白麹菌は,製麹過程で多量のクエン酸を生産することが以前から知られていたが,その分子機構については長年不明であった。著者らは,近年,遺伝子解析や遺伝子工学的手法によりミトコンドリアおよび細胞膜に存在する複数のトランスポーター(輸送体)が重要な役割をしていることを明らかとした。さらに,これらトランスポーターの発現のコントロール機構についても研究を重ねている。一方,黄麹菌においても,これら白麹菌のクエン酸輸送体に相当するトランスポーターをコードする遺伝子の存在を見出し,それらを強制発現することで,黄麹菌のクエン酸生産を示した。本稿では,著者らの研究成果を中心に,麹菌のクエン酸輸送体の最新の知見について解説いただいた。
分析技術の飛躍的な進展に伴い,存在量は少ないけれども注目すべき清酒の成分が次々と明らかにされてきている。今回,筆者らが親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)と飛行時間型質量分析計(TOF/MS)を組み合わせた手法を用いて,地道に取り組んでこられた清酒のオリゴ糖に関する最新の研究成果を分かりやすく解説していただいた。米,米麹と清酒醸造を考えるうえで重要な知見が紹介されている。
醤油の製造原価のかなりの割合は大豆や小麦などの原材料価格であり,これらの価格変動は醤油事業者の経営に大きな影響を与える。近年は気候要因による価格変動の他,投機マネーの穀物相場への流入やコロナウイルスによるロックダウンなどの影響もあり,事業者にとっては目が離せない状況が続いている。今回は,そのような醤油原料の最新の状況を詳しく,かつ,分かりやすく解説して頂いた。関連する醸造技術者は必ず目を通して頂きたい。
原料米産地のイネ登熟期の気温が清酒品質に及ぼす影響を明らかにするため,2009 BY~2018 BYの全国新酒鑑評会出品酒成分及び製造実績の年度ごとの平均値と原料米のイネ登熟期気温,蒸米消化性及びデンプン特性値との関係について相関解析した。原料米のイネ登熟期気温,兵庫県産山田錦のDSC糊化温度及び蒸米消化性は,粕歩合,最高ボーメ,出品酒のカプロン酸エチル濃度,グルコース濃度,日本酒度と高い相関関係がみられた。すなわち,イネ登熟期が涼しく原料米のアミロペクチン側鎖が短く溶解しやすかった年に出品酒のカプロン酸エチル濃度やグルコース濃度が高くなっていた。一方,酢酸イソアミル濃度,イソアミルアルコール濃度及び酢酸エチル濃度とイネ登熟期気温及び原料米デンプン特性との間には高い相関関係はみられなかった。以上から,イネ登熟期の気象条件が原料米のデンプンの性質及び溶解性を変化させ,大吟醸酒のカプロン酸エチル濃度に影響を及ぼす可能性が示唆された。
平成30年産「吟のいろは」を原料米として実醸造規模の精米・製麹・醸造試験を行ったところ,精米歩合50%までは十分な精米特性を有し,味の濃いやわらかな酒質の清酒が得られ,酒造用米として実用性があることを確認した。
焼酎醸造は,麹菌が生産するクエン酸によって安定な発酵が可能となる。従って,クエン酸資化能を有する乳酸菌の混入は醪が腐造する原因となる。腐造性乳酸菌の早期検出を目的に,PCR反応による腐造性乳酸菌の特異的な検出を試みた。Limosilactobacillus fermentum(旧学名:Lactobacillus fermentum)のクエン酸取り込みに関与する推定クエン酸パーミアーゼをコードする2種類の構造遺伝子(mleP,citT)に着目した結果,焼酎醪を腐造させる乳酸菌の特異的な検出が可能となった。今後は,健全な焼酎製造を継続するための予防対策,もしくは腐造醪が発生した際の早期原因究明のための工程検査への活用が期待される。