脳神経外科ジャーナル
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24 巻, 10 号
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特集 医療におけるビッグ・データの活用
  • 中島 直樹
    2015 年 24 巻 10 号 p. 664-671
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
     急激な医療の情報化により, 莫大な医療データが蓄積しつつある. 本邦ではすでにいくつかの国家的なビッグデータ事業が始動しており, 社会課題の解決に期待される. 医療におけるビッグデータの特徴は, 個人に紐づくデータ項目が多いなど複雑・多様なことであり, その解析には古典的な統計学手法では制限が多く, 機械学習などのマイニング手法の導入を含む新規の解析手法の開発が必要である. これらはまだ十分成熟しているとはいえず, 今後の情報学と医学のコラボレーションが重要である. 2016年に実施予定のマイナンバー制度に伴う保健医療分野で使用可能なIDの配布, および医療情報関連の個人情報保護法の整備の実施によって, いよいよ本邦の医療ビッグデータ時代が幕を開けるであろう.
  • —がんにおける経験から—
    東 尚弘, 岩本 桃子, 中村 文明
    2015 年 24 巻 10 号 p. 672-675
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
     がん医療の均てん化はがん対策の大きな課題である. そのためには医療の質の測定・把握が必要であるが, データ源として最も信頼の置ける診療録からの採録は作業負担への懸念から, 限界は許容しつつ院内がん登録とDPC (diagnosis-procedure combination) データをリンクしたデータによる指標の測定が始まった. 両データをリンクするためには病院内で共通の匿名番号をつける必要があるが, データの標準化も十分ではなく, さまざまな困難があった. 専用のソフトで作業を自動化し, ソフトも各種課題に対処して改良を重ねることで, 2012年症例では232施設からデータの収集が可能であった. 今後は, 参加病院のがん診療の質の向上と, がん対策の効果的推進の両方にこのデータを活用していく体制構築を行っていく.
  • —脳卒中急性期医療とビッグデータ活用に関して—
    西村 邦宏
    2015 年 24 巻 10 号 p. 676-683
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
     近年, 欧米ではAHA/ACCの脳卒中に関する登録データベースでGet With The Guidelineの登録件数が200万例を超えるなど, 大規模臨床登録データベースに基づくビッグデータを活用した研究が盛んになっている.
     われわれはこれまでに, 厚生科学研究飯原班において, 包括的脳卒中センターに関わるDPC情報に基づいた登録研究 (J-ASPECT研究) を行い, さらに今回, 日本脳神経外科コングレスの学会企画として, “脳神経外科医療の可視化に関する研究” を行った.
     日本脳神経外科学会研修プログラムにおける研修病院を対象に, 脳神経外科疾患の治療を目的に入院した患者について, 入院から退院までの一貫したデータベースをDPC情報を用いて作成した. 登録に関しては, 既存のレセプト情報を用いたため, 多忙な脳神経外科医に負担をかけることなく, 病名, 短期予後, 併存疾患, 手技, 薬剤履歴, 術後合併症, 医療費などについての情報を収集でき, 短期間で包括的なデータベース構築が可能であった.
     今回の研究では, 日本の脳神経外科医が, 脳神経疾患領域の広い範囲にわたり, その予防, 救急対応, 診断, 外科的・非外科的治療, 周術期管理, リハビリテーション, 長期予後管理などを一貫して担当している現状をより客観的に可視化 (見える化) を行うことができた. 作成されたデータベースにより, 脳卒中急性期医療に対して, 予後, 合併症, 施設規模による治療成績など多様な検討が可能であった.
     本研究における結果の概観と今後の展望について報告する.
  • 佐山 徹郎, 西村 中, 黒木 亮太, 西村 邦宏, 嘉田 晃子, 神谷 諭, 飯原 弘二, J-ASPECT study group
    2015 年 24 巻 10 号 p. 684-692
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
     近年, big dataの活用が注目されつつあり, 医療分野でも全国規模のレセプトデータやDPCデータの活用の取り組みが始まりつつある. 本研究では, 日本脳神経外科学会研修プログラムにおける研修施設および厚生労働科学研究補助金事業「J-ASPECT Study」参加施設の協力によりレセプトデータあるいはDPCデータを収集し, 脳神経外科疾患の治療を目的に入院した患者について, 入院から退院までの一貫した悉皆性を持ったデータベースを構築し, 脳血管障害をはじめとする脳外科疾患に対する治療のアウトカム, 施設集中度等を視覚的に明らかにした. 今回は, 脳血管障害の中から特にくも膜下出血, 未破裂脳動脈瘤, 内頚動脈狭窄症について, 前2者に対してはクリッピングとコイリング, 後1者に対しては, 頚動脈内膜剝離術と頚動脈ステント留置術という2つの治療法に対する日本の現状を明らかにした.
