髄膜腫は最も頻繁にみられる脳腫瘍であり, 一般的には症候性で3cm以上は手術治療がまず検討される. 手術治療においては術前画像検査でのfeeding center (FC) の同定, および術中早期での処理が肝要で, 術中出血量の減少に寄与し, 穿通枝や脳神経の剝離操作を容易にすることに貢献する. 近年細胞分子学的な研究は爆発的に進んでおり, 特にNF2, TRAF7, KLF4, AKT1, SMOなどの遺伝子異常と腫瘍の部位や病理型との関連も明らかになってきた. またDNAメチル化解析からの髄膜腫分類, さらにはトランスクリプトーム解析からの分類が従来のWHO分類よりも予後に密接に関連するといった報告も相次いでいる. 細胞分子学的研究に基づく化学療法の有効性の発表もみられるようになった.
下垂体腺腫は2017年のWHO組織分類で, ホルモン産生能に加え腫瘍の分化系統も交えて再分類されることになった. 非機能性下垂体腺腫は全下垂体腺腫の約半数を占め, 視力・視野障害を主訴に発見されることが多い. 治療の第一選択は手術療法であり, 現在では経鼻的な内視鏡手術が主流となっている. 巨大腫瘍に対しては開頭・経蝶形骨洞同時手術が有効である. 残存腫瘍, 再発腫瘍に対しては定位放射線治療が効果的なことが多い. 現在のところ, 非機能性下垂体腺腫に有効な薬物療法は確立されていない. 長期予後が望める良性疾患であり, 患者のQOLを維持するために過不足のない適切なホルモン補充が必要である.
機能性下垂体腺腫のうち, プロラクチノーマはドパミン作動薬による薬物治療が第一選択となるが, その診断にはいくつかの注意点がある. 治療目標は患者の状況によって異なるが, 長期間PRL値の制御が必要な若年女性のマクロ腺腫例には, 総合的に外科治療の意義があると考える. 先端巨大症とクッシング病に対しては外科治療が第一選択で, 非寛解例に薬物治療が適用される. 腫瘍を標的としたドパミン作動薬とソマトスタチン誘導体が治療の主軸で, GH受容体拮抗剤やコルチゾール合成阻害剤が補助的に使用される. それらの組み合わせで先端巨大症では内分泌学的に制御される例が増加したのに対し, クッシング病ではまだ薬物治療の効果は不十分である. さまざまな薬物が開発中であるが, 機能性下垂体腺腫に対しては手術での摘出が理想的である. 全摘出できない例でも最大限に腫瘍を摘出し, 受容体や遺伝子の性状から有効な補助療法を選択するのが今後の方向性となるだろう.
聴神経腫瘍 (VS) の自然歴, 術後残存腫瘍に関する知見をまとめる. VSの腫瘍成長の頻度は定義により多様で, 成長リスクとして初診時の腫瘍サイズ, 平衡異常, 囊胞性腫瘍などが報告されている. 自然歴での聴力低下のリスクは, 腫瘍成長, 診断時聴力, 腫瘍体積などが報告されており, 診断時に将来の聴力低下のリスクを考慮した治療方針も検討する必要がある. 手術・定位放射線治療 (SRS) での聴力温存は39~87%で, 治療前の良好な聴力が術後聴力温存の予後因子となる. 自然歴と手術・SRSにおけるリスク・予後を考慮した治療選択が不可欠である. 術後残存腫瘍増大リスクとして残存腫瘍体積が報告されており, 残存腫瘍の大きさに応じ早期のSRS施行は妥当である.
頭蓋咽頭腫はウィリス動脈輪の内側に発生し, 視交叉下面, 視床下部に癒着しているため, 手術摘出が最も難しい腫瘍の1つである. また症例は比較的少なく1施設での経験数は少ない. 部分摘出と放射線照射によってこの疾患が安全に治療できるようになったとする報告もあるが, 長期成績は十分とはいえまい. 一方経鼻内視鏡手術の発展により腫瘍切除度, 手術安全度が向上したとする報告もあるが一方で長期成績はまだわからない. また下垂体機能温存に関しては経鼻手術を用いても達成は困難な状況である. この疾患の治療は現在も非常に難しいことを十分に理解して患者個々の条件に応じた最適な治療を選択する必要がある.
脳脊髄液漏出症は脊髄硬膜の損傷部位から髄液が硬膜外に直接漏出することにより発症すると考えられている. 今回, 髄液が神経根鞘内に滲入, 貯留停滞後に滲出したと考えられる症例を経験した. 19歳女性が7年間続く起立性頭痛と随伴症状を主訴に受診した. 脊髄MRI/MRミエログラフィーで右第4仙骨神経根袖に相当する部位に, くも膜下腔と連続する辺縁不整, 増強されない縄状水信号病変を認め, 脳脊髄液漏出症 「確実」 と診断した. 2度のブラッドパッチ後に, 起立性頭痛は消失し, 随伴症状は軽減, 脊髄MRミエログラフィーで縄状水信号病変も消失した. 髄液が神経根鞘内へ滲入, 貯留停滞後に滲出するという漏出機序が存在するかもしれない.
胎児型後交通動脈が動眼神経を圧迫し, 動眼神経麻痺をきたした症例を経験した. 症例は60歳女性, 突然の左動眼神経麻痺で発症し精査にて左内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤が発見され手術を行った. 術中所見で脳動脈瘤ではなく胎児型後交通動脈が動眼神経を圧迫しており, 動脈瘤頚部クリッピングを施行したところ後交通動脈の走行が変化し動眼神経圧迫解除や牽引, ねじれの軽減などにより, 手術直後より動眼神経麻痺は急速に改善した. まれな例ではあるが, 内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤の増大により胎児型後交通動脈の走行が変化し動眼神経麻痺をきたしたと推察された.
脳神経外科疾患に対する治療手段の多様化などにより, 開頭術者は限られた症例で効率的に手術手技を学ぶ必要性が高まっている. さらに, “働き方改革” など社会情勢が変化する中, 外科医にとっても時間生産性向上が求められている.
デジタルイラストレーションの特徴を踏まえ, 筆者らが行ってきた時間生産性, 教育効率性向上を目指した手術イラストを用いた手術教育について報告する.