眼窩は頭蓋内と顔面との間に位置するがゆえに, その眼窩内に発生する腫瘍性病変は視機能や嗅覚, 脳などの中枢神経機能のみならず, 顔面の表情といった美容にも影響を及ぼし得る疾患となる. これに腫瘍学からの観点が加わるため, きわめて複雑な病態を呈する. 本疾患に対しては, 眼科, 耳鼻咽喉科, 形成外科などの複数の診療科がそれぞれの立場からの介入を提案しており, まさに境界領域となり, 個々の症例に応じた対応が求められる疾患群となる. 本稿では, 脳神経外科医が日常診療で遭遇する眼窩内腫瘍の基礎的な知識と手術手技について示し, 症例ごとに適切な医療を提示可能なよう総括した.
視機能障害を呈する大型腺腫やプロラクチノーマ以外の機能性腺腫においては外科治療 (主に経蝶形骨洞手術 : TSS) が第一選択となる. HardyによりX線透視装置と手術用顕微鏡を併用したTSSが確立され, 今日まで広く行われている. 1990年代から内視鏡を用いたTSSが普及し, 近年ではこの手術法が主流となっている. 従来は開頭術による摘出術を選択していた巨大腺腫の症例においても拡大TSSが応用されるようになったが, すべての症例で可能なわけではなく, 現在でも開頭・経鼻同時手術も含めて開頭術が必要となる症例もある. 本稿では, 下垂体腺腫の外科治療の実際と今後の展望について 「グローカル」 な観点から概説する.
われわれの提案するヘッドアップサージェリーは, 外視鏡と内視鏡を用いて, 視軸の自由度が高く, 視野角の広い内視鏡の利点を生かし, 視点を術野の外部, 内部で切り替え, 適切な視野を得て, 術者とscopistが息を合わせて手術を進行する方法である. 必要最小限の皮膚切開, 開頭にてアプローチは外視鏡で行い, 深部や死角の操作が必要な場面で内視鏡に切り替える. Scopistがスコープの位置, ズーム, フォーカスを微調節し, 器具と内視鏡との干渉を回避し良好な視野を確保する. 視軸の自由度により, 術者, 患者の姿勢の制限は少ない. 内視鏡・外視鏡の特徴を活用し, 死角と手術侵襲を最小限に抑えた脳神経外科手術を行うことができる.
トルコ鞍近傍を発生母地とする髄膜腫の総称が傍鞍部髄膜腫であり, そのうち本稿では傍鞍部に発生する前床突起部髄膜腫について論じる.
前床突起部髄膜腫の最も多い症状は視機能障害で, 頭痛が次に続く. 治療には手術と定位放射線治療があり, 第一選択は摘出術である. 手術はpterional approachが基本で, 視神経の早期減圧が重要となる. 定位放射線照射にはガンマナイフ治療と寡分割照射があり, いずれも良好な腫瘍コントロール率となっている. 高悪性度髄膜腫に対する今後の治療として, ホウ素中性子捕捉療法に期待が寄せられている.
近年脳静脈洞血栓症 (cerebral venous sinus thrombosis : CVST) の原因として, 遺伝性素因や外傷などに加え, 貧血がリスク因子となることが報告されている. また, これまでの報告は単一のリスク因子に関するものが多く, 複数のリスク因子の関連性については不明な点が多い. 今回経口避妊薬の内服中に大球性貧血を合併し, 脳皮質下出血で発症したCVSTを経験した. 本症例ではビタミンB12欠乏に関与した凝固異常が発症に関与したと思われ, 抗凝固療法に加え貧血治療を行いCVSTの改善を認めた. CVSTは複数のリスク因子を有する場合もあり, それぞれに対する検索と治療が必要であると考えられた.
刺激装置 (IPG) 交換術中に偶発的に発見された乳がん症例を経験したため, 文献的考察も含め報告する. 60歳代女性. 進行期パーキンソン病に対して両側視床下核脳深部刺激療法 (DBS) が施行された. 3.5年後, IPGの電池消耗のため交換術を施行. 術中, 右胸部のIPG留置部内に約1cmの硬結を触れたため, 生検を行い病理検査に提出し新しいIPGを留置した. 病理検査の結果, 浸潤型乳管癌の診断となり, 後日, 右乳房全摘出およびセンチネルリンパ節生検を行い, 同時にIPGを左側へ再留置した. 術後分子標的薬による治療と化学療法を行い経過観察中である. 乳がん好発年齢のDBS後の患者では乳がん発症の可能性を考慮し, 乳がんに対する適切な検診方法を考慮する必要がある.