臨床倫理
Online ISSN : 2435-0621
Print ISSN : 2187-6134
5 巻
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原著論文
  • 小形 香織, 竹下 啓, 有田 悦子
    2017 年 5 巻 p. 27-37
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/07/12
    ジャーナル フリー

     経口摂取ができなくなった高齢者に対して胃瘻を造設し経管栄養を行うかどうかは,高齢者介護施設においてしばしば直面する臨床倫理的問題である.しかし,介護施設職員が意思決定に参画しているか,その意欲があるのかは明らかではない.そこで本研究では,介護老人福祉施設4施設と介護老人保健施設1施設の職員255名に胃瘻造設に関する質問紙を配付し,67名から有効な回答を得た.胃瘻造設を検討中の患者・家族に関わった経験がある者は16名(23.9%),積極的に関わることへの意欲がある者は11名(16.4%)であった.介護施設職員が胃瘻造設の意思決定に関わることに消極的である背景には,医療者と家族との間で決定されるべきという認識や,胃瘻についての否定的感情があることが示唆された.また,患者本人の意向を確認したいという意識があることも明らかになった.今回の結果より,介護施設職員へ臨床倫理教育を行うことの意義を検討する必要があると考える.

実践・事例報告
  • 石川 博康, 糟谷 昌志
    2017 年 5 巻 p. 38-44
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/07/12
    ジャーナル フリー

     本邦の健康保険制度は,第三者行為により生じた傷病に対して代替的給付を行う仕組みを有している.患者がこの給付を受けるには第三者行為の届出が必要条件となるが,この届出は後に補償問題を惹起するため,患者と医師の意見が一致せず,倫理的ジレンマが生じる可能性がある.しかし,本邦ではこれまで,第三者行為の届出やこの代替的給付の仕組みと関連して医師の倫理的問題は研究されていなかった.

     我々は,第三者行為の届出と関連して倫理的ジレンマを生じた2症例を経験した.2症例とも,療養の給付事由に対する第三者行為の関与が絶対的なものではなかった.1例では医師の説得により届出が行われ,もう1例では届出が行われなかった.症例の経験を通して,この代替的給付の仕組みに関する幾つかの問題を指摘した.今後,第三者行為が部分的に関与した傷病の医療費請求のあり方について,さらなる議論を通じ,将来何らかの指針などが示されるべきであろう.

  • 藤倉 恵美, 宮崎 真理子
    2017 年 5 巻 p. 45-52
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/07/12
    ジャーナル フリー

    【症例】 69歳男性.血液透析歴10年.X−2年10月に自宅で心肺停止となったが蘇生に成功した既往あり.

    【現病歴】 X年3月透析前に意識消失し当院救命救急センターへ搬送された.到着時心肺停止状態であったが蘇生により心拍再開,補助循環装置を装着し冠動脈インターベンション施行後持続的血液濾過透析を開始した.循環動態は安定したが,臨床徴候,脳波や頭部CT所見から 「脳死とされうる状態」 1) と診断された.

    【経過/考察】 救急・集中治療領域における終末期医療のガイドラインと透析医学会の治療見合わせに関する提言をもとに救急科,循環器内科,血液浄化療法部の各専門医による協議を行い,コメディカルスタッフや家族とともに治療方針を決定し腎代替療法を見合わせた.救急・集中治療領域と慢性透析領域における腎代替療法の位置づけや終末期の考え方の相違を理解し,多職種が共同して方針決定を行う過程が重要である事が示された症例であった.

資料論文
  • 渡邊 淳子, 森 真喜子, 井上 洋士
    2017 年 5 巻 p. 53-62
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/07/12
    ジャーナル フリー

     摂食嚥下訓練において言語聴覚士(以下,ST)はジレンマを感じることがある.そこで,摂食嚥下訓練の場面に注目し,STが経験するジレンマの様相とそのようなジレンマが生じるプロセスを明らかにすることを目的とした.摂食嚥下訓練の経験があるST8名に半構造化インタビューを行い,得られたデータをStrauss & Corbin版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.10のカテゴリーと1つのコアカテゴリーが抽出され,帰結となったカテゴリーのうち《患者に無益な努力をさせ続ける苦悩》,《直接訓練を止めると患者が衰弱してしまうジレンマ》,《患者の益にならないような直接訓練を続けるジレンマ》,《患者の死に加担したように感じる苦悩》の4つのカテゴリーがジレンマの状況であった.そのうち3つの状況は倫理原則が対立する倫理的ジレンマの状況であった.また,本研究の結果から,STが感情労働による疲弊や共感疲労に陥るリスクが高いことも示唆された.

論壇
  • 奥澤 淳司
    2017 年 5 巻 p. 63-65
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/07/12
    ジャーナル フリー

     近年,医療機関を取り巻く環境は多様化と複雑化により,身体的特徴に加え,国籍,言語,文化,宗教等の様々な背景や価値観を持っており,これらの多様な倫理に基づいた対応が求められている.順天堂大学医学部附属順天堂医院では,国際認証の1つであるJoint Commission Internationalの取得を機に,倫理の枠組みを医療倫理,職業倫理,研究倫理に分け管理体制の抜本的な見直しを図った.医療倫理では患者の人格,価値観を尊重し,患者自らの意志で治療方法の選択できるよう整備した.職業倫理では,倫理的懸念が生じた際の相談窓口を設ける等して健全で安全な医療文化の浸透に努めた.研究倫理では,国内の各種法令等の遵守に加え,社会的弱者への配慮に努めた.

     今後の医療機関には,国際基準を踏まえた文化的背景を尊重した医療の提供が不可欠であり,全職員がこれらを理解,実践することにより,最良の医療をより多くの患者に提供できるものと考えられた.

  • 宮島 俊彦
    2017 年 5 巻 p. 66-72
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/07/12
    ジャーナル フリー

     地域包括ケアシステムの構築は,全国的な課題であるが特に都市部においては,施設が不足しており,緊急の課題となっている.特に,課題となっているのは,退院直後の在宅での受け入れに必要なサービスの整備,多職種連携による包括的なサービスの提供,サービスを提供する場の確保,生活支援サービスの確保,認知症の人の増加に伴う成年後見の普及などである.これらについては,単に地域包括ケアシステムの熟成を待つのではなく,緊急的に対応が必要になっている.本稿では,これらの課題について,日本版在宅入院制度,大規模多機能型居宅介護看護,空き家の活用方策,生活支援サービスの設計図の作成,市民後見人の支援監督事務の市町村への義務化を提言している.

  • 川﨑 志保理, 櫻井 順子, 金子 真弘
    2017 年 5 巻 p. 73-76
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/07/12
    ジャーナル フリー

     エホバの証人の患者の輸血拒否に関しては,現場では画一化された対応がなされているとはいい難く,その解決には現状の把握が重要である.エホバの証人の信者の方にインタビューを行うことによりその結果と医療現場との考えを比較してみると,患者の権利,医療,法だけでは解決できない問題が根底にあり,臨床倫理に基づいた対応がエホバの証人と医療側との相互理解につながる可能性があると思われた.

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