WHO grade Ⅱ/Ⅲ髄膜腫は治療困難である. 近年のWHO分類改定以降grade Ⅱ髄膜腫の頻度が増加した. 手術治療は, grade Ⅱ髄膜腫の無増悪生存は全摘出のほうが亜全摘出よりも優れるが, grade Ⅲ髄膜腫では全摘出の優位性はない. 術後放射線治療 (PORT) に関しては, grade Ⅱ髄膜腫では亜全摘出後のPORTは有効である. 一方近年grade Ⅱ髄膜腫全摘出後のPORTも有効とする報告が多い. 高線量照射や中性子捕捉療法を含む粒子線治療も有効と報告されているが, ともに現在臨床試験が進行中である. Grade Ⅲ髄膜腫は予後不良だが, PORTは有効である. 薬物療法の使用に関しては再発時に検討してもよいが, 臨床試験での有効性は限定的であった.
転移性脳腫瘍の診療は, 放射線治療や薬物療法の目覚ましい発展により, 急速な変化を遂げつつある. 定位放射線治療では対応可能な転移数の上限が増え, また, 従来標準とされた摘出術後の全脳照射も定位・局所照射へと移行しつつある. 薬物療法では, 特定の遺伝子異常を有する非小細胞肺がん・メラノーマ・乳がんなどの脳転移に対する分子標的治療の有効性が報告され, 免疫チェックポイント阻害剤の有用性も大規模臨床試験にて確認された. そして, このような薬物療法の進歩は, がんゲノム医療の進展と足並みを揃えて前進している. 今後, これら種々の選択肢から総合的に治療方針を策定する, 多職種でのチーム医療の必要性が高まるであろう.
神経膠腫は, 以前, 星細胞腫系腫瘍と乏突起膠腫系腫瘍に明確な境界がなく存在していた. 同様にグレードⅡ, Ⅲ, Ⅳの境界においても, さまざまな組織像を呈するため, 診断医によってかなりばらつきがあった. 詳細な多数のデータ解析によりIDH遺伝子の変異を有するグレードⅡ/Ⅲ神経膠腫はほぼ全例がTP53遺伝子の異常か1p/19q共欠失のどちらかを有し, 両方を有しているのは皆無であることが明らかになっている.
IDH変異型ではグレードⅡとグレードⅢの予後に変わりがないという意見が多い. そのためグレードⅢはグレードⅣと同じ標準治療が施されるべきかどうかは今後の課題である.
一方で変異IDH1阻害剤の開発が進められており, グレードⅡ/Ⅲ神経膠腫の術後治療の選択肢になる可能性が期待されている. 本稿では開発中の変異IDH1阻害剤を紹介する.
膠芽腫細胞にはコア経路異常を軸として, proneural, classical, mesenchymalのサブタイプがあるが, 遺伝子・染色体異常と腫瘍周囲の微小環境により可塑性を有する. また, 再発時には膠芽腫サブタイプがスイッチされ, 異なった性質を獲得することも多い. 今後, 現在の標準治療に免疫療法などの新たな治療が加わってくると期待される. 膠芽腫細胞そのものの性質を理解することも必要だが, 腫瘍微小環境を形成する免疫細胞や血管内皮細胞, 神経細胞などと膠芽腫細胞との関係を, 治療前/治療後あるいは初発時/再発時などのように時間軸を考慮し, 縦断的に研究することが必要となろう.
頚部頚動脈内膜剝離術における頚動脈露出操作中の機械的刺激によって出現するartery-to-artery embolismの病態を解明することを試みた. Emboliが脳虚血巣を作るメカニズムとしては, 塞栓子が飛んだときに血流速度が速いと虚血巣は作らないが, 血流速度が遅いと虚血巣が形成されるwash-out仮説と, 側副血行路の有無であることが示唆された. Emboliが頚動脈狭窄部から末梢に飛ぶメカニズムとしては, 頚動脈プラークの性状に加え狭窄部の壁せん断応力が関連していることが示唆された.
内視鏡を用いた脳内出血の外科的治療では開頭手術よりも患者負担の軽減が期待されている. しかし, 術野内で操作できる範囲が限られているため, 止血が不十分となり後出血を引き起こす可能性がある. ヒトトロンビン含有ゼラチン使用吸収性局所止血材であるFloSeal® (バクスター) は局所の有効な止血が期待できる製品であり, 合併症の報告が少ない. 今回, 内視鏡下血種除去術に同材を使用した症例で囊胞性病変をきたした症例を経験した. ゼラチン物質の残存により炎症反応を惹起し, 血種腔内で囊胞性の貯留物が発生すると推察された. 同材を使用する際には入念な洗浄を心がけ, また状況に応じては使用の適否について慎重な判断が必要と考えられた.