1990年代に神経内視鏡が日本にも導入されたことにより, 小児水頭症治療の選択肢が増え, 小児に対しても神経内視鏡下第三脳室開窓術 (ETV) が行われるようになった. しかし, 適応が限られることから, 脳室腹腔短絡術 (VPS) が標準治療であることには変わりはない. 一方で, ETVに関する多施設共同研究も進み, 乳児であっても適応を選べばVPSと同様の成績が得られることが示されETVの適応が広がっている. 小児水頭症は年齢や原疾患によって治療方針が異なるので, 個々の症例の水頭症病態にあった治療法をVPS, ETV, VPS+内視鏡的頭蓋内髄液短絡術, ETV+脈絡叢焼灼術といった多彩な選択肢の中から適切に選択する必要がある.
小児くも膜囊胞の自然歴と治療方針に関して概説した. 自然歴では, 囊胞の自然増大は4歳以上ではまれであり, 中頭蓋窩および円蓋部囊胞においては, 5cm以上の囊胞と頭部外傷歴は囊胞破裂の危険因子となるが, 破裂率は高くないため運動制限は推奨しない. 術式選択は症例ごとに検討の必要があるが, 四丘体部囊胞では生後6カ月未満児の神経内視鏡手術は, 再閉塞率・再手術率が高いため注意を要する. 中頭蓋窩囊胞では, 低年齢, 頭囲拡大, 囊胞拡大を認める症例では, 開窓術後に水頭症が顕在化することがある. 破裂症候性例へは, 穿頭ドレナージを先行し, 無効例や再発例に開窓術・被膜切除術を選択してもよい. 現時点で, 症候例への手術適応に異論はないが, 無症候例に対しては (無症候をどう定義するのかを含めて) 方針が定まっておらず, エビデンスの確立が求められる.
潜在性二分脊椎は, 神経管形成異常による先天奇形のうち皮膚欠損・髄液漏がないものを指し, 閉鎖性二分脊椎ともいう. 発生過程 (脊索形成, 一次神経管形成, 二次神経管形成) で生じる異常の時期・種類により, 種々の疾患が含まれる. 脊髄係留, 脊髄圧迫, 神経組織形成不全が原因で神経障害を生じうる. 皮膚病変, 鎖肛, 泌尿・生殖器奇形は診断契機として重要である. 神経組織形成不全以外の脊髄係留・圧迫に対しては手術が有効な可能性がある. 症候性例に対する手術は広く理解されているが, 小児では無症候例でも予防手術が必要, あるいは検討される病態が多い. 手術は治療の始点であり, 長期にわたり複数診療科による包括的サポートが必要である.
頭蓋縫合早期癒合症は, 頭蓋骨だけの早期癒合である非症候群性頭蓋縫合早期癒合症 (85%) と, 上顎骨, 指趾, 四肢に形成異常を合併している症候群性頭蓋縫合早期癒合症 (15%) に大別される. 治療の目的は, 頭蓋の拡大によって頭蓋内圧を正常化し, 知能障害や視力障害などの神経障害の発生を予防すること, 頭蓋・顔面の形態異常の矯正を図ることにある. さらに, 症候群性においては, 合併する水頭症, 小脳扁桃下垂による神経障害の改善を目的とする. 外科治療の適応と適切な手術時期がきわめて重要であり, 各病態に応じた手術戦略を理解することが脳神経外科専門医に求められる.
本稿では, 開頭法 (従来法) の手術手技を, 前頭眼窩全身術 (fronto-orbital advancement : FOA) を中心として解説し, 手術における要点と合併症回避のポイントについて述べる.
腰椎椎間板ヘルニアで障害される神経根は, 一般的な傍正中型では罹患椎間の1椎間尾側, たとえばL4/5ではそれぞれL5神経根である. 一方で神経根分岐の破格はまれではなく, 診断, 治療で苦慮することがある. 本稿では高位分岐の神経根に発生した腰椎椎間板ヘルニアの1例を報告し, 典型的ではない神経症状, 通常とは異なる手術進入法への配慮の必要を述べる. 提示症例は67歳男性で, 左下肢痛の再燃を呈したL4/5左椎間板ヘルニアである. ただし下肢痛の範囲がL5神経根領域としては非典型的であり, 保存治療が選択された. 当科へ転医後, L4/5の椎間板ヘルニアによりL5に加え高位分岐のS1神経根も圧迫されていることが判明した.
脊髄刺激療法 (spinal cord stimulation : SCS) は慢性難治性疼痛に対し広く用いられている. 今回われわれは両側大腿屈側の筋痙縮を伴った難治性神経障害性疼痛の患者に対しSCSを行い, 刺激ONにて疼痛軽減とともに下肢の筋緊張が軽減し歩容が視覚的に改善した症例を経験した. 術前後において, 患者の腰部に歩行分析計を装着し, 10m歩行を各6回計測. Coefficient of variation, 歩行率, ステップ時間, 換算歩行, 速度, 歩幅, 歩行周期, 力強さの8項目について検討を行った. 刺激OFF時に比して刺激ON時には, これらの項目の明らかな改善が認められ, 歩行障害に対するSCSの有効性を客観的かつ定量的に解析し得た.
術後の肉芽腫の多くは手術材料が原因として発生する異物型肉芽腫といわれており, 悪性腫瘍・真菌や結核性の感染症などとの鑑別が問題となる. 本症例は開頭術7年目に右側頭葉にMRI (magnetic resonance imaging) のFLAIR (fluid attenuated inversion recovery) とDWI (diffusion weighted imaging) で高信号の病変を認め失語症状も出現してきたため手術加療を行った. 術中・病理所見から外傷によるラピッドフラップ®の緩みから生じた慢性的な機械的刺激が硬膜に微細な損傷を加え, 壊死した硬膜細胞が炎症を惹起し肉芽腫を形成したと推測された. 開頭術後に骨弁に不安定性を生じるような外力が加わった際には慎重に経過をみていく必要があると考えられた.