  • 吉本 幸司, 嘉田 晃子, 波多江 龍亮, 村田 秀樹, 赤木 洋二郎, 西村 邦宏, 溝口 昌弘, 飯原 弘二
    2015 年 24 巻 10 号 p. 693-698
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
     第34回日本脳神経外科コングレスと日本脳神経外科学会との共同で行ったDPCデータを用いた施設調査の結果をもとに, 脳腫瘍に対する医療の可視化を目的として脳腫瘍患者の解析を行った. 日本脳神経外科学会研修プログラムにおける研修施設 (基幹施設, 研修施設) に協力を依頼し, 脳神経外科疾患の治療を目的に入院した患者について2013年4月~2014年3月までの1年間のDPCデータを収集した. 最終的に327施設からデータを提供していただき, 計50万1,609人の患者データの解析を行った. この中から病名コードであるICD-10を用いて原発性悪性脳腫瘍6,142例, 転移性脳腫瘍2,538例, 下垂体腫瘍2,043例, 髄膜腫3,854例, その他の良性脳腫瘍患者5,666例を抽出することができた. 今回は悪性脳腫瘍に着目して解析を行うこととし, 原発性悪性脳腫瘍, 続発性脳腫瘍患者の解析を行った. Kコードを用いて手術治療を受けた症例を抽出し, 原発性悪性脳腫瘍患者1,564例, 転移性脳腫瘍患者1,072例について手術治療以外の治療内容について検討した. DPCデータを用いた悉皆性のあるデータ解析は脳腫瘍医療の可視化にも役立つと考える.
  • —脳腫瘍全国集計調査報告の活用について—
    成田 善孝, 渋井 壮一郎
    2015 年 24 巻 10 号 p. 699-704
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
     脳腫瘍全国集計調査は1973年から開始され, 2009年からはUMINによるオンライン登録を行っている. WHO 2007分類に基づいた約150種類の原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍について, 性別・初発症状・治療内容・再発・死亡の有無・死亡原因等の臨床的データや生存期間・無増悪生存期間についてまとめられ, 脳腫瘍の治療結果が可視化されている. 脳腫瘍治療のエビデンスを確立するためには, これらのデータに基づいて仮説をたて, 臨床試験や前向き調査を行うことも重要である.
原著
  • 高見澤 幸子, 森野 道晴
    2015 年 24 巻 10 号 p. 705-711
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
     難治性てんかんに対する迷走神経刺激療法は, 比較的手術手技が容易であるが, 迷走神経の正確で迅速な同定が重要である. 迷走神経とその周囲の総頚動脈 (CCA) および内頚静脈 (IJV) の解剖学的位置関係にはバリエーションが多く, 症例によっては迷走神経の同定に難渋することがある. われわれは, 頚部迷走神経の走行をCCA, IJVとの位置関係から5つのタイプに分類した.
     Type 1 : IJV内側でCCA腹側, Type 2 : IJV内側でCCA外側, Type 3 : IJV内背側でCCA腹側, Type 4 : IJV内背側でCCA外側, Type 5 : CCA背側.
     最も頻度が高いのはType 3である. Type 1から5になるにしたがい, 手術手技が煩雑になり, 難易度も高くなる. このような解剖学的バリエーションを念頭に置いてVNS手術に臨むことは, 初心者でも安全で正確な手術を行ううえで効果的である.
症例報告
  • 佐瀬 泰玄, 内田 将司, 小野寺 英孝, 吉田 泰之, 高砂 浩史, 伊藤 英道, 大塩 恒太郎, 田中 雄一郎
    2015 年 24 巻 10 号 p. 713-718
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は12歳男児で, 出血発症の左視床退形成性星細胞腫に対し手術および放射線化学療法を施行した. 周術期は脳室ドレーンを留置し, その後第三脳室底開窓術および脳室腹腔シャント術を施行した. 初回手術より5カ月後に, 頭皮下腫瘤がみられ摘出した. 病理所見は視床腫瘍と同様であり, 転移性頭皮下腫瘍と診断した. 経過中に頭蓋内転移もみられ, 9カ月の経過で死亡した. われわれが渉猟した範囲で頭皮下転移を生じた頭蓋内悪性腫瘍は28例あるが, 退形成性星細胞腫に限れば本例は2例目である. 頭皮下腫瘍は留置されていたドレーンの皮下経路にあり, 腫瘍容積倍加時間より逆算すると, 挿入時に径0.1mmの腫瘍細胞塊が同部に移植されたと推定される.
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