"Primum nil nocere"(侵襲を最小限にする)という考えは,Hippocratesの時代より外科分野での永遠のテーマであった.しかし,近年の光学技術の進歩と周辺機器の開発により,内視鏡を中心にした低侵襲切開手技によるヘルニア摘出術の進歩には目をみはるものがある.皮膚切開のみでなく,アプローチ起因障害(approach related morbidity)を最小限にして,神経根に対する影響を可及的に少なくする.そして,日帰り手術(DS;day surgery,outpatient surgery,same day surgery,ambulatory surgery)により,早期の社会復帰を目指す.米国では,1983年のMedicareの入院医療の包括支払い(prospective payment system)の導入により,外来での手術に移行する割合が多くなっている.腰椎椎間板ヘルニア摘出術は,高位や横断面での発生部位によっては,直接神経根周囲の椎間板を切除し根を圧排する病態を取り除く手技を,局所麻酔あるいは全身麻酔により行い,手術当日か1泊2日の24時間以内の退院が可能となる手技が開発された.それが経皮的内視鏡椎間板ヘルニア摘出術(PELD;percutaneous endoscopic lumbar discectomy)であり,椎間孔の外側からアプローチする方法と椎弓の間からアプローチする方法がある.PELDは,1975年の土方らによる経皮的髄核摘出術(PN;percutaneous nucleotomy)から発展し,内視鏡が導入され,さらに髄核より後方の椎間板ヘルニアに直接到達する手技に変化してきた,わが国発想の手技と言って過言でない.後縦靭帯や骨の損傷を最小限にして術後の不安定性を減少させ,椎間関節症の変化や椎間腔の狭小化を予防する点で利点がある.術後の回復やNSAIDの使用量からみて患者の満足度は高く,顕微鏡椎間板ヘルニア摘出術やMED法と比較してより最小手術侵襲手術手技である.Kambinにより唱えられた椎間孔での安全な操作範囲を有効に利用するものである.われわれは,皮膚切開点は,以前報告したより内側にして角度をつけて椎間孔に入るために,上位の神経根損傷(exiting nerve lesion)の頻度が減少している.本術式は,今後MED法や顕微鏡手技に十分に代わりうるものと思われる.
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