ウルトラマリンはLinde Aモレキュラーシーブ (MS5A, MS4A) から, 以下の操作を経て合成される. (1) Na
2S飽和水溶液中でMSにNa
2Sを含浸させ, 生成したMS-Na
2Sの乾燥, (2) 500℃におけるMS-Na
2S上の硫黄の吸着, (3) MS-Na
2S-S (500℃) の820℃への加熱及び (4) MS-Na
2S-S (820℃) の500℃以上での空気酸化.
上記操作におけるNa
2S, S及びH
2Oの化学的役割を明らかにするために構造及び機構論的研究がなされた.
MS-Na
2S-S (500℃) のX線回折パターンは700°-820℃まで昇温すると (17℃/min), ウルトラマリンのそれに変化した. MS4AとMS4A-Na
2Sを800℃まで加熱したらカーネギー石が生成した. 上述の事実は, 約700℃でαケージ中のNa
2S
xがβケージに押し込まれ, βケージ中の
2S
xの存在はβケージの崩壊を妨げていることを示唆する.
2S
xが約700℃でβケージの入口を通って移動することは, もしSO
2と
2S
xが共存すれば容易にSO
2の分解反応が起こるが, これがMS-Na
2S-S (820℃) 上で700℃から起こった事実によって確認された.
ウルトラマリンの酸化においては, 分子状酸素は空気酸化過程で形成された硫黄酸化物よりも活性がなかった. 硫黄酸化物はβケージの狭い入口をほとんど通過できないから, 酸化は主として硫黄酸化物から生成した原子状酸素ラジカルあるいは・OHラジカルによってひき起こされていると推論するのが合理的である.
500℃における空気酸化によって, MS-Na
2S-S (820℃) から得られたウルトラマリン中に・O
2Hと帰属することができるESRシグナルが認められた. この事実は空気酸化過程における・OHラジカルの存在を示唆する.
MS4A-Na
2S-S (820℃, S: 5wt%, 黄色), 硫黄及びH
2Oの混合物をN
2気流下で800℃まで加熱するとH
2Sの発生とウルトラマリンの青色の着色化が起こった. この場合, ウルトラマリンの硫黄含量は変化しなかった. H
2Sの発生はH
2Oからの酸化剤の生成を必然的に伴うから, これらの事実は, 高温及び硫黄存在下では, H
2Oがウルトラマリンに対して酸化剤として機能することを示す.
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