脳神経外科ジャーナル
Online ISSN : 2187-3100
Print ISSN : 0917-950X
ISSN-L : 0917-950X
最新号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集 悪性脳腫瘍1
  • 木下 学
    2024 年 33 巻 2 号 p. 90-95
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

     WHO脳腫瘍分類第5版は神経膠腫の診断に分子分類を深く取り入れた. これは神経膠腫の診断において分子分類を一部導入したWHO脳腫瘍分類第4版からの大きな改訂である. さらにWHO脳腫瘍分類第5版は, がん種にかかわらず同一の悪性度分類を採用する従来の悪性度分類の考え方から, がん種ごとに異なる悪性度分類を採用するという考え方に変わった. こういった診断における根本的な考え方の変化は, 個々の患者に対する治療戦略を立てるうえで大きな影響を及ぼすものである. また, 2023年6月4日に発表された変異型IDHを標的とした分子標的薬の登場により, 神経膠腫に対する治療概念は未知の領域に足を踏み入れつつある.

  • 小林 啓一, 永根 基雄
    2024 年 33 巻 2 号 p. 96-104
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

     膠芽腫は, 手術・放射線治療・化学療法による集学的治療にもかかわらず早期の再発が免れず, いまだきわめて予後不良な疾患である. ベバシズマブ療法は再発膠芽腫に対してみなしの標準治療となっているが, ベバシズマブ投与後の再発治療は確立していない. 近年, 初発・再発膠芽腫に対して従来の治療モダリティに加え, TTFieldsと腫瘍溶解性ウイルス療法が承認された. また, がんゲノムプロファイリング検査が2019年6月に保険収載されたことで, きわめて少ないながら未承認の分子標的治療薬の恩恵を受けられる事例も散見される. 再発膠芽腫に対してテモゾロミド用量強化療法を含めた新規治療の開発が急務である.

  • 川端 信司, 宮武 伸一, 平松 亮, 野々口 直助, 古瀬 元雅, 鰐渕 昌彦
    2024 年 33 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

     高悪性度髄膜腫は局所再発率が高く, 治療が難しい希少腫瘍である. 摘出手術は有効であるが効果は限定的で, 十分な有効性を示した薬物療法はない. そのため術後補助治療は放射線治療が主体となり, 50~60Gy以上のX線分割外照射が効果的とされている. 摘出後早期の照射も勧められ, 強度変調放射線治療 (IMRT) の安全性と有効性が示されている. 再発時の治療は難しく, 薬物療法の試験をレビューした報告からは再発からの6カ月無増悪率が26%と示された. 定位的照射や粒子線治療が試されているが, 無増悪生存期間が13.7カ月と報告されたホウ素中性子捕捉療法 (BNCT) による治療が注目され, 国内外から期待が寄せられている.

  • ―コンセンサスとコントロバシー―
    荒川 芳輝
    2024 年 33 巻 2 号 p. 113-121
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

     中枢神経原発胚細胞腫瘍は5つの組織型とその混合型がある. コンセンサスとして, ジャーミノーマは化学療法に全脳室/全脳照射23.4Gy, 悪性胚細胞腫瘍は化学療法に全脳全脊髄照射と局所照射 (50~59.4Gy) の治療である. コントロバシーとして, ジャーミノーマは10年overall survival (OS) は約90%と良好であるが, 晩期再発や晩期有害事象が課題である. 悪性胚細胞腫瘍は10年OSが約60%と不良で晩期有害事象も課題である. そこで, 日本小児がん研究グループ脳腫瘍委員会は, 2022年に本疾患を対象に化学療法併用放射線治療の低侵襲化に関する臨床試験を開始した.

温故創新
総説
  • 内野 晴登, 長内 俊也, 藤村 幹
    2024 年 33 巻 2 号 p. 128-133
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

     急性期脳梗塞に対するrt-PA静注療法は, 機械的血栓回収療法が普及しつつある現在においても, 標準治療の1つとして重要である. 一方, 日本では2005年の認可後20年弱が経過するが, その実施率は欧米諸国よりも低く, 地域格差もいまだ存在するのが現状である. 脳卒中専門医の不足する地域では遠隔診断支援を用いたdrip and shipといった診療体制が, 実施率向上において一定の効果を上げることが国内外で報告されてきた. その体制構築には地域格差があり, われわれが実施した北海道の脳卒中基幹施設に対するアンケート調査では, drip and shipの実施率が低いこと, 広大な面積をもつ同地域での遠隔診断支援の必要性が明らかとなった. 近年, 汎用性の高い遠隔診断用アプリケーションが脳神経外科領域でも普及してきている. それらを活用した遠隔診断支援によるrt-PA静注療法の実施率の向上, 脳卒中医療の均てん化に対する期待が高まっている.

症例報告
  • 小柳 泉, 千葉 泰弘, 今村 博幸
    2024 年 33 巻 2 号 p. 135-141
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

     C1-C2間のbow-hunter症候群2例に対して, 頚椎前方アプローチでC2横突孔開放による椎骨動脈の除圧を行った. 2例は, 70代と80代の女性で, 左椎骨動脈の閉塞があり, 頚部を左に回旋することによって眼前暗黒感とめまいが出現した. 手術は, 通常の頚椎前方アプローチで, C3からC2へ右横突起を露出し, 横突起間の椎骨動脈をドップラー血流計で確認後に, C2右横突孔の前壁をドリリングして開放した. 術後は, 頚部回旋による症状は消失した. C1-C2の椎骨動脈の解剖構造を考えると, 後方からのC1横突孔開放よりは, 前方アプローチによるC2横突孔開放がより確実に回旋性の椎骨動脈狭窄を防ぐことが可能である.

  • 長坂 卓也, 津本 智幸, 今泉 陽一, 河面 倫有, 川内 雄太, 水谷 徹
    2024 年 33 巻 2 号 p. 143-147
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

     今回われわれは, 特発性頭蓋外右内頚動脈解離を発症し, 2年後同部位に動脈瘤をきたした症例に対してステント併用コイル塞栓術を施行したので, 文献的考察を加え報告する. 症例は44歳男性, 右頚部痛を主訴に当院外来を受診し, 特発性頭蓋外内頚動脈解離と診断された. 急性期は内科的治療を行い, 神経脱落症状の出現なく経過したが, 2年の経過を経て無症候性に解離部に動脈瘤を認めたため, ステント併用コイル塞栓術を施行した. 動脈解離寛解後, 数年の経過を経て動脈瘤を形成したという報告は少ない. 慢性経過で動脈瘤を形成する可能性があるため, 長期的な経過画像フォローが必要である.

脳神経外科診療とIT
  • 内田 和孝, 河野 淳一, 荒木 勇人, 堀江 信貴, 吉村 紳一
    2024 年 33 巻 2 号 p. 149-151
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル オープンアクセス

     近年, インターネットなどのインフラ整備の充実やパソコンやスマートフォンなどのデバイスの急速な普及により, 世界規模で情報技術 (information technology : IT), 情報通信技術 (information and communication technology : ICT) の発展が著しい. わが国では, 2000年にIT基本法が制定された後, e-Japan戦略により, IT利用・活用重視が実現された. 2010年から, e-Japan政策により, いつでも, どこでも, 誰でもITの恩恵を実感できる社会が実現され, 2021年にはデジタル庁が発足し, さらなるデジタル化が推進されている.

     本稿では, 脳神経外科診療分野においてIT, ICTが活用されている事例として, われわれの開発した病院前脳卒中診断スケールの活用を紹介する.

feedback
Top