第1報以來の繼續研究として普通の曹達石灰硝子を中心にして硝子の化學成分と其の水溶性乃至は耐水性を粉末法に依つて研究して來たもので本第5報には更に之に熱處理の如何が耐水性にどんなに影響するかを檢討しやうとして初めたものの一部を報告したものである。 其の要點を摘録すると
(1) 曹達石灰硝子の基本硝子としてNa
2O 15%, CaO 13%, SiO
2 72%の硝子 (略々Na
2O・CaO・5SiO
2) をSCN
4-K
0とし此のNa
2O 1分子の1/4宛をK
2Oで置換したSCN
3-K
1, SCN
2-K
2, SCN
1-K
3, SCN
0-K
4と合計5種の硝子を珪砂, 炭酸石灰, 炭酸曹達, 長石から試製し其の0.49-0.75mmの粒子で常壓 (1氣壓) 5氣壓 (約156℃), 10氣壓 (約181℃) の加壓水蒸氣壓の下に其の水溶性を試驗しNa
2OとK
2Oとの等分子比のもの即ちSCN
2-K
2のものが最も耐水性が優れ, 又各試料を200℃, 8時間加温すると稍K
2Oの多いSCN
1-K
3の方へ耐水性の優れた點が移動することを認めた。
(2) 市販の化學實驗用硝子としてビーカー硝子, 試藥壜硝子, 燃燒管硝子の各1種宛を試料に供し其の0.49-0.75mmの粉末で (I) 其儘, (II) 550℃に熱すること45分間の後20℃/hrの速度で徐冷し, (III) 此の徐冷の途中300℃から80℃の水に急投冷却した3種の試料で比重を見ると概して (II) が最大, (III) 之に次ぎ (I) 最小, 而もビーカー硝子に特に大小の差が著しいのはアルカリ分の多いため及び吸藏瓦斯の多いためであらふ。 尚是等の各試料を粒子法で常壓, 5氣壓, 10氣壓の水溶性を試験し, (II) 又は (III) の熱處理したものが (I) の原試料より耐水性がよいことは前節の結果と一致し, 殊にビーカー硝子の様なアルカリの多い硝子に著しいことは斯様な硝子に熱處理を充分に行ふことの必要なことを示し, 特にビーカー硝子が水, 各種水溶液を取扱ふのに斯く耐水性不良の硝子の多いことは注目すべき點である。
(3) 磨板硝子と其の燒入安全硝子とは佛, 日, チエッコの3個國の製品を得て其の化學成分を比較しチエッコ品に苦土の多い特性を見, 夫等燒入品の破碎情況を見, 20%HClと20%NaOH溶液に依る溶解性が酸とアルカリとで特徴のある差を示し, 0.49-0.75mmの粒子で (I) 原試料, (2) 550℃から急冷, (3) 550℃から60℃/hrの速度で緩冷の試料で常壓, 5氣壓, 10氣壓の水溶性を比較檢討して燒入の如何は耐水性に大差がないが幾分耐水性がよくなること, (I) 原試料よりも (2) 急冷, (3) 緩冷で水溶性が著しく減じ, 佛, 日, チェッコの各製品に依つて水溶性に相當の差があるが之は主に化學成分に關係し珪酸が少く從つてアルカリが多いものは自然水溶性が大きい。 是等各種の硝子系列に就ての化學成分と水溶性, 殊に本報には之に更に熱處理の如何を加へた各種の比較試驗に依りつて化學成分の外尚熱處理の如何が重大な關係のあることを認め殊に曹達石灰硝子に於て石灰又はアルカリの一部を苦土, 礬土で置換してアルカリの中の曹達を加里にすることと熱處理とには最も密接な關係があることを認めたので次の第6報には此の點を一層深く研究試驗した結果を報告するつもりである。
終に此の研究には文部省自然科學研究奨勵補助費に負ふところが多いことを茲に明記して深く感謝の意を表したい。
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