著者らは,麦焼酎「いいちこ」の醸造過程で副生する焼酎粕(大麦発酵液)から,ロコモティブシンドロームの予防・改善に寄与する,新規ペプチド『pEPYP』の分離・同定に成功した。今後はpEPYPを含む食品(サプリメント)を商品化することで,健康寿命の延伸に貢献したいと考えている。醸造副産物の有効利用やペプチドに関する分野の研究者の方々はぜひ御一読を。
世界で25年間受け入れられて来た定説を覆す大きな発見である。ビールにおいてもワインにおいても原料由来のチオール化合物は発酵後に大幅に増加するため,発酵中に前駆体から生成することは知られていた。特にワインにおいては原料果汁中にチオールはほとんど含まれない。1998年に前駆体としてアミノ酸とチオール化合物との抱合体が報告され,酵母が持つβリアーゼの作用によってその前駆体からチオールが遊離されると考えられて来た。しかしビールにおいてもワインにおいても,この前駆体による寄与度(%)は,発酵中の全増加量のわずか3~7%に過ぎないことが報告され,他の主要な前駆体が存在すると考えられて来た。著者は本研究において,世界で初めて主要な前駆体として「ジスルフィド結合型チオール」を麦芽およびホップ中にて発見し,その前駆体が発酵中に還元されて,チオールがビール中に遊離されるという仕組みを突き止めた。
近年世界中で減塩が取りざたされており,日本の伝統調味料であるしょうゆは槍玉にあがることも多い。しかし本醸造しょうゆは微生物の発酵によりもたらされたと考えられる様々な特性を有しており,食塩で味付けするよりも少ない塩分含量で同等の味をつけることができる節塩作用も持つ。本稿ではこの本醸造しょうゆの節塩作用について紹介するとともに,しょうゆ研究から派生した乳酸菌の機能性研究(抗アレルギー・感染作用)についても触れた。ぜひ一読を。
本研究では,養殖用飼料としての酒粕の有効性を検証するため,酒粕置換飼料をマダイの2歳魚に28日間給餌した。酒粕置換飼料のタンパク質含量は,基本飼料より少なかった(Table 1)。養殖魚の成長においてタンパク質は最も重要な栄養成分とされており,タンパク質含量の少ない酒粕置換飼料の給餌はマダイの成長の停滞など悪影響を及ぼす可能性があったが,各給餌区間のマダイの成長率および一般成分には有意な差がなく(Table 2,3),またデータは示さないが養殖期間を通じて酒粕置換区のマダイの死亡率や病気の発生率に差は認められなかったことから,本研究においては酒粕をマダイの餌に使用することによって悪影響は生じなかったと考えられる。その原因としては,酒粕給餌区におけるマダイの摂餌量が対照区より高かった(Table 2)ことが,タンパク質の不足をいくらか補った可能性がある。しかしながら,餌のタンパク質割合から推定されるマダイのタンパク質取り込み量は,酒粕置換割合の増加に対応して減少した(Table 2)ことを考慮すると,酒粕置換区のマダイは,タンパク質の取り込みが少なかったにも関わらず,対照区と同等の成長を達成できたと考えられ,興味深い。
酒粕置換飼料の遊離アミノ酸含量は,対照区よりも優位に高いと認められた(Table 5)が,それらは,基本飼料と酒粕の配合割合から計算される遊離アミノ酸含量よりも高い。この原因を探るため,基本飼料に酒粕を置換して30℃で一定期間貯蔵したところ,貯蔵開始から酒粕置換飼料は基本飼料よりも遊離アミノ酸が顕著に高く,24時間の貯蔵でほぼ一定であった(Fig. 1)。これは,酒粕中に含まれる麹由来タンパク質分解酵素が,基本飼料のタンパク質を分解した結果と考えられる。貯蔵開始(0時間)から高い値が示されたのは,基本飼料と酒粕を混合・成形過程でタンパク質分解反応が速やかに進行し,貯蔵開始時点においてはタンパク質分解反応が概ね完了していたと推察される。一般に,魚体内で飼料タンパク質が消化されて,その構成アミノ酸が吸収されるタイミングに比べ,遊離アミノ酸は吸収が速い10)。タンパク質の分解によるマダイの摂餌行動の刺激に加え,遊離アミノ酸の速やかな吸収が,酒粕置換区のマダイの成長に貢献したのかもしれない。
本研究で測定したマダイの遊離アミノ酸のうち,酒粕15 %置換区のマダイではグルタミン酸含量が対照区に比べて有意に高いと認められた(Table 4)。飼料の違いが魚体の遊離アミノ酸組成に与える影響については,遊離グルタミン酸は飼料による影響が少ないとの報告がある11,12)。それに対して本実験結果では,酒粕に含まれる成分がマダイのタンパク質の代謝に影響した可能性を示唆しているが,その詳細の解明は今後の課題である。
