てんかん患者の約3割は薬剤に抵抗性であり, 治療の選択肢としててんかん焦点の切除術が根治療法として知られている. てんかんの焦点と焦点周囲の機能野の同定を行ったうえで, 言語機能など重要な脳機能野の温存を図りつつ, 焦点を症例ごとにテーラーメードに切除する. 本稿では, 高次運動機能 (到達運動, 頭頂葉・前頭葉ネットワーク) と言語機能 (言語二重経路) に焦点をあてて, 高頻度 (皮質機能マッピング) と低頻度〔皮質皮質間誘発電位 (CCEP) によるネットワークマッピング〕を複合的に用いた 「システム」 としてのマッピング手法, そして術前脳機能マッピングから得られた知見について, 概説する.
近年, 光遺伝学やウイルスベクターなどによる回路操作技術が開発されたことにより, 脳神経回路研究が飛躍的に進んだ. これらは主に実験動物を用いたミクロレベルの回路研究であるが, ヒトを対象とした研究でも, MRIの撮像・解析技術開発が進み, ヒトの脳コネクトーム解析が盛んに行われるようになった. それにより, マクロレベルでの脳領域間回路機能の理解が進んでいるが, 全脳における神経細胞の解剖学的なつながりだけでなく, そのつながりがもつ機能的な役割を含めたネットワーク的視点での理解が, 脳の働きを理解するうえで重要である. そこで本論文では, マルチモーダルMRIによる脳領域間結合解析法について紹介する.
本稿では, 脳内情報解読の取り組みとして, 深層学習におけるキャプション生成を援用した視覚刺激の脳活動情報からの文生成手法を提案する. また, 脳機能の解明へ向けた取り組みとして, 大脳皮質における機能の1つと仮説される予測符号化において, 深層学習モデルと実際の脳活動データとの相関性を調べることにより予測符号化の仮説に対する検証を行う. また, その検証モデルを用いて脳活動データからの画像生成を行う脳内情報解読の手法を紹介する.
体性幹細胞である間葉系幹細胞を用いた再生医療の研究は, 主に脳梗塞, 脊髄損傷などを対象に, すでに国内外で臨床研究や治験が行われている. 近年われわれは, 神経と起源を同じくする神経堤由来の間葉系幹細胞に着目し, 頭蓋骨から間葉系幹細胞を樹立した. 頭蓋骨由来間葉系幹細胞は, 一般的に用いられる腸骨などの中胚葉由来の間葉系幹細胞と比較し, 神経再生治療に有利な特性があることから, 細胞治療の安全性および有効性の検証のために臨床研究を行っている. 他方, 再生医療は, 後遺症や障害を残さない根治療法を目指した新規治療法と考えられていたが, 臨床試験が進むにつれ, 幹細胞移植後のリハビリテーションの重要性の理解が進んでいる. われわれは再生医療用の歩行支援ロボットの研究開発も行っており, 自家データで細胞治療とロボットリハビリテーションの統合を進めている.
症例は30歳女性. 発症1年前より高安動脈炎に対して内科的治療を継続していた. 左手のしびれを自覚し, その後徐々に左上下肢麻痺が出現したため前医受診し急性期脳梗塞の診断となり当院へ転院搬送となった. 当院で撮影した頭部MRIで脳梗塞が拡大しており, 救急外来にてステロイドパルス療法を開始し, 血管内治療の方針となった. 右総頚動脈は完全に閉塞していたため経皮的血管形成術と頭蓋内血栓回収を行った. 術後はアスピリン, ステロイド, 生物学的製剤を投与し徐々に症状は改善, 自力歩行も可能となった. 高安動脈炎を背景とした急性期脳梗塞に対する血行再建術の報告は少なく, 本症例に文献的考察を加えて報告する.
プロラクチン産生下垂体腺腫に対してカベルゴリン (CAB) 内服加療中に妊娠した21歳女性. 妊娠判明後にCABは中止となった. 妊娠後期に両耳側半盲を認め, 高プロラクチン (PRL) 血症があり, MRIにて腫瘍内部に液面形成像と視交叉の圧排を認めた. 帝王切開術後に一期的に内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍摘出術を行った. 病理組織学的所見はsparsely granulated lactotroph adenoma (SGLA) でaggressiveな所見を認めた. 術後視野障害の顕著な改善を認めた. 本症例では妊娠による生理的変化と妊娠判明後のCAB投与中止が下垂体卒中の発症と病理組織学的にaggressiveな所見に影響を与えた可能性がある. このような症例では, 他科との連携による集学的なアプローチを用いた治療が求められる.
近年, 内視鏡手術の手術記録は動画をキャプチャーする方法で作成することが多いが, キャプチャー画像では実際の解剖を認識し難いことがある. 今回, 内視鏡下経蝶形骨洞手術の手術記録をイラストで作成し, 若手教育におけるイラストの意義を検討した. 教育的な意味合いを込めて, 構造物を立体的に描出できるよう積極的に陰影をつけ, 実際の画面では血餅などで見えにくくなっている部分はクリアにし, 小さくて見にくい部分は少し強調して描くことで, 構造物をわかりやすく表現した. 術者の意図を表現しやすい手術イラストで手術を振り返ることは, 若手医師の技術, 知識の向上につながると考える.