脳神経外科ジャーナル
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24 巻, 6 号
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特集 グリオーマの基礎研究と治療の新たな展開
  • 北中 千史
    2015 年 24 巻 6 号 p. 358-365
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/25
    ジャーナル フリー
     がん幹細胞は腫瘍を構成する数多くの細胞の中で腫瘍形成能を有するごく少数の腫瘍細胞集団である. また, しばしば治療抵抗性を併せ持っていることから近年治療後再発の重要な要因として注目を集めている. これまで数多くの研究がグリオーマにもがん幹細胞 (グリオーマ幹細胞) が存在することを示しており, グリオブラストーマの長期生存や治癒を実現するうえで, グリオーマ幹細胞を標的とする治療法の開発が重要なカギを握る可能性が考えられるようになってきた. 本稿ではグリオーマ幹細胞研究を通じてグリオブラストーマ克服を目指すうえで考慮が必要と考えられる諸課題や論点に特にフォーカスをあてて議論を行っている.
  • 溝口 昌弘
    2015 年 24 巻 6 号 p. 366-377
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/25
    ジャーナル フリー
     TCGAに代表される大規模癌ゲノム解析により, 体系的かつ包括的なゲノム解析が推進され, グリオーマにおいて新たな知見が続々と報告されている. ゲノム, トランスクリプトーム, エピゲノムといった複層的な解析により, その全体像が明らかとなりつつある. 次世代シークエンサーに代表される, 近年の技術開発に伴い, その解析速度は飛躍的に向上し, 大量のゲノムデータが公開されるとともに, その複雑さも明らかとなった. 本稿では膠芽腫を中心に, これまで明らかとなった知見を総括し. 現時点での問題点と今後の課題について考察した.
  • 大屋 夏生
    2015 年 24 巻 6 号 p. 378-385
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/25
    ジャーナル フリー
     1970年代に高悪性度グリオーマにおける術後放射線治療の有用性が示されて以来, 線量分割法, 照射体積, 併用療法などの最適化に向けた臨床研究が進められてきた. この数十年間, 放射線照射技術も大きく変遷し, 二次元から三次元治療へ, ガンマ線から高エネルギーX線へ, また画像診断を治療計画に導入することで, 治療成績向上が認められている. しかしながら, 腫瘍局所制御率は依然として低く, 治療期間短縮, 再照射など, 新たなアプローチも求められるようになった. 一方, 近年の高精度放射線治療の発展により, 理想的な線量分布と正確な照準技術が達成されており, 新たな治療戦略の一環として, さらなる応用が期待される.
  • 夏目 敦至, Lushun Chalise, 若林 俊彦
    2015 年 24 巻 6 号 p. 386-398
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/25
    ジャーナル フリー
     原発性脳腫瘍は腫瘍の形態学, 細胞学, 分子遺伝学, 免疫組織学的特徴を併せて評価するWHOのgradingが広く普及し, 疾患予後を表す指標となっている. 神経膠腫の遺伝子診断は, 病理診断の補助的な役割をするばかりではなく, 新しい腫瘍分類を構築し, それに基づいた治療体系を提示する可能性を秘めている. いくつもの遺伝子異常が重なる必要があるという多段階発癌説が現在の共通認識であり, 理論的にはそうした遺伝子異常のパターンによって腫瘍細胞の生物学的特性を予測することは可能である. グリオーマ (神経膠腫) の化学療法を理解するために必要な遺伝子変化として, O6-methylguanine DNA-methyltransferase (MGMT), 染色体1p19q, epidermal growth factor receptor (EGFR), TP53, およびisocitrate dehyrodogenase (IDH) 1 & IDH 2等が特に着目されている. The Cancer Genome Atlas (TCGA) による膠芽腫の最新分類も発表されている. 悪性神経膠腫に対してテモゾロミド (TMZ) という第2世代アルキル化剤が現在の標準治療法であるStuppプロトコルの化学療法の基本となっているが, 約半数の症例がこのTMZに対して耐性を示す. いまだ有効な治療方法がなく, 予後がきわめて悪いとされている神経膠芽腫の化学療法の有効性を改善させるにはいくつかの障壁があり, その克服が予後改善につながると考えられる. 新しい化学療法にはそれぞれの障壁, 特にMGMT, 血管新生および血液脳関門 (BBB) を克服する試みがされている. TMZの薬物耐性をきたすMGMTの克服にはTMZの増量方法やインターフェロンβ (IFN-β) の併用が臨床試験で試されている. 血管新生を抑制する抗血管新生療法としてアバスチン (BEV) が注目されており, その有効性を調べた2つのランダム化臨床試験, AVAGlioおよびRTOG 0825が新しく発表された. 血液脳関門の克服として局所化学療法が注目されており, カルムスチン脳内留置用剤 (BCNU wafer interstitial chemotherapy) に期待される. MGMTの克服としてわれわれは以前よりIFN-βに着目しており, 動物実験の結果その有効性および安全性が証明されている. 本稿では, IFN-β併用の有効性についてわれわれの実験結果およびその有効性に基づいた臨床試験 (INTEGRA Study) を紹介する. その他, MGMT克服としてTMZの増量方法, BEV併用の臨床試験およびBCNU waferの臨床試験の文献的検討を加えた神経膠腫に対する化学療法の最新知見を述べる.
