熱傷
Online ISSN : 2435-1571
Print ISSN : 0285-113X
49 巻, 5 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 松村 一, 黒柳 美里
    2023 年 49 巻 5 号 p. 235-241
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル 認証あり

     自家培養表皮ジェイス®は広範囲熱傷治療において重要な役割を果たしており, その歴史, 臨床使用の変遷, 実績, 問題点について論じた. 自家培養表皮の作製方法は米国のGreenらにより1975年に確立され, 本邦ではジェイス®として製品化され, 2007年に製造販売承認を取得し, 2009年に保険収載された. ジェイス®は非常に薄くて弱いため, 当初は生着や剝離の問題があり, 移植母床の選択も悩ましい課題であった. ハイブリッド法と呼ばれる自家高倍率メッシュ植皮との併用方法を行うようになり, その生着率が改善された. さらに, ジェイス®の使用により広範囲熱傷の救命率も向上した. 2009年から2022年までに約3万2,000枚のジェイス®が移植されたが, 移植にいたったのは皮膚採取された患者の約70%であった. これは, 培養期間中に状態の悪化する患者が相当数いるためであった. このため, 採取・培養キットと調整・移植キットに保険償還が分けられることになった. また, 保険改定により保険償還される上限枚数が徐々に増加してきたが, それ以上の使用が必要かつ有効な症例も多く存在している. 今後の保険改定にてさらなる使用上限枚数の緩和に期待が寄せられている.

  • 井上 貴昭, 岸邊 美幸, 黒柳 美里, 佐藤 幸男, 根本 充, 林 稔, 廣瀬 智也, 松嶋 麻子, 森田 尚樹, 吉村 有矢, 佐々木 ...
    2023 年 49 巻 5 号 p. 242-251
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル 認証あり

     日本熱傷学会では, 日本国内における熱傷診療の全体像を把握し, 熱傷診療の質を向上させることを目標に, 2011年4月より「熱傷入院患者レジストリー」への症例登録事業 (以下, 本レジストリー) 登録を開始した. 2022年3月末までに登録参加施設は120施設, 延べ登録件数は20,000件をこえた.
     本レジストリーは, インターネット上に症例登録データベースを構築し, 各登録施設にデータ入力を依頼している. 入力項目は25項目であり, 年次別に集計がなされ, 日本熱傷学会学術集会での報告とホームページ上に年次報告として公開されてきた. 登録内容として, 急性期治療のみならず慢性期における再建手術の実態も調査対象としている. 急性期治療においては, 登録概要, 記述統計, 気道損傷, 死亡統計, 小児, 高齢者, 急性期手術を検討項目とし, 再建手術ではその手術概要を検討している.
     本研究では, 本レジストリーにおいて2011年4月より2021年3月までの10年間に登録されたデータを総括的に解析し, 現状の日本国内における熱傷診療の状況を報告する. 日本国内で熱傷診療を取り扱う主要医療機関における, 熱傷患者の臨床像や, 予後, 手術の状況などを網羅的に示す重要データと考えられる.
     一方で本レジストリーは登録開始11年を経て, 治療内容の変化や, 熱傷診療ガイドラインの改訂も加わり, 現在の熱傷診療状況を反映させるには情報量が乏しくなった. また, 本邦におけるさらなる熱傷診療の質の向上に加えて, 熱傷診療ガイドラインの普及・遵守状況の評価, 国際的なレジストリーの比較, 熱傷に関連する国内のその他のレジストリーデータと互換性をもたせるという需要を満たすために, 2023年4月よりレジストリー登録内容および登録システムを全面的に改訂した. 本解析結果が, 現在の日本国内の熱傷診療の状況を把握するものであると同時に, 次世代の熱傷診療のさらなる発展に応用し, 反映されることを期待する.

症例
  • 葉石 慎也, 中野 基
    2023 年 49 巻 5 号 p. 252-256
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル 認証あり

     膝関節の前面は軟部組織が薄く, 深達性熱傷などの外傷や軟部組織腫瘍切除により骨や関節の露出を伴う場合もあり, 膝関節周囲の再建においては関節の運動制限を生じないような適切な広さと厚さの組織を用いる必要がある1). さらに再建にあたっては露出部であるため再建後の皮膚の色調など整容的な面の配慮も必要となる2). 今回われわれは, 膝蓋部に生じた接触熱傷2例に対して, 上外側膝皮弁 (superior lateral genicular artery flap:SLGA flap) で再建を行い, 感染や膝関節の可動域制限なく経過し良好な結果を得られたため, 文献的考察を加え報告する.

  • 落 智博, 石井 暢明, 秋元 正宇
    2023 年 49 巻 5 号 p. 257-262
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル 認証あり

     【諸言】スマートフォンが発熱する危険性は周知されつつある. 今回われわれは, 睡眠中のスマートフォン稼働によるⅢ度熱傷の症例を経験した. いかなる条件下でスマートフォンがⅢ度熱傷にいたる熱源となりえるのか再現実験を行い検証した.
     【症例】72歳, 女性. 睡眠中にスマートフォンが右肩甲部の下敷きとなり低温熱傷を受傷した. 前医で約5ヵ月間の外用加療が行われたが改善を認めず, 当科紹介となった. 右肩甲部のⅢ度熱傷と診断し, 局所皮弁による再建を行った.
     【再現実験方法】自験例と同一機種を用意しアプリケーションの稼働・充電・保温の3条件を変えながら赤外線温度測定器で温度を計測した.
     【結果】自験例の機種はアプリケーションを稼働した状態で最も発熱しやすく, Ⅲ度熱傷発生の臨界温度に達した.
     【考察】スマートフォンのアプリケーション稼働の持続がⅢ度熱傷を引き起こす発熱の原因であることが示唆された.

研究速報
  • 山元 良, 佐藤 幸男, 松村 一, 池田 弘人, 今井 啓道, 上田 敬博, 福田 憲翁, 佐々木 淳一
    2023 年 49 巻 5 号 p. 263-267
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル 認証あり

     本報告では, 皮膚移植に関する臨床研究の立案過程を解説する. さまざまな皮膚移植法が存在するなか, 人工真皮を用いた移植によって創の機能や整容を向上させる可能性が示唆されている. 従来, 人工真皮を用いた治療戦略では, 人工真皮の移植・生着確認ののちに自家分層植皮を行うという二期的手術が一般的であったが, 近年では自家網状分層植皮の表層に人工真皮の植皮を一期的に行うという手法, 人工真皮サンドウィッチ法が提案され, 臨床実用されている. しかし, その効果は証明されておらず, われわれはその有用性を評価するため多施設共同前向き観察研究を実施するにいたった. そこで, 本研究の立案・開始までの過程を紹介する. 研究立案期において, 人工真皮サンドウィッチ法の対象創と対照術式の設定に苦慮した. 最終的に, 期待される効果を総治療期間の短縮効果および採皮面積の縮小効果の2つに整理し検討した. 総治療期間の短縮効果を評価するために, 深部まで及ぶ皮膚欠損創を対象創とし, 人工真皮を用いる従来の二期的手術を対照術式とした. また, 採皮面積の減少効果を評価するために, 広範囲皮膚欠損創を対象とし, 低倍率網状分層植皮を対照術式とした. また, 術式選択に関して多くの交絡因子が存在することが考えられ, 皮膚移植対象創に関する過不足ない情報が何かを検討し, アウトカムの評価方法について深く議論したことが, 研究計画設定において非常に重要であったと考えられる. 本研究結果がつぎのランダム化比較試験へ繋がることを期待している.

feedback
Top