1. 微小電極とstrain gaugeを用いて, 家兎の心房大静脈標本および近心部大静脈条片標本の興奮と収縮について研究し, これを心房筋のそれらと比較検討した. 2. 心房大静脈条片標本および自動性を有する上大静脈条片標本から, 細胞内活動電位と, これに同期した攣縮張力を同時に記録することができる. しかし自動性を欠く下大静脈からは, 細胞内活動電位も攣縮張力も記録することができない. 3. 心房大静脈標本において, 同一心周期で最も早く収縮するのは上大静脈の起始部であり, 右心房収縮に20~30msce先行する. これは, 同部の弁作用としての生理的意義を示唆する. 4. 上大静脈には, 心筋同様に階段現象やvulnerable periodが認められるが, 他方, 平滑筋の混在を思わせる加重を伴った不完全強縮現象をみる場合がある. 5. 刺激頻度と収縮張力の関係, 刺激休止期間とrest potentiationの関係を上大静脈と心房について比較すると, 両者の間には有意の差が認められる. 6. 上大静脈にepinephrine, norepinephrine, isoproterenolを作用させると, 攣縮張力はすべて著名に増強する. しかし活動電位の接続は前2者ではやや延長するのに, 後者では短縮する. 7. propranolo(β-blocker)を上大静脈に作用させると, 活動電位の立ち上がりにsiurrやnotchを生じ, 次第に高さが小となり, 収縮張力も漸減し, ついには伝導が杜絶する. 心房においても同様の変化が認められる. 8. propranololで前処置した上大静脈にepinephrine, norepinephrine, isoproterenolを作用させても攣縮張力は増大しないが, 静止張力については, 前2者では著名に増大し, 後者では不変である. しかし, tolazoline(α-blocker)で前処置した場合には静止張力は増大しない. 下大静脈と心房では, propranololで前処置を施しても, 静止張力は常に不変である. これらの事実は, 上大静脈中に交感神経性α-受容体の興奮で持続的収縮を営む平滑筋と, β-受容体の興奮で攣縮張力を増強する心筋様横紋筋が混在することを示唆する. 9. 比較的高濃度のacetylcholineを上大静脈に作用させると, 心房筋と同様に静止電位がやや増大し, 再分極が著名に促進, 攣縮張力は著減するが, 数分後にatropineを加えると, 逆に持続の長い活動電位を伴った異常に大きな収縮をきたす. これは, acetylcholineが大静脈の組織を刺激してcatecholamineを遊離させるためと推測される. 10. 強心配糖体oubainを心房に作用させると, ほとんどの例(90%)で収縮張力が増強するが, 上大静脈では40%について増強するにすぎない. 一方, 上大静脈, 心房とも活動電位には有意の変化が認められない. 11. 家兎の近心部大静脈は, 少くとも 機能的には心筋と血管平滑筋の両方の性質, またはその中間的性質を有し, この部には大別して律動的収縮と持続的収縮の2つが存在する. 前者は心筋様横紋筋に由来し, 心房収縮時に生じる大静脈への血液逆流を阻止するように働き, 後者は血管平滑筋に由来し, 還流静脈血量の調節にその生理的意義を有するものと考えられる.
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