  • —先進医療Bからの薬事承認に向けて—
    宮武 伸一, 古瀬 元雅, 野々口 直助, 川端 信司, 黒岩 敏彦
    2015 年 24 巻 6 号 p. 399-406
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/25
    ジャーナル フリー
     脳腫瘍に対する高線量放射線治療後の症候性脳放射線壊死は重篤な問題である. われわれは12名の症候性脳放射線壊死の患者に対して, アミノ酸トレーサーによるPETでの診断後, 抗血管内皮増殖因子 (VEGF) 抗体であるベバシズマブを2週に1度, 5mg/kgのスケジュールで静脈内投与を行うという臨床研究を大阪医科大学単一施設で行ったところ, 全例で脳浮腫の軽減を認めた. 以上の結果に基づき, 「脳放射線壊死に対する核医学的診断とベバシズマブの静脈内投与による治療」を高度医療 (先進医療B) として厚生労働省に申請し2011年4月1日に認可され, 薬事承認を目指した多施設臨床試験として施行した. 最終的には16施設が参加し, 41例の症例が登録され, 観察期間も終了し, 現在その結果の公表を準備中である.
症例報告
  • 森脇 寛, 佐々木 雄彦, 山﨑 貴明, 嶋﨑 光哲, 妹尾 誠, 香城 孝麿, 久保田 司, 中西 尚史, 佐藤 司, 森 大輔, 櫻井 ...
    2015 年 24 巻 6 号 p. 407-412
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/25
    ジャーナル フリー
     安全な後頭蓋窩開頭手術には静脈構造の術前把握が重要である. われわれは頭部CTとMRIから, 画像解析ワークステーションでCTの骨情報とMRIの静脈情報を融合させ, 縫合線などの骨の指標と静脈洞の位置関係を同時に把握できる三次元画像を作製しており, 今回, その有用性を検討した. その結果, 本法が適切な開頭, 骨削除の支援となり得ることが示され, 有用性が認められた. 本法は造影剤が不要であり, 組み合わせる合成画像を多様に多重に変えることができるため, 応用範囲も広く, 後頭蓋窩開頭手術全般に有用である.
  • 濵田 緒美, 左村 和宏, 安部 洋, 福田 宏幸, 緒方 利安, 野中 将, 東 登志夫, 塩田 悦仁, 井上 亨
    2015 年 24 巻 6 号 p. 413-418
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/25
    ジャーナル フリー
     われわれは, 脳卒中による失調症状を呈した3人の患者 (失調性片麻痺およびワレンベルグ症候群) に対しロボットスーツHALを用いたリハビリテーションを行い, 良好な結果を得たので報告する. 症例1は慢性期の失調性片麻痺, 症例2, 3は急性期のワレンベルグ症候群の患者であった. HAL装着下での訓練を症例1は12回, 症例2は5回, 症例3は6回行った. 当院での訓練方法としては, HAL装着下でまず立位訓練を行い, 直後に歩行訓練を行った. 10m歩行においては歩行時間が短縮するなどの改善が得られた. また, 数回の訓練後に行った重心動揺計による測定では, 立位での重心動揺が減少した. ロボットスーツHALは, 脳卒中の失調症状に対する歩行訓練に有用であることが示唆された.
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