脳動脈瘤手術は, 顕微鏡の導入, 内視鏡や各種モニタリング技術の発展とともに進化を遂げ, 確立した治療手段として普及した. しかし近年, 血管内治療の目覚ましい発展に伴い, 脳動脈瘤手術を取り巻く環境は混沌としている. これまで, International Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) をはじめ, 治療の優越に関する議論が中心であったが, hybrid surgeonが登場した最近では, 治療の協働・分担・補完に関する考え方も重要となりつつある. 今後は, イメージング, 流体解析, 分子生物学を駆使し, 病態理解を深めたうえで, 個々の症例に合わせて治療の最適化を目指すべきであると考える.
ISAT試験以降の脳動脈瘤の機器開発の目的は再開通の克服であった. 次世代コイル開発では, hydrogel-coated coilがGREAT試験などで一定の評価を得ており, 現在も一定の市場を獲得している. 一方で, ネックブリッジングステントがコイル塞栓術の適応拡大に大きく寄与するとともに, 有意に再開通を抑制することが示され, 大きなブレイクスルーとなった. このステント整流効果を増強させたフローダイバーターの登場により再開通は完全に克服された. 一方, これらの治療においては, 厳格な抗血小板療法が必須である. 抗血小板療法への依存性を解決する新規機器の開発が進んでいる.
脳動脈瘤破裂はくも膜下出血の主病因であり本邦以外の国では減少傾向にあると報告されている. 脳動脈瘤に対する外科治療介入の目的は破裂予防であるが, 脳動脈瘤の増大破裂や新生は完全には制御されていない. 研究の進歩により脳動脈瘤の病態がマクロファージを介する慢性炎症であることが報告され薬物治療の可能性も示唆されている. 未来の治療像として病態に基づいた予防治療の開発が期待される.
重症くも膜下出血 (SAH) 患者の転帰は依然, 不良である. 良好な転帰を得る可能性を高めるためには, 新たな脳損傷を加えることなく早期に脳動脈瘤に対する根治術を施行する必要があるが, 同時にさまざまな全身性合併症の治療, 早期脳損傷を伴う頭蓋内圧亢進に対する迅速な管理, 遅発性脳虚血対策などの集中治療が必要である. 転帰不良の主な原因は早期脳損傷や続発する遅発性脳虚血であるが, 重症SAHでより問題となる脳血管攣縮を伴わない遅発性脳虚血に対する治療法やモニタリング法は確立されていない. 微小循環障害やその原因病態を標的とした早期脳損傷や遅発性脳虚血に対する新たな治療法の開発が待たれる.
神経Sweet病は典型的には皮膚病変の特徴や皮膚生検によって診断されることが多い疾患である. われわれは頭部MRIで, 周囲に浮腫を伴い, 造影される脳実質内斑状病変の1例と, 広範囲のleptomeningeal enhancementを呈した1例を経験した. いずれも皮膚病変を認めず, 脳原発悪性リンパ腫を疑って腫瘍摘出術と生検術を施行した. 両疾患ともにステロイドが著効し, 画像所見も似ることがある. 神経Sweet病はまれな疾患だが, 悪性リンパ腫が疑われる症例では鑑別診断として本疾患や血管炎などの炎症性疾患を挙げ, 疑わしい場合はヒト白血球抗原検査を施行するとよい. また, 手術に際してfluorescenceを用いたところ, 病変同定に有用であり, 併せて報告する.
手術記録作成は診療録記載と同様に外科医にとって最も重要な業務である. ビデオ録画などの記録媒体が発達した今日では, パソコンから電子画像を手術記録に貼付する外科医も少なくない. しかしながら, 術野を手描きイラストレーションで表現する重要性は解剖学的位置関係の把握, 術野観察力の鍛錬, 手術手技の復習と今後の工夫に寄与するところ大である. 本稿では著者のイラストレーションを用いた手術記録を提示してその実際を紹介する.