日本の頭部外傷患者の高齢化は年々進行しており, われわれはこの超高齢社会を見据えた独自の治療方針を確立しなければならない. 急性硬膜下血腫や遅発性の症状増悪が高齢者頭部外傷には多くみられるが, 近年注目されているのは抗血栓薬内服患者の増加である. 日本頭部外傷データバンク/プロジェクト2015によると, 高齢者の31%が抗血栓薬を内服していた. さらにこれらの患者の特徴として, 低エネルギー外傷 (転倒・転落) による受傷機転が多く, 病態として出血性病変が多く, 経過としてはtalk & deteriorateの頻度が多いことがわかった. この状況への適切な対応は, 軽症であっても早期に頭部CTを撮影し, 出血性病変を認めた際は抗血栓薬の中和を考慮することである.
重症頭部外傷の治療成績はここ20年改善してきたであろうか? 低体温療法やプロゲステロン投与などさまざまな治療法が模索されてきたが, いまだわれわれは劇的な改善を得るに至らない. “重症頭部外傷” はびまん性脳損傷と局所性脳損傷が混在する不均一な病態で, 全身の多発外傷を合併することも多い. 外傷機転も一定でなく, 病態の均一化が難しいこともあり頭部外傷の分野ではエビデンスレベルの高いRCTが少ない. 治療ガイドラインはexpert opinionによって成り立つ部分が多いのが現状である. ここでは, 第4版にアップデートされた米国重症頭部外傷ガイドラインの改訂ポイントとAmerican College of SurgeonsのTrauma Quality Improvement Program (ACS TQIP) よりgoal directed approachを紹介する. 加えて, 比較的最近のRCTにみるエビデンスに基づく新たな治療トレンドに言及する.
CT設置数が多い日本において有用な軽症頭部外傷のCT施行基準を検討した. 成人はGCS 14であればCT必要, 次いで年齢が60歳以上, または何らかの症状があればCT必要とする. これらに該当しなかった場合は, 頭部の外傷所見があるか, 危険な受傷機転と判断した場合をCT推奨とする. 小児は①GCS 14, ②精神状態が普段と異なる (いつもと様子が違う), ③頭蓋骨骨折が触知できる, のいずれかに該当した場合をCT推奨とする. それ以外では, 2歳より上と2歳以下で基準を分けて設定し, なるべくCTを施行せずに入院して経過観察を行う. 放射線被曝の影響が危惧される小児では, MRIを活用したプロトコールも検討すべきである.
肥厚性硬膜炎は頭痛や脳神経症状を呈し, 硬膜の慢性肥厚性炎症を特徴とする疾患である. 腫瘤様の特発性肥厚性硬膜炎の場合, 髄膜腫との鑑別が画像上困難な場合がある. 今回われわれは, 舌下神経麻痺を呈し, 生検術にて確定診断に至った斜台部特発性肥厚性硬膜炎の1例を経験した. MRIでは髄膜腫を想起させる髄外の腫瘤性病変であり, 確定診断のために生検術を必要とした. 特発性肥厚性硬膜炎と髄膜腫では治療方針がまったく異なるため, 生検による正確な診断後に治療すべきであると考えられる.
肺がんに対し, 左肺上葉切除後に肺静脈断端に発生した血栓による急性中大脳動脈閉塞症の1例を経験した. 症例は72歳女性, 術後6日目に失語, 右片麻痺を呈し当院へ搬送された. 左側の広範な早期脳虚血性変化および左中大脳動脈閉塞を認めた. 胸部造影CTにて左上肺静脈断端の血栓を認め, 同病変による脳塞栓症と診断し抗凝固療法を行った. 左上葉切除術では肺静脈血栓が生じやすく, 脳塞栓症につながり得る. 胸部外科領域では既知の事項であるようだが, 脳神経外科には経験が少なく, われわれもこうした脳梗塞の機序を認知する必要がある.