臨床倫理
Online ISSN : 2435-0621
Print ISSN : 2187-6134
9 巻
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原著論文
  • 入澤 仁美, 小林 弘幸, 櫻井 順子, 唐澤 沙織, 川﨑 志保理
    2021 年9 巻 p. 5-19
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

     日本では都市化や核家族化に伴って在宅死が減少し,今や病院死の割合は約80%にものぼり,急性期病院でも終末期患者のケアの充実が課題となっている。急性期病院である順天堂医院の看護記録には,終末期の患者特有の苦痛を表す表現として,「身の置き所がない」という表現がしばしば使われている。本稿では,J大学付属病院で看取られた患者の,臨死期の電子カルテの内容を確認し,「身の置き所がない」というアセスメントがされた経緯をまず考察し,考察の結果,看護師は患者に発現している終末期患者に特有の苦痛が,進行中の治療では十分に症状緩和ができていないという判断をした場合に,「苦痛の原因を早急に特定し治療の幅を広げる必要がある」ことを含有した表現として,「身の置き所がない様子」という表現を使用していた。このような場面において必要な緩和ケアの在り方について,倫理的観点から考える。

  • 實金 栄, 井上 かおり, 山口 三重子
    2021 年9 巻 p. 20-28
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

     本調査は,訪問看護ステーション管理者の臨床倫理ケースカンファレンスの実施状況と支援に対するニーズを明らかにすることを目的とした。全国1,500の訪問看護ステーションの管理者に調査を行い,有効回答は393人であった。調査期間は2019年11~12月。調査内容は臨床倫理コンサルタント役割の認知と実践,負担感,ケースカンファレンスにおいて支援を期待する専門家とオンライン相談希望の有無,期待する組織的支援等で構成した。調査の結果,管理者はコンサルタント役割を自らの役割と認知していたが,実践している者は少なく,役割に対し負担を感じていた。また管理者は専門看護師や保健福祉医療制度の専門家からの支援を希望していた。オンラインでのコンサルテーションシステムに対しては,守秘義務違反や情報漏洩,対面で会話できないことで,正確に判断してもらえるかとの心配があった。

  • 藤本 学, 島村 美香, 稲葉 一人
    2021 年9 巻 p. 29-40
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

     医療現場における破壊的行動は,患者の安全に深刻な影響を及ぼすものとして,アメリカでは対策が取られてきた。一方,日本では未だ正しい認識がされていないのが現状である。そこで,本研究は日本の医療現場における破壊的行動の性質,および対象となった医療者の適応状態と患者の安全に及ぼす影響について検討した。看護師を対象に,医療現場における破壊的行動に関する質問紙調査を行った。カテゴリカル因子分析により,一見,指導的に見える嫌がらせや言語化されない侮辱行為といった「陰湿な破壊的行動」と,あからさまな拒絶感や直接的な怒り感情の表出といった「露骨な破壊的行動」が特定された。そして,前者の陰湿な破壊的行動は対象となった医療者の心理的・社会的適応状態に,後者の露骨な破壊的行動は患者の安全に,それぞれ負の影響を及ぼすことが明らかになった。最終的に,破壊的行動のタイプに応じた対策の必要性が議論された。

実践・事例報告
  • 恋水 諄源, 山本 千明, 向山 和加乃, 山本 真世, 中村 紳一郎, 澤田 凌, 山本 千恵
    2021 年9 巻 p. 41-47
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

     結核治療においては,治療の利益および公衆衛生上の必要性に対し本人の意向が衝突し,倫理的妥当性が問われる場合がある。人生の最終段階における結核治療につき倫理コンサルテーションを行った事例を報告する。

     95歳男性。活動性結核で入院したが,当初より寝たきりで嚥下障害を認め,徐々に服薬不能となった。治療し住み慣れた施設に戻れるよう経胃管投薬が検討されたが,本人は積極的治療を希望しない。治療の倫理的是非を検討したが,医療者からは公衆衛生上の理由で治療を行わざるを得ないのではないかという意見を得た。感染症診査協議会での付議を依頼したところ,積極的治療は行わず支持療法のみとなった。

     結核治療では服薬とその支援が重要である。しかしその背景には治療し社会復帰を目指すという考え方があり,人生の最終段階にある患者には必ずしもそぐわない。ここで生ずる倫理的問題に気付き,判断の透明性・一貫性を高める取り組みが必要である。

  • 水野 礼, 入澤 仁美
    2021 年9 巻 p. 48-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

     現在,生殖医療の臨床においてカウンセリングは必須とされていないが,生殖医療に関わる当事者(医療者,不妊治療経験者,配偶子提供により生まれた出生児)を対象とするインタビュー調査を行ったところ,DC(donor conception)や性機能に障害を抱えるケースにリプロダクティブ・ライツが侵害され得るケースが散見された。そして,そのようなケースでは,養育段階における出生児の福祉や利益が侵害されるという倫理的問題が生じる懸念がある。このような問題の背景には,患者が挙児への強いプレッシャーを感じていたり,「子を得られれば幸せになれる」と妄信し,治療の先に続く育児や夫婦関係を見据えた長期的視野を失っていることが挙げられる。

     このような倫理的問題を解決するために,患者自身が抱えている困難に向き合った上で生殖に対する自己決定権を行使できるよう,不妊治療の担当医がメンタルヘルスケアの専門職と連携し,患者の支援をおこなう必要性があることを提起した。

論壇
  • 三上 容司
    2021 年9 巻 p. 57-62
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

     整形外科医である筆者は,某政令指定都市にある大規模急性期病院で,2010年より臨床倫理活動を開始し,倫理コンサルテーションチーム(ECT)のマネジメントに携わってきた。まず,ECTの病院組織内における位置づけを明確にし,また,ECTの役割を倫理コンサルテーションと臨床倫理の啓発・教育と定めた。倫理コンサルテーションの内容を電子カルテに残せられるように,統一した書式を米国より導入し,倫理コンサルテーション情報の管理を一元的に行えるようにした。啓発・教育目的に院内職員向けに,講義と事例検討会を組み合わせた研修会を定期的に開催した。その結果,ECTへの相談件数は徐々に増加してきた。コンサルテーション・ニーズの把握,ECTメンバーのスキルの維持・向上,人的資源の拡充,ITを利用した研修会の開催,地域との連携などが今後の課題である。

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