食塩は,食事の味付けや食品保蔵において重要な成分であり,我が国では食塩を利用した多くの発酵食品や調味料が生活に欠かせない。しかし食塩の過剰摂取が様々な疾患のリスク因子となることが知られてから,減塩が大きな課題となっている。減塩を困難にする最大の原因は塩味のおいしさであるが,塩味を感じる仕組みは長い間謎であった。本稿では,最近明らかになった塩味を感じる仕組みについて,塩味を受容する味細胞での研究成果を交えて平易に解説していただいた。
麹菌による発酵調味食品に含まれるペプチド成分は,極めて多種類であり,個別成分の含量が微量であることから,これまで構造解析や機能性研究が非常に遅れていた。発酵食品のペプチド類は生理機能を有することが解明されつつあり,発酵食品の新たな価値の解明が期待されている。本解説の著者らは,麹発酵食品に含まれるピログルタミルペプチドの分析法を開発し,その機能性に関する研究を進めておられることから,最新の機能性研究の成果についてわかりやすく解説していただいた。
1.山幸ブドウから分離したH. vineaeTW15の亜硫酸耐性試験とエタノール耐性試験によるワイン醸造適性試験と実規模スケールのワイン醸造試験を実施した。
2.H. vineaeTW15は亜硫酸濃度100 ppmでも旺盛に増殖し,エタノール濃度12%でもわずかに増殖し,ワイン醸造に十分適応可能であった。
3.H. vineaeTW15によるワインの発酵は市販ワイン用乾燥酵母よりも遅かったものの,ワインの品質は香り,味,調和の3項目が評価された。
4.H. vineaeTW15はアミノ酸の消費量が多く,アミノ酸に由来するイソブチルアルコール,酢酸イソアミル,2-フェニルエチルアルコールおよび酢酸2-フェニルエチルを市販ワイン用乾燥酵母のS. bayanusよりもわずかに多く生成する傾向が確認された。
ペプチダーゼ活性に特徴を持つ酵素剤及び(pGlu)ペンタペプチドエチルエステル生成活性を持つ精製酵素を清酒,米麹酵素によるプロテインボディー(PB)の消化液,及び清酒もろみに添加して,添加した酵素が及ぼす影響を調べた。清酒及びPBの米麹酵素消化液へのペプチダーゼ添加試験から,(pGlu)ペプチドエチルエステルを生成するプロリルエンドペプチダーゼ型酵素が清酒の(pGlu)LFNP-エチルや(pGlu)LF-エチルの濃度上昇に重要な役割を果たすことが示された。また,これら好ましい味わいを示すエチルエステル化ペプチドの濃度を上昇させることで清酒の味わいが向上する可能性が示された。さらに,ACP活性が強いペプチダーゼを添加した試験結果から,ACPは苦味ペプチドの低減に寄与する一方で,(pGlu)L-エチルなどの呈味の優れないジペプチドの生成に関わり,(pGlu)LFNP-エチルや(pGlu)LF-エチルの母物質である苦味ペプチドのレベルを不足させることで,清酒の呈味に好ましくない影響を及ぼす可能性が示された。清酒もろみへのプロリルエンドペプチダーゼ型酵素の添加は,清酒やPBの麹酵素消化液への添加の場合と類似した効果を示したが,苦味ペプチドが蓄積しにくい条件下では,その効果は微弱であった。清酒もろみへ当該酵素を添加して呈味の向上を期待するためには,清酒もろみ中で一定レベルの苦味ペプチドが蓄積される条件を作り出すことが重要であると考えられた。
市販種麹12点と黄麹菌RIB128株で作成した麹試料中の2つの(pGlu)ペプチドエチルエステル生成酵素活性を調べた。(pGlu)LFGP-エチルを生成する(A)タイプ酵素活性は,いわゆる高グルコアミラーゼ種麹とRIB128株の麹にのみ見られた。一方,(pGlu)LFGPNVNPW-エチルを生成する(B)タイプ酵素活性は,全ての種麹の麹試料に見られた。麹の(A)タイプ酵素活性は,グルコアミラーゼ生成活性と強い正の相関(r=0.932)を示したが,(B)タイプ酵素活性はそれほど高い相関を示さなかった。