セリット部分に關する研究の一指針とするためにブラウンミレライトを中心とした内外の諸研究家の研究を再檢討するために實驗した。
この目的を達するため今までCaO-Al
2O
3-Fe
2O
3系でセリット部分の研究に表れてきた3CaO:Al
2O
3:Fe
2O
34CaO:Al
2O
3:Fe
2O
3, 5CaO:Al
2O
3:Fe
2O
3, 6CaO:2Al
2O
3:Fe
2O
3及び6CaO:Al
2O
3:2Fe
2O
3等の調合燒成物を作り之を顯微鏡及びX線的に研究した。
之等の研究結果は大體次の様であつた。
(1) 各燒成試料は1-3種の異なる結晶物質からなるが燒成物の全部又は大部分を占める主鑛物は皆褐色纎維状の複屈折強く屈折率大なる鐵系化合物からなる結晶である。
(2) 顯微鏡的に各試料の主鑛物である鐵系化合物からなる結晶は皆累帶構造が發達してゐる。 これは固溶體をなす物質に見らるゝ一つの結晶相である。
(3) 之等の各試料はX線的に皆2CaO・Fe
2O
3型の廻折線を與へ主鑛物は全く同じ型の内部構造をもつことが分る。 たゞ相互の格子面間巨離 (又は格子恒數) が皆違つてゐるだけである。 この關係は固溶體によく見らるゝ現象であつて之等主鑛物なる鐵系化合物は皆2CaO・Fe
2O
3型の固溶體であると考へることが出來る。 この事は顯微鏡觀測の結果ともよく一致してゐる。 しかしこの主鑛物が如何なるものゝ固溶體であるかは今後の研究に俟つの外ない。
(4) 4CaO:Al
2O
3:Fe
2O
3燒成試料の格子面間巨離
dは過去の人々によるブラウンミレライトの數字とよく一致してゐる。
(5) 各試料燒成物の格子面間巨離
dは2CaO・Fe
2O
3, 6CaO:Al
2O
3:2Fe
2O
3, 3CaO:Al
2O
3:Fe
2O
3, 5CaO:Al
2O
3:Fe
2O
3, 4CaO:Al
2O
3:Fe
2O
3, 6CaO:2Al
2O
3:Fe
2O
3の順に逐次縮小してゆく。 從つて本實驗だけの結果から考へると之等各試料中の主鑛物は皆一つの固溶體系に屬すると考へられる。 又無理に化合物の存在を考へると著者の本實驗の範圍内で論ずれば4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3よりも格子面間巨離の縮小してゐる高石灰アルミナの6CaO: 2Al
2O
3:Fe
2O
3燒成物中の主鑛物の如き化合物を考へねばならぬ。 そして4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3は2CaO・Fe
2O
3と6CaO:2Al
2O
3:Fe
2O
3燒成物中の主鑛物の様な化合物との固溶體の一領域であると考へねばならぬ。 この様に何れにしても4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3なるブラウンミレライトの存否は尚ほ研究してみる必要がある。
(6) S. Solacoluがブラウンミレライトの存在に賛成した實驗は本實驗結果から見ると恐らく誤りであらう。 4CaO:Al
2O
3:Fe
2O
3よりも單に石灰のみを増す場合生成する鐵系化合物は石灰が増せば増す程却つて4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3よりも次第に低石灰-アルミナの鐵系化合物を生成する。 從つてAl
2O
3/Fe
2O
3(分子比)=1である様な高石灰の特殊ポルトランドセメント中にはSphon氏の言ふ様に4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3が存在することは疑問である。
終りに臨み始終御懇篤なる御教導を賜はつた恩師東京工業大學授近藤清治博士並に本實驗を熱心に援助された近藤教授研究助手小西幸平氏に對し深甚の感謝を捧げる。
抄録全体を表示