老香は,清酒の貯蔵によって生じる劣化臭であり,おもに酵母が醪で生産した前駆体が貯蔵中に化学変化して生じることが知られている。本稿の著者らは,最新の技術を駆使して老香前駆体低生産酵母を開発し,貯蔵しても老香の生成が少ない清酒の製造を可能にした。本稿では,本酵母の開発の背景,育種方法,使用にあたっての注意などをくわしく解説していただいた。本酵母は現在,公益財団法人日本醸造協会から「きょうかい酵母Ⓡmde-D1」として販売されている。
清酒の平均精米歩合が年々小さくなり,令和1BYでは全国平均で63.2%であった。特に清酒使用玄米全体の34%である7万トンを使用する吟醸純米酒と吟醸酒の精米歩合は49.5%である。このような高度精白米では,吸水速度が速いため白米や洗米浸漬時の胴割れの発生は,その後の蒸米の性状に大きく影響するため,その抑制策は重要である。委託精米事業にかかわっておられる筆者の胴割れに対する取り組みは貴重である。
きのこ類(担子菌類)のゲノム解析が進み,きのこ類にある多数の糖質関連酵素群(CAZymes)に注目が集まっている。しかしながら,それらの酵素群のうち,酵素学的な機能が解明されているものは少ない。また,それらのきのこにおける生物学的な役割も多くは不明である。本解説では,きのこ類のCAZymesについてシイタケにおける研究を中心にその酵素学的特徴およびその生活環における生物学的な役割について紹介するとともに,今後の産業利用への展望について解説する。
ワイン用の酵母発酵助成剤であるStimula Sauvignon BlancとOptimum Whiteを添加した清酒醸造試験を行うことにより,酵母発酵助成剤の添加が清酒醸造に及ぼす影響を調べた。一段仕込による清酒醸造試験では,用いた酵母の種類にかかわらず,酵母発酵助成剤の添加により発酵が促進され,原料利用率が向上したと考えられた。特にStimula Sauvignon Blancの添加により,ワイン酵母で清酒酵母と同程度のアルコール分となるまで発酵が進んだ。また,製成酒の香気成分は,Stimula Sauvignon Blancの添加した試験区で無添加の対照区よりも,酢酸イソアミルやカプロン酸エチルなどのエステル含量が高かった。三段仕込では,一段仕込ほど顕著な効果は認められなかったものの,製成酒の官能評価の結果,無添加の対照と同程度の高い評点が得られたことから,酵母発酵助成剤の添加は新たな特徴ある製品開発に有効な手段となる可能性があると考えられた。
酒粕の抗酸化性(DPPHラジカル消去活性およびORAC)およびACE阻害活性に及ぼす精米歩合の影響を明らかにすることを目的に,吟醸酒,純米酒,普通酒など醸造方法の異なる酒粕を用いて,それらの抗酸化性およびACE阻害活性を比較した。抗酸化性およびACE阻害活性は精米歩合が高い酒粕が高かった。また,酒粕中のフェノール化合物,ペプチド,酸度,アミノ酸度および非固形分を測定するとともに,酒粕の抗酸化性およびACE阻害活性との相関性を分析した。フェノール化合物は,精米歩合が高い酒粕が高かったが,ペプチド含量は精米歩合の違いによる有意差はなかった。また,上記の各測定値が,抗酸化性またはACE阻害活性と有意な相関を示した。抗酸化性およびACE阻害活性を用いた階層的クラスター分析の結果は,精米歩合の異なる酒粕が異なるクラスに位置することを示した。以上の結果から,精米歩合の高い酒粕が高い抗酸化性およびACE阻害活性を有することが明らかになった。精米歩合の異なる酒粕のこの違いが,精米歩合そのものによるものか製造条件の違いがこのような結果に導いたものか今後詳細な検討が必要である。
市販清酒35点の官能評価を行うとともにフェノール化合物を測定した。フェノール化合物の最大含量は,p-CAが0.4 mg/l,FAが5.4 mg/l,4-VPが204.1 μg/l,4-VGが282.7 μg/l,グアイアコールが58.0 μg/lであり,4-EPと4-EGの含量は1 μg/l未満と少なかった。p-CA,FA,4-VP及び4-VGはそれぞれの間で有意に相関がみられた。重回帰分析の結果,フェノール臭の強度は4-VG及びグアイアコールの2成分でほとんど説明できた。さらに,6種類の活性炭を用いてフェノール化合物の除去を試みたところ,2種類の活性炭ではp-CA,FA,4-VP及び4-VGのほとんどを除去できた。一方,グアイアコールは最大35%しか除去できなかった。PVPPを用いたフェノール化合物の除去試験では4-VGの42%を除去することがきたが,グアイアコールを除去することはできなかった。