房性かつ限局的であったため,より低侵襲なCTガイド下カテーテルドレナージを施行した。経時的に縦隔ドレーンからの排液は減少し第16病日に抜去した。膿瘍の治療と並行して第7病日から嚥下リハビリテーションを開始し,嚥下内視鏡検査で嚥下機能を評価した。入院後約1カ月でドレーンやカニューレを抜去でき,経口摂取で自宅退院とした。縦隔膿瘍の性状や局在によっては,より低侵襲なCTガイド下カテーテルドレナージも効果的な治療法の一つになりえると考えられる。
鈍的甲状腺損傷の報告は少なく,その治療方針は確立されていない。治療においては,甲状腺クリーゼの発症を念頭に置きながら,損傷部位の止血ならびに血腫による気道閉塞のリスクに備えた気道確保が重要である。鈍的損傷の場合,受傷直後の臨床症状が乏しいにもかかわらず遅発性に気道閉塞をきたすことがある。今回,鈍的甲状腺損傷直後に当科に救急搬送され,経過観察中に遅発性に喉頭浮腫をきたした症例を経験したので報告する。症例は30歳代女性。バセドウ病でチアマゾール内服加療中であった。自宅の階段から転落し階下のテーブルに前頸部を打撲し救急搬送となった。受傷1時間後の喉頭所見では左披裂の軽度浮腫を認め,受傷3時間後も浮腫がわずかに増大するのみであった。そのため,気道確保は不要と判断し,入院による保存的経過観察とした。翌朝受傷20時間後の診察で嗄声増悪ならびに呼吸困難の出現を認め,喉頭所見では浮腫が右披裂まで広がっていた。気道確保を提案するも拒否されたためステロイドの投与で経過観察したところ,受傷28時間後には浮腫は軽減した。入院中に甲状腺クリーゼは発症せず浮腫の再発も認めなかったため受傷3日後に退院となった。