脳神経外科ジャーナル
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25 巻, 12 号
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特集 State of the Science―新たな治療の開発―
  • 吉峰 俊樹, 平田 雅之, 栁沢 琢史, 貴島 晴彦
    2016 年 25 巻 12 号 p. 964-972
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
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     Brain-machine interface (BMI) とは 「脳と機械の間で信号をやり取りする」 技術であり, 失われた神経機能の代行や補完を目的としている. この10年あまりの間に急速に進歩しつつあり, すでに実用化されたものもある. 大阪大学では 「ヒトが考えただけでコンピュータやロボットを操作できる」 技術を開発中である. BMI技術は神経科学のほか情報科学や多方面の工学領域と統合されて実用化される学際的融合技術であるが, 今後, 人工知能 (AI) 領域の研究の進歩も加わり, ますます広い領域において革新的な展開が期待される新しいニューロテクノロジーである.

  • 田中 実, 藤堂 具紀
    2016 年 25 巻 12 号 p. 973-978
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
    ジャーナル フリー

     G47Δは第三世代のがん治療用単純ヘルペスウイルスⅠ型で, ウイルスゲノムのγ34.5, ICP6, α47の3つの遺伝子に人為的三重変異を有する. 腫瘍細胞特異的なウイルス複製と殺細胞作用, 特異的抗腫瘍免疫の惹起力がいずれも増強されているため, 脳腫瘍に限らずあらゆる固形がんに対し高い抗腫瘍効果を示す. G47Δの第Ⅰ-Ⅱa相臨床試験は, 2009年より5年間, 再発膠芽腫を対象とし, 定位的脳手術により2週間以内に2回の腫瘍内投与が行われて, 脳腫瘍内投与の安全性が確認された. 効果を示唆する所見も複数例で観察され, 特に長期的効果は特異的抗腫瘍免疫の寄与が大きく, それを惹起して治療効果を期待するにはG47Δ投与後約半年ほどの時間がかかることが示唆された. 2015年より第Ⅱ相試験が医師主導治験として開始された. 標準治療に対するウイルス療法の上乗せ効果を検討するため, 初期治療後残存もしくは再発した, KPSが60%以上の膠芽腫患者を対象とし, テモゾロミドを併用して, 定位的脳手術により4週間間隔で最大6回までG47Δを繰り返し投与する. 2016年にはG47Δが厚生労働省の先駆け審査品目に指定され, 早期医薬品承認が見込まれる. G47Δが実用化されれば膠芽腫の治癒も可能となるため, 近い将来日本において, 悪性グリオーマの標準治療となることが期待される.

  • —医師主導治験による実用化—
    本望 修
    2016 年 25 巻 12 号 p. 979-984
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
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     われわれは, これまでの研究成果に基づき, 自己培養骨髄間葉系幹細胞を薬事法下で一般医療化すべく, 治験薬として医師主導治験を実施し, 医薬品 (再生医療等製品) として実用化することを試みている. 脳梗塞は, 2013年2月に治験届を提出し, 医師主導治験 (第Ⅲ相) を開始している. 脊髄損傷は, 2013年10月に治験届を提出し, 医師主導治験 (第Ⅱ相) を開始している. 今後, 数年後をめどに薬事承認を受けることを目指して現在進行中である. 治験の詳細は, 本学公式ホームページ上の専用ページに掲載済みである (http://web.sapmed.ac.jp/saisei/index.php).

  • 髙橋 淳
    2016 年 25 巻 12 号 p. 985-991
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
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     中枢神経系は再生能力がほとんど認められないために, 神経変性疾患において機能回復を目指すには細胞移植による神経回路再構築が必要である. ヒトES細胞が1998年, ヒトiPS細胞が2007年に報告され, これらの多能性幹細胞の培養や分化誘導が可能になったために, われわれは細胞移植治療に必要な細胞を必要な分だけ作製できるようになった. たとえばパーキンソン病の治療において, 臨床グレードでiPS細胞を樹立し中脳ドパミン神経細胞を誘導することがすでに可能になっている. さらに, マウス, ラットやサルを用いた非臨床研究においてES細胞やiPS細胞由来ドパミン神経細胞が脳内に生着し機能することが示されている. これらの成果に基づいて, 神経変性疾患に対する幹細胞治療が近い将来に始まろうとしている.

原著
  • 佐々木 重嘉, 森野 道晴
    2016 年 25 巻 12 号 p. 992-999
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
    ジャーナル フリー

     側頭葉内側部神経膠腫の手術戦略においては, 腫瘍そのものの摘出とともに合併するてんかん発作のコントロールが重要で, さらに高次脳機能の温存も望ましい. Transsylvian cisternal & ventricular approach (TSCV) はtranssylvian selective amygdalohippocampectomy (TSA) を応用した手術法で, 経シルビウス裂で側脳室下角および脳槽からアプローチすることで側頭葉外側皮質を温存し, 腫瘍を正確に摘出して海馬や海馬傍回などのてんかん原性域の摘出を行える. TSCVを施行した側頭葉内側部神経膠腫26症例で, てんかん発作消失率は92%と良好であり, 術後の記銘力およびIQの有意な低下を認めず, 高次脳機能を温存できた. 難治性てんかんを伴う側頭葉内側部神経膠腫に対するTSCVによる腫瘍およびてんかん原性域のpure lesionectomyは高次脳機能温存に有用である.

症例報告
  • 佐々木 夏一, 中嶌 教夫, 光野 優人, 山口 真, 堀川 文彦, 山田 圭介, 渡邊 光正, 楠元 真由美, 堀田 多恵子
    2016 年 25 巻 12 号 p. 1001-1006
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
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     静脈洞血栓症は比較的まれな疾患であり, リスクファクターとして先天性凝固能異常がある. 今回われわれは, 出産後の母子が同時期に静脈洞血栓症を発症する症例を経験したが, その原因が先天性アンチトロンビン欠乏症であることを遺伝子検査により特定した. アンチトロンビン活性が低値であったことはいうまでもないが, 親族が静脈血栓症を発症していること, ヘパリンが無効であることなど診断に至る重要な手がかりが経過中に認められた. まれに経験する静脈洞血栓症であるが, 治療薬であるヘパリンが無効なアンチトロンビン欠乏症は無視できないリスクの1つであり, 凝固能異常検査は必須である.

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