急性期脳梗塞に対する再開通療法として, 静注血栓溶解療法 (intravenous thrombolysis : IVT) と機械的血栓回収療法 (mechanical thrombectomy : MT) は標準的治療となったが, さらなる転帰改善を目指し, さまざまな取り組みが進んでいる. IVTではテネクテプラーゼの導入が進み, MTでは広範囲虚血領域を有する例や遠位中血管閉塞例を対象とした試験が進行中である. また, IVTとMTの併用療法, MTと神経保護薬の併用療法, MTを迅速に行うための診療体制についてもエビデンスが蓄積されている. これらの結果により, 再開通療法のさらなる進歩が期待される.
頭蓋内血管狭窄病変は多様な病態に起因する. 動脈硬化性病変において抗血栓療法, 抗動脈硬化治療の進歩は内科治療の成績向上をもたらしている. バイパス術においては定量的脳血流評価と低い周術期合併症率が重要である. もやもや病では虚血型, 出血型ともに新たな知見が報告され手術適応がより具体化される可能性がある. 脳卒中治療ガイドライン2021では小児の脳血管障害の項が新設されている. Focal cerebral arteriopathyはガイドラインにも記載されており, 小児の動脈性虚血の原因として重要である.
頚動脈狭窄症に対する治療に関してはこれまでに多くのrandomized controlled trial (RCT) が報告されてきた. 内科的治療に対する頚動脈内膜剝離術 (carotid endoarterectomy : CEA) の優位性が示された後に, CEAハイリスク症例に対する頚動脈ステント留置術 (carotid artery stenting : CAS) の非劣勢が示された. さらに最近では無症候性病変を対象としたRCTが進行している. 頚動脈病変の治療リスクとしては高度脳循環予備能低下例における治療後の過灌流症候群や不安定プラーク例における術後血栓塞栓合併症などが知られている. 前者に対してはCEAにおいてはシャント使用による虚血時間の短縮, CASにおいては段階的血管形成術による抑制効果などが報告されている. 後者に対してはMRI, CT, USなどの種々のプラークイメージングの有用性が報告され, さらに最近ではoptical coherence tomography (OCT) やnear infrared spectroscopy (NIRS) を用いた新たなプラーク性状評価の報告が示されている. また, 新規医療機器としてマイクロメッシュステントが本邦においても導入され, CAS治療における血栓塞栓合併症低減効果が得られることが示唆されており, 今後の成績向上が期待されている. また内科的治療に関しては, 血圧や生活習慣リスクの改善, 抗血栓薬やスタチンその他の薬物治療も進化してきている. 今後もCEA, CAS, 内科的治療それぞれの合併症を最大限軽減するさらなる工夫とともに, 年齢や既往などの疾患背景や病変の病態に応じて最良の治療選択を模索していくことが求められている.
促通反復療法は脳卒中片麻痺の機能回復を図るための新たな運動療法で, 促通手技による意図した運動の実現 (Hebb則) とその集中反復 (使用頻度依存性の神経の可塑的変化) によって運動性下降路の再建, 強化を目指す. 促通反復療法の有用性はランダム化比較試験などの臨床試験によって報告され, さらに神経筋電気刺激や振動などの物理刺激との同時併用が機能回復を促進することを報告してきた. われわれはこれらの知見を活かしたリハビリテーションロボットを医工連携チームによって開発し, さらに産学連携により 「麻痺側上肢のリーチング運動」 や, 「前腕の回内回外運動」 の機能回復を目的とした製品が上市された. 今後, 麻痺肢への訓練量増大が期待される.
生後1カ月時に脳室腹腔シャント歴のある19歳の男性が頭痛と嘔吐を主訴に受診した. 頭部CTで水頭症の悪化を認め, バルブ圧の変更ができなかったためシャント機能不全を疑い, バルブおよび脳室側カテーテルのみの再建術を行ったが, 症状は改善しなかった. シャント造影検査を行うと鎖骨上でカテーテルがΩ状に屈曲していた. 再手術にて屈曲したカテーテル周囲の石灰化組織を除去し, カテーテルを直線化することで症状は改善した.
カテーテルから遊離した成分により皮下組織の炎症が惹起されると, 周囲の皮下組織に石灰化が進行することがある. 本症例は腹腔側カテーテルの交換は行わず, 周囲組織の除去のみで良好な結果が得られた.
症例は77歳女性. 3年来増悪する頭痛が主訴であった. 右奥歯が締め付けられる感覚と分泌低下を示唆する口腔内乾燥が認められた. 頭部造影MRIで右翼口蓋窩~右側頭窩に囊胞性の腫瘍が指摘された. 経鼻的な前篩骨洞方向へのアプローチに加え, 上顎洞経由の犬歯窩アプローチにて腫瘍亜全摘を行った. 術後, 口腔内の分泌低下は残存したが, 頭痛や奥歯の違和感は改善し, 新たな神経症状も認められず, 経過良好であった. 病理組織診断は神経鞘腫であり, 発生母地からvidian nerve schwannomaと推測された. 翼口蓋窩腫瘍に対する内視鏡を用いたアプローチは侵襲が小さく治療戦略として有用であると考えられた.
近年, さまざまな診療方法の発達に伴い1人の術者が経験できる直達術の機会は減少傾向にある. このような状況において, 効率よく安全に手術手技を伝えるためには症例経験の共有が重要である. われわれの施設では1つの手術症例をセッティングから閉頭, また術前検討や術後の神経学的所見に至るまで多角的 (映像・音声・各種モニタリングなど) に記録し編集することで, 正確かつ効果的に手術経験を共有している (マルチビューイング手術映像記録法). 同方法は一般に普及した情報技術を活用することで実施可能であり, また特別な知識も必要とせず誰にでも作成可能である. またタブレット端末との相性もよいため手術学習においても非常に有効な方法である.