外科医は手術中不断の意思決定を行っている. 従来, 術中情報は術野に限定され, 術者の五感が重要な意思決定要素となるため, 経験差によるゆらぎは大きい. 有効な改善策として客観的な可視データを術中に取得し判断材料とする方法があり, 術中画像や術中神経モニタリングそして術中迅速診断は代表例である. 可視化した異種データを意思決定プロセスに用い情報として活用する情報誘導手術は, 次世代低侵襲治療の基盤である.
一方で定性データの解析, 定量データの閾値設定等, 各データの処理と解釈も一筋縄でない. たとえば神経膠腫の手術における覚醒下での神経機能マッピングやモニタリングの結果解釈や5アミノレブリン酸 (5ALA) による発光の偽陽性偽陰性, 手術ナビゲーションのブレインシフトによる誤差やtractographyの過小評価問題, 運動誘発電位の低下閾値等, 関連学会や論文でmain topicとなる検討項目である.
さらに, 術中より多種類の可視化データが情報統合されて提供されれば, より正確な意思決定に貢献するが, 情報ごとで正反対の意思決定を示唆することも少なくない. 術中画像で残存異常領域がある (摘出示唆) が, 皮質下マッピングでは反応がある (機能温存示唆) 場合が典型的であるが, 施設や患者の方針, 情報ごとのpriority, そして他種類データ等がより高次の意思決定に有用である.
神経膠腫の積極的摘出術は生命予後との関連を指摘する論文が増加している. 術中MRIとナビゲーションによる解剖学的情報, 機能マッピングやモニタリングによる機能的情報, 5ALAやflowcytometryによる組織学的情報等multimodalityな術中情報時代における, 意思決定のプロセスとその実際を紹介する.
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