一、各種釀造物中に於ける「ヲルフロール」様物質は「エキス」分中「エーテル」に不溶の成分の加熱にょりて生成し、純醗酵作用に依りて來るものではない
二、一に該當する成分を釀造中に求むるに從來諸家の研究結果に基づき葡萄糖を主とし其他に姿芽糖「ペントース」等各種炭水化物を墨ぐる事が出來る
三、葡萄糖は、水溶液にて叉は、乳酸、琥珀酸等の弱酸性溶液にて加熱蒸溜するに温酒精に可溶の「フロログルシツド」を與ふる「オキシメヂルフルフロール」を生成する、但し再溜を重ぬれば「オキシメチルフルフロール」は次第に「フルフロール」に轉向し、遂に,「フルフロール」を主成分とするものに到達する
四、果糖溶液を加熱蒸溜する時溜出する「フルフロール」類は略々「オキシメチルフ卿フロール」に一致する
五、「アラビノース」溶液を加熱蒸溜すれば主として「フルフロール」を與ふ
六、「バルピッール」酸「アニリン」反應「フロログルシツド」の溶解度其他より、観察したる結果、第三報に於ける酵「エキス」及び醤油より蒸溜によりて得たる沸鮎一六〇度邊の「フルフロール」反應顯著なる匠分 (酵9及び醤14) は「フルフ賞ール」を主とし、之に「オキシメチルフルフロール」及び屡々「メチルフルフロール」を混合するもの叉醤油の場合の沸鮎一六入度以上の區分は主として「メチルフルフロール」より成るものなる事を知り得た、之等の生成機作としては先づ第一同の蒸溜により葡萄糖等より多量の「オキシメチルフルフロール」を生成すると同時に「ペントース」類よりは直接少量の「フルフロール」及び「メチルフルフロール」を生じ、一旦生成せる「オキシメチルフルフロール」の大部分は數同の蒸溜により次第に「フルグロール」に變形して存在するに至りしものと考へられる、因に清酒酵「エキス」及び醤油の蒸氣蒸溜第一同溜液に於ては温酒精不溶の「プロ・グルシツド」は痕跡を興ふるに過ぎないものである
七、以上の諸事實より實際の釀造物中に於ける状態を考察するに清酒・来酒.醤油等加熱作業を僅かに一同の火入によりて與へらる、に過ぎざるものに於ては、恐らく葡萄糖類より來る「オキシメチルフルフロール」を主體とし此の者の一部の變化せる「フルフロール」及び「ペントース」類より來れる「フルフロール」「メチルフルフロール」の微量 (醤油の場合は「メチルフルフロール」は稽々多量であらう) を含有すべく、一同の蒸溜により得らる、蒸溜酒に於ても、同様にして、不純酒精「フーゼル」油等の如く蒸溜を重ねられたるものに於ては概ね「フルフロール」を主要部とするものであらう
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