脳神経外科ジャーナル
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23 巻, 7 号
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特集 グリオーマ研究の最先端:基礎と臨床
  • 市村 幸一, 有田 英之, 成田 善孝
    2014 年 23 巻 7 号 p. 532-540
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/25
    ジャーナル フリー
     近年の網羅的な大規模ゲノム解析により, IDH1/2, CIC, ATRXなど, 神経膠腫の発生において鍵となる遺伝子変異が次々と発見された. これらに加えて, 最近新たに発見されたTERTプロモーター領域の変異も神経膠腫の発達に重要な役割を果たすことが明らかになった. TERTはテロメラーゼを構成する逆転写酵素で, 変異はプロモーター領域の2カ所のホットスポットのいずれかに起こり, TERTの発現を亢進させる. 神経膠腫の亜型はこれらの変異の蓄積により発生すると考えられる. すなわち, 星細胞腫と乏突起膠腫はともにIDHの変異を獲得することにより発生し, さらにTP53ATRXの変異が順に起こることにより星細胞腫に発達するのに対し, 乏突起膠腫ではIDH変異に次いで1p19qの欠失とTERTプロモーターの変異, 次いでCICの変異が起こると考えられる. 原発性膠芽腫ではIDH変異や1p19q欠失はみられず, RB1, p53, MAPK, PI3K各経路の異常のほか, TERTプロモーター変異が重要な役割を果たすと考えられる. 最近ではIDH変異と1p19q欠失の有無に基づく神経膠腫の分子分類が提唱されているが, これらにTERTプロモーター変異を加えることによってより正確な成人神経膠腫の分子診断の基準が形成されていくことが期待される.
  • 佐谷 秀行, 柴尾 俊輔, サンペトラ オルテア
    2014 年 23 巻 7 号 p. 541-546
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/25
    ジャーナル フリー
     神経膠芽腫は, 腫瘍内の不均一性ゆえにいまだ予後不良の疾患であり, 効果的な治療ターゲットは確立されていない. 神経膠芽腫の不均一性は, 遺伝子やエピジェネティクスの変化の多様性に加えて, 腫瘍幹細胞の存在に起因する細胞の多様性によって形成される. 本総説では, グリオーマ発生の背景にあるシグナル経路, そしてグリオーマ幹細胞の役割に焦点を当て解説する. また, いくつかのほかの癌種における癌幹細胞の知見を踏まえたうえで, 神経膠芽腫の治療抵抗性におけるグリオーマ幹細胞の重要性とグリオーマ幹細胞特異的な治療戦略の意義について述べたい.
  • —最新のエビデンスを中心に—
    佐々木 光
    2014 年 23 巻 7 号 p. 547-558
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/25
    ジャーナル フリー
     BCNU徐放剤とベバシズマブ (BEV) について, これまでの知見と薬剤の特徴について概説し, また退形成性乏突起膠腫と高齢者膠芽腫における最新のエビデンスを紹介する.
     BCNU徐放剤の留置により, 再発ならびに初発悪性神経膠腫患者の生存期間が延長した. 再発膠芽腫の80%以上がBEVにより造影領域の縮小を示した. 初発膠芽腫に対して放射線/テモゾロミド (TMZ) 併用療法にBEVを併用することにより, 無増悪生存期間は延長されたが, 全生存期間は延長されなかった. 1p19q共欠失を持つ退形成性乏突起膠腫に対して, 初回治療に化学療法を入れることにより生存期間が延長された. 高齢者膠芽腫において, MGMTメチル化の有無によりTMZの効果が予測された.
     BCNU徐放剤やBEVを有効活用するうえでは, 治療効果や副作用を含め各薬剤の特徴を十分に理解することが重要である. また, 臨床試験結果に基づく適切な治療のために, 1p19q共欠失, MGMTなど分子マーカーの日常的な検索が必要である.
