狭心症で発症し冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting; CABG)を要する症例において頸部内頸動脈狭窄を合併する場合は,たとえ拍動下(off-pump coronary artery bypass: OPCAB)で行ったとしても,狭窄が高度であれば術中の血圧低下による脳虚血が危惧される.頸動脈血栓内膜剥離術(CEA)とCABGの組み合わせでは,同時手術が最も合併症が少ないとも報告されているが,その成績は必ずしも良好ではない.ステント留置術は,本邦では保険未承認であるといった社会的理由以外にも,特に後拡張時の頸動脈洞への刺激による低血圧が,さらに重篤な心筋虚血を誘発する可能性も危惧される.今回われわれは4症例において,まずはCABG周術期のリスクを軽減する目的で,頸動脈狭窄に対する意図的なpartial balloon PTA (adjuvant PTA)を行った.Adjuvant PTA後の早期にCABGを施行し,手術侵襲の回復を待ってCEAによる根治的治療を行ったので報告する.症例は71〜75歳(平均73.3歳)の男性4例.狭心症で入院しCABGが必要と診断されたが,脳血管造影にて頸動脈に77〜99%(平均93.0%)の高度狭窄が確認され,3例ではいわゆるnear-occlusionであった.Distal protection下で3〜3.5 mmの細径のballoonを用いてadjuvant PTAを行い,低血圧や心筋虚血の合併なく,狭窄率は50〜70%(平均58.8%)まで改善した.PTA後の平均7.0日目にstrokeの合併なくOPCABが行われ,PTA後平均10.8週でCEAを行い,1例では狭窄が一部残存したものの比較的良好な拡張が得られた.一連の周術期におけるmajor strokeや心筋梗塞の合併はなく,permanent morbidity+mortality rateは0%であった.頸動脈高度狭窄を合併したCABG術前症例に対する"adjuvant PTA→CABG→CEA"の順での段階的な治療戦略も,安全で有用な一つの選択肢と思われた.
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