伝統的な発酵食品の製造では,多様な微生物が複雑に相互作用し合い生態系が形成される。先人たちの長年にわたる経験によって編み出された製造方法により再現性良く固有の微生物生態系を生み出し安定的な発酵を実現する様子は,現代の高度なバイオ実験にも引けを取らない。この解説記事では,チーズ,清酒,奈良漬における微生物生態系とその形成に関与する微生物間相互作用について,筆者らの最新の研究成果を交えつつ紹介する。
食酢の主成分が酢酸であることは常識とされてきた。これまで,出願特許まで広げて見た場合,グルコン酸を10%程度含ませる製法は存在したが,実際に製品が市場に出たことはなかった。ところが最近,グルコン酸を15%近くまで高めた全く新しい食酢(醸造酢)の開発に成功した報告がなされ,商品化が検討されている。特にこの報告では,通常では想像できなかった高濃度グルコン酸食酢の新規な用途開発の事例まで示された。そこで,従来の食酢の歴史,製法,使用される酢酸菌について説明いただいた上で,この新食酢の研究開発の経緯を解説いただいた。
京都伏見の酒蔵の技術者,蔵人で構成される「伏見醸友会」は,昨年令和5年に創立110周年を迎え,それを記念し「世界に羽ばたけ,日本酒!」をテーマに盛大な記念講演会を開催しました。本稿は,大正2年(1913年)より伏見の酒造りにおいて精力的な活動を続けてきた「伏見醸友会」の歩みとその役割について,また,今後の展望について手元にある資料を参考にまとめたものです。
モノテルペン配糖体高含有サツマイモ「霧N8-1」の配糖体分布および醸造適性についてコガネセンガンおよびジョイホワイトと比較,検討を行った。
1.リナロール,α-テルピネオールおよびネロールはペンタン・ジクロロメタンを用いた抽出を行わずとも,凍結乾燥粉末にβ-グルコシダーゼまたはβ-プリメベロシダーゼ処理を行うこと(酵素法)によって効率よく遊離された。酵素法により霧N8-1は塊根中にリナリル配糖体,α-テルピニル配糖体,ネリル配糖体およびゲラニル配糖体を高含有しており,特にCenterのリナリル配糖体はコガネセンガンの265倍,ジョイホワイトの183倍であり,配糖体の分布には品種間差があることが明らかになった。
2.発酵終了後の醪の一般分析結果および焼酎の一般香気成分のGC-MS分析結果から,新品種「霧N8-1」は発酵に悪い影響を与える物質を含んでおらず,また酵母の一般香気成分の生成はサツマイモ固有の性質の影響を受けていないと判断した。
3.霧N8-1を原料とすることによりリナロール,α-テルピネオール,ネロールおよびゲラニオールを高含有する芋焼酎を醸造可能であることが各焼酎のGC-MS分析結果から明らかとなった。特にリナロールは主要MTAの中で最大の濃度差を示し,コガネセンガンの31倍,ジョイホワイトの10倍であった。
4.リナリル配糖体,α-テルピニル配糖体,ネリル配糖体およびゲラニル配糖体を高含有する霧N8-1を原料として用いることにより,高含有されるMTAに由来する「ライチ・マスカット香」を特徴香として有し,コガネセンガン製やジョイホワイト製とは大きく異なる香味を有する芋焼酎が製造可能であることが明らかになった。