1. 我國ポルトランドセメント規格に於けるMgOの制限3%なるものが如何なる重要性を有するかを檢討せんが爲に工業的原料たる石灰石、白雲石、土丹及補助原料として珪砂及紅柄を用ひ、總てSiO
2:Al
2O
3:Fe
2O
3を一定に保ち、 (1) 水硬率CaO/(SiO
2+Al
2O
3+Fe
2O
3) を2.00とし、MgOを1.25-12.00%間に變化せしめたる第1種と、 (2) MgOを8.00%とし、水硬率を1.77-2.10間に變化せしめたる第2種の調合物を造り、之を竪窯にて燒成し、石膏を加へて粉碎し、得たる燒塊及セメントに付て各種の性質を試驗せり。
2. MgOはCaOの化合を妨げず。寧ろ之を幇助する傾向あるが如し。
3. 規格に依る比重、膨脹性龜裂 (浸水法)、凝結等の試驗を行ひたるに、全部合格せり。
4. 規格に依る抗張力試驗に於ては、MgO8%にして水硬率1.77の試料を除き全部合格せり。第1種に屬するセメントの内、MgO8%のものは市販品及MgO少きものに比し強度劣らず、第2種に於ては水硬率と共に強度増進し、MgO8%にして水硬率2.10なるセメントは最高の強度を示したり。
5. 長期に於ける性状變化の傾向を求むる目的を以て、供試體を139~140℃ (3.5氣壓) のオートクレーブ中にて熱し其強度と膨脹を檢したり。其内強度は、抗張供試體を28日間水中にて硬化せしめたる後6及16時間熱したるに、MgO12%のセメントは崩解し、MgO8%にして水硬率1.77のセメントは著しき強度の減退を見たるも、他は總て其増進を示し、MgO8%にして水硬率2.10のセメントは依然最高の強度を示せり。
6. 前項膨脹試驗は純セメント供試體につきて測定せり。第1種のセメントの實驗結果を見るに、MgO12%のものは其の膨脹3%以上にも達せるに、MgOの含有量8%以下のものはすべて0.4%以下の膨脹を示し外觀上にも何等の變化を認めざりき。第2種に於ては、水硬率の高まるに從ひて膨脹を急減し、該率1.77のとき1.7%を超過せるに、2.10の供試體は0.2%以下なりき。
7. 燒塊の鏡檢を行ひたるに、新しき化合物又はペリクレースを認めず。唯第1種MgO 12%の薄片に隱微晶質らしき特異なる物質の集團を、第2種水硬率1.77の薄片に二次生成物を認めたり。
8. 要するにMgO8%迄は實用上差支なきが如し。MgOは先づFe
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3と作用し、殘れるMgOは或る限度内に於て3CaO・SiO
2と固溶體を造るならん。
終りに、著者は懇切に本實験を援助せられたる末野悌六、山内俊吉兩學士に對して滿腔の謝意を表す。
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