「光環境制御による新しい麹造り」2007年に畠山等が麹菌の光応答を報告したときの将来展望である。麹造りにおいて重要なことは醸造に適した酵素力価の実現と考えられ,もとをただせば,なんらかの人為的な働きかけによる麹菌酵素遺伝子発現の制御である。近年,網羅的遺伝子発現解析により光による麹菌酵素遺伝子発現の変動の一端が明らかになった。果たして光によって麹の酵素力価を自由に操作することは可能なのだろうか。
植物と微生物の関係としては,植物に害を及ぼす病原菌と,利益をもたらす根粒菌等が知られている。しかし最近,微生物叢の解析技術の進歩に伴って,それ以外にも多くの種類の微生物が植物体内に存在していることが明らかにされている。いわば“居候”のような微生物であるが,何らかの影響を植物に与えているのではないか,と考えられ,ワイン用ブドウでは“微生物テロワール”に関与する可能性が示唆されている。本稿では,日本のワイン用ブドウの樹体内の細菌叢の多様性と,今後の展望について解説していただいた。
九州地方におけるしょうゆの生産量は全国の生産量の約10%程度であるが,製法上の種類としては本醸造,混合醸造そして混合方式の全てが生産されている。また九州北部では本醸造しょうゆ,JAS等級としては特級が多く,対して南九州では混合しょうゆが主体で,上級や標準クラスが多い傾向にあり,同じ九州でも品質面での特徴の差が認められる。これまで地域のニーズや食文化を支える役割を担ってきたしょうゆ醸造業は将来に亘って継承されることが望まれる。このようなことから本稿では九州地方のしょうゆの特徴とそれを醸し出す製法を紹介するとともに独自に研究開発された技術や製品についても紹介した。
酒造好適米に適合する吸水モデルの開発を目的とし,拡散法則に支配される空間に心白と水浸裂傷を組み込んだモデルの妥当性を数値的解法により検討し,実現象との比較をおこなった。その結果,心白,水浸裂傷ともに吸水速度を増加させる効果があることがシミュレーション上で再現された。白米内部の水分分布の経時変化を実際の吸水撮影画像と比較することで,視覚的にモデルを評価することが可能となった。また,実試料とシミュレーションの含水率変化を比較すると,水浸裂傷の組み込みによって実試料の含水率変化に近づいた。これらの結果から,本モデルで提案した吸水モデルは拡散法則を単独で用いたモデルを上回る精度で酒造好適米の吸水をシミュレートできることが明らかとなった。
清酒酵母の拡大培養用培地作成の効率化のため,食品添加物用の酵母エキスを用いた培地(酵母エキス培地)の実用性を評価した。酵母エキス培地を用いて酵母の増殖性を比較した結果,市販麹エキス培地および希釈麹エキス培地と同等以上の良好な増殖性を示した。酵母エキス培地および市販麹エキス培地で製造した拡大培養酵母を用いて,パイロットスケールの醸造試験を行ったところ,培地の違いが製成酒に与える影響はほとんどなかった。平成29酒造年度から令和4酒造年度までの実地醸造試験でも,酵母エキス培地による拡大培養酵母を用いても,酒造りには大きな影響がないという結果が得られた。
終わりに,希釈麹エキス培地の作成方法を教えて頂いた埼玉県産業技術総合センター北部研究所の横堀正敏部長,実地醸造試験を行って頂いた群馬県内酒造会社,官能評価を実施して頂いた群馬県醸衆会会員の皆様に感謝いたします。
デンプンの老化が速いと評価された米を用い,水麹,さらに,酵素の吸収を促進させることを目的に蒸米をあらかじめ乾燥させ,もろみに及ぼす影響を調べた。麹の抽出試験と蒸米の乾燥試験の結果を踏まえ,水麹を10 ℃で5時間あるいは蒸米の乾燥を5時間,あるいはその両方の処理を行った清酒小仕込み試験のもろみの質量減少量,ボーメ度,マルトース濃度およびグルコースの濃度の変化を経時的に測定したところ,ボーメ度は蒸きょうして速やかに仕込む方が全体的に高くなり,マルトース濃度変化と対応していた。また,水麹によりボーメ度やマルトース濃度はやや高くなることがわかった。蒸米を乾燥したもろみは,対照や水麹のみを行ったもろみと比較してもろみ初期でグルコース濃度が顕著に高くなることがわかった。