認知心理学研究
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3 巻, 2 号
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原著
  • 須藤 智, 兵藤 宗吉
    2006 年 3 巻 2 号 p. 149-156
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,作動記憶における視覚的リハーサルと空間的リハーサルのメカニズムの分離可能性を明らかにするために,空間的リハーサルを妨害することが報告されている二次課題が視覚的リハーサルに対して妨害効果を示すかどうかを二重課題法を用いて検討した.実験Iでは,視覚パターンテストの空間・運動性成分が含まれる再生課題に対する空間タッピング課題と視線移動課題の妨害効果を検討した.その結果,二つの二次課題は共に妨害効果を示した.実験IIでは,一次課題をより視覚的な課題とするために Phillips & Christie (1977a,b) の手続きに従って,視覚パターンテストの再認課題に対する空間タッピング課題と視線移動課題の妨害効果を検討した.その結果,それら二つの二次課題は共に,一次課題に対して妨害効果を示さなかった.実験I・IIの結果を比較すると,視覚的リハーサルに対して空間タッピング課題と視線移動課題は妨害効果を示さないことが明らかになった.空間的リハーサルを妨害する二次課題が視覚的リハーサルを妨害しない結果からは,視空間的リハーサルは視覚的リハーサルと空間的リハーサルに区分される可能性があるとともに,異なるメカニズムである可能性が示唆された.
  • 大薗 博記, 吉川 左紀子, 渡部 幹
    2006 年 3 巻 2 号 p. 157-166
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    進化論的枠組みで顔の再認記憶について検討したこれまでの研究は,人は協力者として呈示された顔より非協力者として呈示された顔をより再認しやすいことを明らかにした(Mealey,Daood,& Krage,1996; Oda,1997).しかし,顔を憶えているだけではなく,その人物の協力性までも記憶されているかは明らかにされてこなかった.本研究では,まず60人の実験参加者に,未知顔の写真を1回限りの囚人のジレンマ・ゲームにおける (偽の) 選択 (協力/非協力) とともに呈示した.そして1週間後,元の写真に新奇写真を混ぜてランダムに呈示し,その顔を1週間前に見たか否かと,その人物と取引したいか否かを尋ねた.その結果,顔の再認課題では,先行研究とは一貫せず,協力者と非協力者の写真は同じ程度に再認された.一方,協力者に対して非協力者に対してよりも,より「取引したい」と答える傾向があった.興味深いことに,この傾向は憶えられていた顔に対してだけでなく,憶えられていなかった顔に対しても見られた.この結果は,潜在的記憶が協力者と非協力者を見分けるのに寄与していることを示唆している.
  • 渡邊 伸行, 鈴木 竜太, 山田 寛
    2006 年 3 巻 2 号 p. 167-179
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究では,表情認知に関わる顔の構造変数について検討を行った.従来の線画表情図形を用いた研究では,顔の構造変数として,“傾斜性”,“湾曲性・開示性”といった眉・目・口の相関的変位構造を示す二つの変数が見出されてきた.しかしその後の実際の表情画像および線画を用いた検討から,構造変数は上述の2変数ではなく,三つの変数である可能性が示された.この問題について検証するため,本研究ではYamada,Matsuda,Watari,& Suenaga (1993) の実画像研究に基づいて新たに生成した,実際の表情と同じ可変性を持つ102枚の線画を用いて,基本6表情(喜び,驚き,恐れ,悲しみ,怒り,嫌悪)のカテゴリー判断実験を実施した.線画の眉・目・口の特徴点変位を示すパラメータ値を説明変数,実験参加者のカテゴリー判断の一致率を反応変数とする正準判別分析を実施したところ,“眉・目の傾斜性”,“口部傾斜性”,“湾曲性・開示性”と命名できるような,実画像研究 (Yamada et al.,1993) とほぼ同様の三つの構造変数が見出された.この3変数で構成される視覚情報空間におけるカテゴリー判断の中心傾向を示す点を比較したところ,線画と実画像で基本6表情の相対的な位置関係が類似していることが示された.以上の結果から,表情認知に関わる構造変数は三つであり,線画と実画像で共通してこれらの変数に基づいて表情の判断が行われていることが示された.
  • 永井 淳一, 横澤 一彦
    2006 年 3 巻 2 号 p. 181-192
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    物体認知における色の役割を巡ってはこれまで議論が続けられてきた.Tanaka & Presnell (1999)は,物体と特定の色との結び付きの度合い—色識別性が重要な要因であると主張した.すなわち,色識別性が高い物体(例:バナナ)の認知においては色が大きな役割を持つのに対して,色識別性が低い物体(例:テーブル)の認知では色は役割を持たないという主張である.しかし,過去の研究結果からは,自然物(例:果物・動物)の認知においては人工物(例:道具・家具)の場合に比べて色の有益性が高いことも示唆されている.本研究では,色の影響と,色識別性,カテゴリーの関係について検討を行った.物体分別課題を用いた4つの実験の結果,物体のカテゴリーに関係なく,色識別性の高い物体の認知においては色が大きな役割を持つこと,しかし同時に,色識別性の効果は実験文脈に依存することが示唆された.
  • 陳 雅, 佐藤 浩一
    2006 年 3 巻 2 号 p. 193-203
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    ある対象について思考を抑制しようとすると,かえって侵入的思考が増加するという,逆説的な効果が報告されている.本研究は,従来の研究よりも生態学的妥当性を高めた条件下で,逆説的効果を検討した.まず51名の参加者に「腫瘍問題」を解いてもらった.その後の抑制段階で,抑制群の参加者にはその内容を抑制するように,また非抑制群の参加者には自由に思考するように教示を与えた.続く自由思考段階では,単調作業をする群と静かに座っている群に分けられ,全員自由に思考するよう教示を与えた.各段階において参加者は腫瘍問題に関する思考が侵入する都度,用紙にチェックした.また各段階が終了した時点で,抑制対象の侵入と制御困難感を測定する項目に回答した.単調作業の有無にかかわらず,抑制教示を与えられた群は非抑制群に比べて侵入的思考を多く経験し,侵入と制御困難感の増加を示した.さらに約1週間後にも,抑制の効果は有意な傾向を示した.また腫瘍問題の偶発再生を求めたところ,抑制群の参加者は非抑制群の参加者と比べて成績が低い傾向が見られた.参加者の内観報告に基づいて,侵入的思考の多様性が論じられた.
特別寄稿
  • 戸田 正直
    2006 年 3 巻 2 号 p. 205-215
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    筆者が開発してきたアージ理論を,感情システムの基本構造と,感情システムが働くのに不可欠な認知システムの活動様式に話を絞って概観を試みる.この二つのシステムは心というソフトウエアの重要なサブシステムであって,一応別システムであるが,ともに協調しながら,心が動物から人間へ野生の環境の中で生き延びソフトウエアとして進化してくる間,重要な役割を演じてきた.本稿ではまず感情システムの基本構造を論じたうえで,感情を論じるうえで必須な認知システムの働き,特に思考とか想像とかと呼ばれる働きを概説する.そういう議論の間に,「今ここ」効果とか,アテンショントラップとか,認知による感情の制御とか,考えるための道具としてのダイナミックスキーマとか,想像とか,言語とか,その他,人間,動物を含めて,心というソフトウエアの働きを理解すために不可欠な諸概念もともに論じる.
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