ヘパリンが誘引となり血栓塞栓症を引き起こすという逆説的な現象は,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)として病態が解明されつつある. HITでは,血小板第4因子(PF4)とヘパリンとの複合体に対する抗体(抗PF4/heparin抗体)が,血小板,血管内皮を活性化させ,トロンビンの過剰産生を生じ,血小板減少,動静脈血栓症を誘発する.通常発症型HITは,ヘパリン投与開始後5〜14日の間に発症する,抗PF4/heparin抗体はヘパリン中止後も陰性化まで50〜80日程度必要で,この間にも発症しうる(遅延発症型).また,抗体陽性例にヘパリンを再投与すると,数分から数時間で急速に発症しうる(急速発症型).適切な治療を行わなければ25〜50%に血栓塞栓症を合併し,血栓症による死亡率は5%程度に及ぶとされる.治療として,ヘパリン生食などを含めたすべてのヘパリンを中止するとともに,抗トロンビン剤を投与することが必要となる.本邦におけるHITの発症割合,特徴を把握するために,後向きならびに多施設共同前向き観察研究を実施した.また,HIT治療薬として海外で既承認のアルガトロバンについて,医師主導治験を実施した.今後,これら科学的根拠に基づいた本邦でのHIT診断基準,治療指針の確立を目指している.
抄録全体を表示