本報に於ては先づ粉碎機構に關する既往の諸説を簡單に紹介しこれに批判を加へ次に珪砂の粉碎に關する筆者の研究とそれより導出された累加粉碎, 累加分布の兩法則及び指數法則に就て述べたのであつた以下順を追つて摘記列擧すれば:
(i) P. K. von Rittinger, F. Kick兩氏の研究は古くしてその原著に接し得ないが, その主張する所は相容れないのであつて他の有力なる研究が必要であつだ.
(ii) G. Martin氏はその何れが正きかを判定する爲, 珪砂み粉碎と粉末の表面積測定試驗とを嚴密に行つた結果Rittinger's lawを肯定した.
(iii) A. Nilsson氏はロングミル内の粉碎過程に從つて4900孔篩上殘滓を測定し一つの數式を提案してゐるが, それを裏付ける實驗記録なく批判檢討の資料に乏しい.
(iv) 著者はRittinger's lawが見掛けの法則であつて, 他により根本的な法則の存在すべきを豫見し, それを確立することにより粉碎理論の發達に資せん爲, 先づチューブミルによる珪砂の粉碎試驗及び風篩及び金網篩による粉末度の測定試驗を行つた.
(v) 本研究の對象は元來セメントであるが粉碎に關し珪砂が代表物質として選ばれる理由を述べ又珪砂粉末粒子の場合にも粒子形相似の法則の成立すること, セメント粒子に比して鋭角的形状を有することを明にした. 風篩試驗はセメント粒子の場合と同様の方法, 機構に於て行はれることを述ベた.
(vi) 粉碎經過に從つて採取した粉末度の異る9種の粉末の粉末度實測値は1%以内の相違を以て
R=100
ek1xn R: 殘滓量,
x: 粒子徑,
k1,
n: 恒數
なる式によつて表される. 而も
nは1に非常に近くその上
k1と粉碎エネルギー
Eとの間には
k1=λ
1E λ
1: 恒数
なる比例關係の成立することを明かにした. 以上の事實から累加分布の法則を確立し得た.
(vii) 上記9種の粉末を10μ, 20μ, 30μ, 40μ, 4900孔篩を限界として分離した残滓量
Rとその粉末を生ずるに要したミル廻轉數
Zとの間には次の關係が成立する.
R=100
e-k2Zm k2,
m 恒數
上式は實測値を非常によく表はし且
mは1に近い値をとり又
k2と限界粒子徑
xとの間には
k2=μ
xなる直線的關係の在ることが明かとなつた. 以上の事實から累加粉碎の法則を確立し得た.
(viii) 是等累加分布, 累加粉碎の兩法則から數學的に指數法則
R=
e-bExR: 殘滓量,
E: 粉碎仕事量,
x: 粒子徑,
b: 恒數
を歸納し得た, これは粉碎機講に關する根本的法則で粉碎に於ける多くの事實を説明し, Rittinger's lawをも導出し得ることを示した.
(ix) 以上の如くして本邦, 外國の各種物質の各種粉碎法による粉末の分布状態の規則性及びRittinger's law等は本報説明の粉碎機構によつてその必然性が認められた.
尚, 本研究に際し多大の御援助を賜つた淺野セメント技術顧問藤井光藏氏に謝意を表し, また發表を許容された研究所長中川博氏に厚く御禮申上ぐる次第である.
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