官能試験について,特に酒粕15 %置換区ではグルタミン酸含量が他給餌区に比べて高かったことから,うま味の評価が高くなる可能性が考えられたが,そのような結果にならなかった(Table 6)。うま味は個別のアミノ酸による影響だけではなく,アミノ酸同士の組み合わせによっても変化するため,グルタミン酸のみでは食味への影響は限定的であったものと思われる。総合評価に有意差は認められず(Table 6),酒粕給餌区のマダイの食味が劣るなどの評価はなかったことから,酒粕置換飼料を給餌した場合でも対照区の飼料と同程度の食味が期待される。
データは示さないが酒粕30 %置換飼料は水分が多く(Table 1),保形性が低く,付着性が高いため,餌の製造や給餌作業を含め,取り扱いが難しいという問題もあった。その一方で,給餌担当者からは,酒粕置換飼料は酒粕由来の芳香が飼料の魚臭を軽減するため,給餌作業環境が改善されたとの意見があった。
一般に酒粕は安価であり,その価格は輸送費程度と考えられる。実際,今回用いた酒粕も同様であったため,酒粕置換割合が増えるほど飼料コストは低くなった。養殖にかかるコストの大部分は飼料であるが,配合飼料の価格は近年高騰している12)。配合飼料と比較して安価な酒粕を飼料に用いることで,対照区と同程度の成長率を維持しつつ,養殖に係る費用を削減できると考えられる。以上より,酒粕の養殖用飼料としての有効性の検証を行ったところ,約1か月間の給餌であれば,対照区と同等程度にマダイが成長することを確認できた。また,酒粕に含まれる遊離アミノ酸や,酒粕中の酵素による飼料中タンパク質の分解に伴う遊離アミノ酸の増加によって,マダイの摂餌行動の刺激や,魚体へのタンパク質性の栄養素の吸収が進む可能性を見い出した。一方,酒粕置換区のマダイと対照区のマダイの間に食味の差は認められなかった。これらのことから,酒粕には養殖用飼料としての有効性が十分にあると思われる。
本研究はマダイ2歳魚を使い,出荷直前の約1か月間の養殖を1回のみ行ったものであり,酒粕置換飼料の有効性に関して得られた知見は限定的と考えるべきである。さらに,酒粕は清酒の種類や発生する酒造場により,成分が変化し,養殖にも影響する可能性がある。これらについては,今後の課題として検討していく予定である。
精米による酒造用原料米の酒造適性変化に精米条件が及ぼす影響を明らかにするため,通常より細かい粒度のロールを装着し回転数を抑え電流値を高くした条件(#90扁平条件)と通常条件(#60通常条件)で,精米歩合80%~50%まで10%刻みで精米した原料米の酒造適性を比較した。
(1)#90扁平条件では,通常の精米時間より長くなったが,扁平形状に精米された。
(2)精米特性に関して,砕米率は#90扁平条件で高く,精米歩合50%では全ての米試料で20%以上となり急激に上昇する傾向がみられた。
(3)胚芽残存率は#60通常条件では精米歩合70%までで概ね除去されたのに対し,#90扁平条件では精米歩合70%で21~53%と精米歩合50%でも1.3~14.6%と胚芽が残存した。
(4)粗タンパク質は,両条件とも精米が進むにつれ減少したが,減少の程度は#60通常条件よりも#90扁平条件の方が大きかった。
(5)DSC及びRVAで測定したデンプン特性値は,#60通常条件では,精米歩合80%まで変化が大きくその後の変化が小さいのに対し,#90扁平条件では,精米歩合80%までの変化は小さくその後の変化が大きい傾向がみられた。
(6)脂質及びNa,Mg,P,K,Caは,玄米から精米歩合80%時点で大きく減少したが,減少の程度が精米条件により異なり,#60通常条件では精米歩合80%~精米歩合50%で概ね一定であったのに対し,#90扁平条件では精米歩合70%まで#60通常条件より含量が高く,それ以降一定となった。
(7)水浸裂傷に関して,#90扁平条件の方が吸水初期に割れやすかった。
(8)吸水性は,水分未調整米では,#90扁平条件の方が概ね吸水率が高かった。水分調整米では,5分及び10分間の吸水初期では#90扁平条件の方が通常より吸水率が概ね高かったが,20分及び120分間では条件で顕著な差異はみられなかった。
(9)消化性のBrix値は#90扁平条件の方が若干高い値を示した。
(10)消化性のアミノ酸含量は,両条件ともに精米が進むにつれ低下がみられたが,#60通常条件より#90扁平条件の方が低い値を示したが,消化液の無機成分は#90扁平条件で高かった。
(11)消化液のアミノ酸及び無機成分のMgやPの含有量は,米の含有量や胚芽残存率と相関が高かった。
(12)酒米統一分析に基づき精米した精米歩合70%白米の酒造適性値は,70%以外の精米歩合の分析値とも高い相関がみられ,精米歩合70%の試料の分析値でも高度に精米した場合の酒造適性を十分に評価できることが示唆された。