  • 成相 直
    2014 年 23 巻 7 号 p. 559-568
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/25
    ジャーナル フリー
     グリオーマの基礎研究と新規治療法開発に関する臨床研究が進歩すればするほどに, グリオーマの神経画像診断に求められる要件は腫瘍の局在のみでなくその性質や増殖能を評価し, 治療効果を早期に判定するといった機能評価に重点が置かれるようになってきた. 最先端の放射線診断機器としてPET-MRIが開発されてドイツ, 米国, 日本に順次導入されつつある現時点では, そのような腫瘍の生物学的性質の機能計測としての機能的神経画像診断の適切な組み合わせの模索の必要性がますます強調されるようになっている.
     現時点でのグリオーマの病態と治療効果の判定のために, 有用な画像診断技術に関し自験例の提示と文献レビューから考察を行った. (1)グリオーマの代謝イメージングとしてのPETとMRS, (2)グリオーマの血管床と透過性のイメージング, (3)薬理学的PET計測のグリオーマへの応用, (4)最近の注目すべき画像診断法という項目についてまとめた.
     先端の機能的画像診断法の利用は基礎研究と臨床研究を連結するかけ橋となり得ると考えられる. グリオーマ治療の進歩に機能的放射線診断学をどのように活用していくかが今後求められる課題であると考える.
  • 岩立 康男, 福田 和正, 松谷 智郎, 佐伯 直勝
    2014 年 23 巻 7 号 p. 569-580
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/25
    ジャーナル フリー
     成熟した脳組織は, それまでに獲得した経験・知識を保護するためにきわめて排他的な性質を有しており, 新たな細胞やaxonの侵入を容易に許容しない. この内在性抑制機構は, グリオーマに対しても腫瘍形成・浸潤を抑制することが示されている. 放射線治療は, 特にオリゴデンドロサイト, 神経幹細胞, 血管内皮細胞などに強い影響を与え, これらの障害が複合的に関与した慢性退行性変化をもたらす. こういった正常脳組織の変化は, 認知機能低下として表出されると同時に, 腫瘍浸潤に対して許容的な微小環境を形成してしまう可能性がある. 放射線治療の適応決定に際しては, 脳の内在性抑制機構を十分に理解しておく必要がある.
原著
  • 福元 雄一郎, 師田 信人, 塩田 曜子, 森 鉄也
    2014 年 23 巻 7 号 p. 581-588
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/25
    ジャーナル フリー
     ランゲルハンス組織球症 (LCH) は中枢神経晩期合併症をきたし得る比較的まれな疾患である. われわれは, 2005年3月∼2010年9月までの間に当科で手術を施行したLCH 14例の臨床的特徴について後方視的に検討した. 多くは有痛性の緩徐に増大する頭部腫瘤で発症し, 化学療法を施行した13例中2例で再燃した.
     LCHには多発・再燃例があるため, 全身検索が必須である. また, 頭蓋病変では中枢神経晩期合併症の防止が重要である. 約半数が多臓器に発症し, 化学療法を行ったにもかかわらず2例で再燃したことからは, 外科単独治療の危険性が示唆される. LCHの治療では小児腫瘍専門医との共同診療が推奨される.
手術手技・周術期管理
  • 和田 孝次郎, 大谷 直樹, 長田 秀夫, 富山 新太, 戸村 哲, 上野 英明, 竹内 誠, 長谷 公洋, 藤井 和也, 森 健太郎
    2014 年 23 巻 7 号 p. 589-595
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/25
    ジャーナル フリー
     従来の綿片は固着しやすく, 特に止血用材との固着により再出血してしまうこともある. 一方, ポリエステルフィルム加工された不織布は, 固着が軽減されるため, ガーゼに替わり使用されている. この加工を応用し, 接触面のみポリウレタンコーティング加工した綿片を作製した. 綿片のコーティング面は多孔性で, 吸引可能となっている. ゼラチンスポンジでの上矢状静脈洞よりの止血, フィブリン糊+酸化セルロース綿での海綿静脈洞よりの止血, および微線維性コラーゲンでの脳表よりの止血, 5症例ずつに使用し, 従来の綿片を用いた止血例と比較検討した. 新たな綿片では, すべての症例で固着なく再出血も認めず, 止血に有用となる可能性が示唆された.
症例報告
エラータ
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