2014年11月にJNS Pediatricsに掲載された米国ガイドラインに基づいた小児水頭症の標準治療について概説する. このガイドラインでは以下の9つの臨床的課題が取り上げられている. すなわち, ①未熟児出血後水頭症の管理, ②脳室カテーテル留置における内視鏡, 磁場式ナビゲーション, 超音波の有用性, ③シャント術と内視鏡的第三脳室底開窓術の予後の比較, ④種々のシャントバルブによる治療効果の比較, ⑤抗生剤の術前投与の有効性の有無, ⑥抗生剤入りのシャントシステムと通常のシステムの比較, ⑦シャント感染の治療法, ⑧脳室穿刺部位と脳室カテーテル先端の留置位置の比較, ⑨脳室サイズの測定はシャント治療効果の判定となるか否か. これらの問題に対してシステマチックレヴューが行われ, エビデンスベースのガイドラインとして報告されており, それぞれの研究結果および推奨する方法が紹介されている.
小児もやもや病の治療は, 脳卒中の予防という観点ではここ30年の期間に着実に進歩していると考えられる. もやもや病は, 成人において遂行機能障害などの前頭葉機能障害を呈すると考えられており, 脳の発達の最適化が今後の課題である. 脳の正常な発達をモニターし, なおかつ初期の虚血性障害を鋭敏に描出する画像診断マーカーの確立は治療の最適化に貢献する可能性がある.
出生前診断を行った自験170例のうち, 現在追跡調査が可能である62例と, 人工妊娠中絶に至った18例の合計80例について報告する. 追跡可能例の平均年齢は7.3歳 (0~25歳) で, 疾患内訳は脊髄髄膜瘤23例, 単純性水頭症9例, 胎児脳室内出血後水頭症8例, その他22例であった. 追跡可能例の予後は, 11例で経過中に死亡していた. 生存していた例は疾患により予後が異なっていたが, 発達については, 正常 (DQ/IQ>70) 32例, 中等度11例, 重度5例であった. 出生前診断された症例のうち, 追跡調査可能であった症例の半数近くが正常に近い発達を遂げていた. 一方では死亡例も少なくなく, 疾患によって予後が大きく異なっていた. 出生前診断にはできるだけ正確な診断が必要であると考えられた.
頚椎椎弓形成術は1970~1980年代に, 世界に先駆けて日本の脊椎外科医により開発された術式である. それまでは椎弓切除術が頚椎後方減圧術の中心術式であった. その後, さまざまな術式が報告されたが, 現在では世界を含め主に2つの術式に集約される. Open-door法とdouble open-door法である.
これまでの椎弓形成術の歴史とその変遷を理解し, 実際の臨床に応用することは重要である.
囊胞性聴神経鞘腫 (cystic vestibular schwannoma) は, 充実性聴神経鞘腫と比較して臨床像や腫瘍特性が異なり, そのため手術においては特有の難しさが存在するといわれている. それゆえ最大径が40mmを超えるような巨大囊胞性腫瘍の手術においては, 標準的なアプローチのみで切除することが困難な場合もある. Transmastoid approachは側頭骨錐体部を立体的に切削することで, 小脳の圧排なしに小脳橋角部へアクセスすることができる確立されたアプローチではあるものの, 解剖学的な制限のため術野としては決して広くはない. しかし側頭開頭や外側後頭下開頭などと組み合わせることで, 広範囲かつ多方向的な術野展開 (multidirectional approach) が可能となるため, 視認性や操作性の向上につながる. 本稿では巨大囊胞性聴神経鞘腫に対して用いたcombined transmastoid approachの有用性, 手術成績, 合併症などについて概説する.
妊娠後期に水頭症で発症した小脳血管芽腫症例を経験した. 症例は29歳女性. 妊娠36週に頭痛と嘔気を訴え徐々に傾眠となった. MRIでは左小脳半球に主座をおき強く造影される境界鮮明な腫瘤性病変を認め広範な浮腫により脳幹および第四脳室は圧排され水頭症を呈していた. 緊急帝王切開術にて児娩出後に腫瘍を摘出した. 術後4週間のリハビリテーションを経て自宅退院した. 小脳血管芽腫においては妊娠中の循環血漿量増大およびエストロゲン上昇, 胎盤由来の血管新生因子により腫瘍容積増大や脳浮腫増悪を生じ頭蓋内圧亢進や水頭症をきたすと報告されている. 母体優先の大原則のもと, 治療に際しては妊娠週数や母体の状態に応じて個々の症例ごとに治療戦略を構築する必要がある.