日本熱傷学会では, 日本国内における熱傷診療の全体像を把握し, 熱傷診療の質を向上させることを目標に, 2011年4月より「熱傷入院患者レジストリー」への症例登録事業 (以下, 本レジストリー) 登録を開始した. 2022年3月末までに登録参加施設は120施設, 延べ登録件数は20,000件をこえた.
本レジストリーは, インターネット上に症例登録データベースを構築し, 各登録施設にデータ入力を依頼している. 入力項目は25項目であり, 年次別に集計がなされ, 日本熱傷学会学術集会での報告とホームページ上に年次報告として公開されてきた. 登録内容として, 急性期治療のみならず慢性期における再建手術の実態も調査対象としている. 急性期治療においては, 登録概要, 記述統計, 気道損傷, 死亡統計, 小児, 高齢者, 急性期手術を検討項目とし, 再建手術ではその手術概要を検討している.
本研究では, 本レジストリーにおいて2011年4月より2021年3月までの10年間に登録されたデータを総括的に解析し, 現状の日本国内における熱傷診療の状況を報告する. 日本国内で熱傷診療を取り扱う主要医療機関における, 熱傷患者の臨床像や, 予後, 手術の状況などを網羅的に示す重要データと考えられる.
一方で本レジストリーは登録開始11年を経て, 治療内容の変化や, 熱傷診療ガイドラインの改訂も加わり, 現在の熱傷診療状況を反映させるには情報量が乏しくなった. また, 本邦におけるさらなる熱傷診療の質の向上に加えて, 熱傷診療ガイドラインの普及・遵守状況の評価, 国際的なレジストリーの比較, 熱傷に関連する国内のその他のレジストリーデータと互換性をもたせるという需要を満たすために, 2023年4月よりレジストリー登録内容および登録システムを全面的に改訂した. 本解析結果が, 現在の日本国内の熱傷診療の状況を把握するものであると同時に, 次世代の熱傷診療のさらなる発展に応用し, 反映されることを期待する.
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