本報は混合ポルトランドセメントに關する既報の第1-15報の繼續試驗研究結果の要點を報告したもので要點は次の通りである。
(1) 混合材として既報の多珪酸鹽 (全珪酸約85-90%), 可溶性珪酸約80-85%以上の樣なもの) のものの外凝灰岩, 石英粗面岩などの風化物で珪酸が稍少く礬土の稍多いもの (全珪酸約60-70%, 全礬土約10-20%, 可溶性珪酸約30-40%, 可溶性礬土約10%位) が混合材として用ゐた場合短期強度は劣らないが耐水耐鹹性, 膨脹收縮性などの點に於て此の可溶性礬土のため稍上記多珪酸質混合材に劣る樣である。
(2) 高爐鑛滓も亦珪酸約32-35%, 礬土約12-15%が何れも可溶性であるから之を40-50%混用する高爐セメントは上述の (1) の混合材に依る混合セメント同樣に耐水耐鹹性に於てポルトランドセメントには優るけれども多珪酸質混合材を用ゐる混合セメントには劣る。
(3) 礬土セメントも其の水硬性の主要化合物の礬土酸石灰鹽の加水分解生成物
mCaO・Al
2O
3・
nH
2O, 之と硫酸鹽との複鹽
lCaO・Al
2O
3・
mCaSO
4・
nH
2Oなどのため龜裂崩壞が著しい。
(4) 多珪酸質混合材を用ゐた混合セメントは耐水耐鹹性は最も優れ, 強度の増進も大きく, 殊に硬練のモルタルの強度は非常に優秀である。
(5) 尚各種セメントの硬化中の發熱に就ては目下研究試驗中であるから後日之を報告する。混合セメントが普通ポルトランドセメントより低發熱性であることは明白な點で而も硬化物の水酸化石灰の遊離生成に基づく耐水耐鹹性がポルトランドセメント系のものでは除くことの出來ぬ點であることも何等疑を容れぬ點である。最近低發熱性ポルトランドセメントの製造にのみ專念して居るところでは此の低發熱性の點のみを示し硬化物中の遊離水酸化石灰に基づく不利な點は殆んど觸れない (メリマン式10%Na
2SO
4溶液試驗も普通, 高級, 低熱ボルトランドセメントだけに行つて, 發熱性に供試した高爐セメント, 珪酸質混合セメントに就ては此の10%Na
2SO
4溶液の耐久性を發表しないである) で, 又硬化體の空氣中の收縮性が混合セメントに大きい (之は混合セメントの化學から見て當然なことはセメシト化學の初歩でも知つて居る) ことだけ掲げ水中での收縮性には大差ない點は少しも示さず, 全く意識的に偏頗な議論を敢へてして恥ぢるところのない樣なやり方を排し各種セメントの公平な試驗研究が望ましいので敢へて茲に苦言を提し世の批判を乞ふ次第である。
終に此の試驗研究には旭化學工業奬勵會及び大堰堤國際會議日本委員會からの援助を受けた點が多いことを銘記して茲に深謝の意を表したい。
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